プジョー508SW GT BlueHDi(FF/6AT)
ディーゼルに選ばれたワゴン 2016.08.25 試乗記 2リッターのクリーンディーゼルエンジンが搭載された、プジョーのフラッグシップワゴン「508SW GT BlueHDi」に試乗。「GT(グランドツアラー)」の称号が与えられた新グレードの乗り味やいかに?プジョーディーゼルの集大成
ワゴンはセダンやハッチバックより、ディーゼルエンジンが似合う。そう考えるのは僕だけではないだろう。長い車体に人も荷物もたくさん載せた重いボディーには、 低回転から粘り強いトルクを発揮するディーゼルがありがたいし、一瞬のレスポンスよりもロングランでの燃費が重要になるというシーンも、ディーゼルのほうがふさわしい。
プジョーはこの組み合わせ、つまりディーゼルワゴンをいち早く送り出したブランドだ。世界で初めてディーゼル乗用車を送り出したメルセデス・ベンツが、1976年発表のW123系コンパクトクラスまで自前のワゴンを用意しなかったためもあるけれど、1958年に「403」に設定されたプジョー初のディーゼル乗用車は、まずワゴンが用意され、セダンの登場は翌年だったのだ。
403のワゴンは、セダンよりホイールベースが長く、2列シートのほか3列シート仕様もあった。前者は商用も兼ね備えており、後者は現在のミニバンに近い位置付けだった。こうした状況を考えても、セダンに先駆けてディーゼルが設定されたことに納得する。
さらにプジョーは、現在の乗用車の主流を占める横置きエンジン前輪駆動とディーゼルエンジンの組み合わせを最初に実用化したブランドでもある。同社初の前輪駆動車「204」に1967年に搭載されたもので、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」へのディーゼル搭載より10年近く早い。このときも最初に積まれたのはワゴンだった。
今回取材した508SW GT BlueHDiは、403をルーツとする、ディーゼルワゴンの最新型である。駆動方式は204で実用化された、横置きエンジン前輪駆動を採用する。プジョーのディーゼル経験の集大成と言えそうだ。
日本での価格はバーゲンプライス
ディーゼルエンジンを積んだ車種にGTの2文字が与えられていることに、違和感を抱く人もいるだろう。でもプジョーをはじめとする、最近のヨーロッパ車のラインナップを見れば、納得できることである。
508と同時に日本に導入された「308」もそうだが、近年のプジョーはガソリンよりもディーゼルのほうが排気量が大きい。308ではガソリンが1.2/1.6リッターなのに対してディーゼルは1.6/2リッター、508ではガソリン1.6リッターに対してディーゼルは2リッターとなっている。
ガソリンエンジンの排出ガス規制が先進国では一段落しているのに対して、ディーゼルのそれは先行する日米に合わせるように、欧州の規制レベルが厳しくなりつつある。508もパスした現行ユーロ6で、日米にほぼ並んだ状況だ。ただここまでクリーンなディーゼルエンジンを作るとなると、さまざまな後処理装置を装着しなければならず、コストアップにつながる。
プジョーも最新のBlueHDiでは、酸化触媒、彼らが世界で初めて実用化したDPF(ディーゼル微粒子フィルター)に加え、アドブルーと呼ばれる尿素水溶液を用いるSCR(選択還元触媒)を用いて、有害ガスの排出を可能な限り抑えている。こうしたデバイスは当然ながら価格に転嫁される。
そこでプジョーはガソリン車は低価格、ディーゼル車は高性能と、ポジションを明確に分けた。508がデビューした頃からそうだった。このサイトではスペインで行われた国際試乗会での試乗記も掲載しているけれど、そこにはすでに、ディーゼル車の最高性能版がGTを名乗ったことが記してある。
なのに日本での価格は464万円と、ガソリン車のSWの上級グレード「グリフ」とほぼ同じだ。これは間違いなく戦略的価格であり、バーゲンプライスである。
熟成を重ねたワゴン
外観はフロントフェンダーにGTのロゴが加わり、ガソリン車では16/17インチだったホイール/タイヤが18インチになっていることが目立つ程度。デビューから5年を迎えたプロポーションは相変わらず美しい。
インテリアは今となってはシンプル。過剰な装飾はカッコ悪いというフランス流センスが表れた結果かもしれない。GTであることを示す赤いステッチの色調も落ち着いていて、真のオシャレは目立つことではないことを教えられる。
しかもキャビンはこのクラスのワゴンとしては依然として広い。後席は身長170cmの僕なら足が組めるほどだ。しかもGTに標準装備されるガラスルーフのおかげで、背の低いワゴンボディーらしからぬ開放感が味わえる。
車両重量は1700kgと、ガソリン車より100kg以上重い。でもガソリン車では24.5kgmだった最大トルクが40.8kgmと倍近くになっているので、力不足などあろうはずがない。いかなる場面でもアクセルぺダルに少し力を込めるだけで、後ろから巨大な力で押されるように、ぐいぐい速度を上乗せしていく。
しかも扱いやすい。最大トルクの発生回転数よりさらに下、1500rpmあたりからもスルスル加速していける柔軟性を併せ持っているのだ。プジョーのディーゼル経験の豊富さを実感する。組み合わせられるトランスミッションが、エンジントルクの段差をならしてくれるトルコン式ATであることも貢献しているだろう。
音はアイドリングでこそディーゼルであることを伝えてくるものの、走りだすと良い意味でそれを感じない。100km/h巡航での回転数は1600rpmぐらいなので、平穏そのものだった。
プジョーらしい懐の深い走り
GTのホイール/タイヤは18インチと、16/17インチのガソリン車よりインチアップしてある。さらにサスペンションは、フロントがガソリン車のマクファーソンストラットから、先代にあたる「407」にも使われたダブルウィッシュボーンになっている。この点も5年前の国際試乗会のときからそうだった。GTだけは大きなエンジンとトルクに対処してダブルウイッシュボーンを用いたのだ。
こうした内容がもたらす乗り心地は508としては固めだが、プジョーらしいしなやかさは健在で、小刻みな揺れは巧みに抑えられており、落ち着いて過ごせる。フランス車ならではのシートの優しさももちろん貢献している。このまま数百km走り続けられそう、と思ってしまったほどだ。
ハンドリングは、このクラスのセダンとしては軽快感が目立つガソリン車に比べると、ノーズの重さを感じる。でもペースを上げていってもタイヤが鳴いたりはせず、プジョーらしい粘り腰を発揮しながら曲がっていく。なぜGTだけダブルウイッシュボーンを採用したのか、懐の深さで理由が分かった。
残念なのは、運転支援システムが通常のクルーズコントロールぐらいと、現代のこのクラスの水準に達していないことだろう。ただ508SW GTを走らせていると、クルマ自体の快適性能が高いので、先進装備を備えた一部のライバルより、むしろ楽に遠くまで行けそうな気持ちになる。ディーゼルだからお財布にも優しいはず。長旅で真価を発揮しそうなキャラクターは、まさにGTだった。
(文=森口将之/写真=尾形和美)
テスト車のデータ
プジョー508SW GT BlueHDi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4830×1855×1505mm
ホイールベース:2815mm
車重:1700kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:180ps(133kW)/3750rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)235/45R18 98W/(後)235/45R18 98W(ミシュラン・プライマシーHP)
燃費:18.0km/リッター(JC08モード)
価格:464万円/テスト車=473万1800円
オプション装備:パールペイント(9万1800円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2762km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:112.0km
使用燃料:10.7リッター(軽油)
参考燃費:10.5km/リッター(満タン法)/11.4km/リッター(車載燃費計計測値)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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