プジョー508SW GT BlueHDi(FF/8AT)
フランス車の正道 2020.01.13 試乗記 欧州Dセグメントに属する、プジョーの最新ステーションワゴン「508SW」。グループPSAの新しいフラッグシップモデルは、快適な乗り心地と限界性能の高さを両立する、今日におけるフランス車の完成形ともいうべきクルマに仕上がっていた。進むべき道を見つけたか
今から4年半ほど前、webCGの「シトロエンC4」の試乗記で、私は「PSA(プジョーシトロエン)にとって、両ブランドの差別化は永遠の課題」などと書かせていただいた。
プジョーがシトロエンを傘下におさめたのが1976年。以降、1990年代までは両ブランドで基本骨格をつくり分けたりもしていた。しかし、21世紀に入るとプラットフォームの共用化を避けられなくなり、デザインや乗り味における区別があいまいになってきたのは正直なところだった。ひとつのプラットフォームには本来スイートスポットはひとつしか存在しないはずで、意図的に差別化しようとするほど、どちらか(もしくは両方)の味つけに無理が生じるものだからだ。
それでも、PSAでは数年前から、よりよいブランド戦略に向けた胎動がはじまっていた。たとえば、2012年の「208」から、プジョーにのみ独特の超小径の異形ステアリングホイールが与えられるようになった。インターフェイスの要であるステアリングが変われば、シャシーやパワートレインはまったく同じでも、乗り手の印象は大きく変わる。良くも悪くも効果は絶大である。
対するシトロエンでは2014年に「C4カクタス」が発売された。知っている人も多いように、昨今のシトロエンはスニーカーなどのスポーツ用品を思わせる独自のデザインの構築に成功しているが、その元祖となったのがC4カクタスだ。そしてDSをプジョーやシトロエンの上をいく高級ブランドとしてスピンオフさせたのも、これと同時期である。
それにしても、今回508SWに乗って目からウロコが落ちた気持ちがした。webCGではつい最近もシトロエン最新の「C5エアクロスSUV」や新型DSである「DS 3クロスバック」に試乗しているが、この508SWでトドメを刺された思いである。シトロエンやDSと同じく、プジョーもまた、ゆく道を“見つけた感”がアリアリなのだ。
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PSAにおける事実上のフラッグシップ
508は現在のPSAでのフラッグシップといえる。しかも、今回の試乗個体は5ドアサルーンより全長が長く価格も高いSWに、PSAでもっとも高性能なディーゼルを積んでいる。欧州には出力がさらに高い225PSの1.6リッターガソリンターボがあるものの、最大トルクでは当然ながらディーゼルが有利。トータルではこの「BlueHDi」が現時点でPSA最強のパワートレインといっていい。
いずれにしても、最新のプジョーがデザインや品質面で進むべき道をはっきり見つけたことは、世界的にヒット中の「3008」に「5008」、そしてこの508を見れば即理解できる。
たとえば、インテリアデザインは温かみのあるシトロエンとは好対照にして、都会的なオシャレ感(笑)の炸裂っぷりではDSと双璧である。クロームメッキを多用するDSに対して、鍵盤風センタースイッチとともにピアノブラックパネルを効果的に使うのが、プジョー流ということらしい。また、各ブランドを象徴するグラフィックモチーフとして、シトロエンが丸みを帯びた四角形、DSがひし形を使うのに対して、プジョーは六角形である。
さすがフラッグシップだけに各部の素材や装備類も充実する。ダッシュボードやドアトリム、センターコンソールのエッジなど、乗員の体が実際に触れる部分はほぼすべて柔らかい触感の素材があしらわれている。
508が目指している市場はおそらく「BMW 3シリーズ」や「アウディA4」のそれだろうが、なるほど内外の質感は大きく引けを取らない。意地悪に観察すれば、内装の建てつけ精度や、ドアポケットやペダルなどの細かい素材やつくりなどではBMWやアウディにおよばない面はある。しかし、PSAで最上級となる性能と内容でほぼ600万円という価格は、ドイツ勢よりは明らかに割安である。
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最上級モデルにふさわしい設計と装備
508のような背の低い伝統的な形態のクルマをつくるのも、現在のPSAにおけるプジョーの役割である。この508SWも細部の仕立ては斬新で、全高はうずくまるように低くてスポーツ的だが、プロポーションは基本に忠実なのが私のような旧世代マニアにはなんともツボである。
40mmというわずかな寸法ながら、リアオーバーハングがサルーンより延長されている点も「セダンをベースに荷室を拡大する」というステーションワゴンの(最近は形骸化しつつある)基本文法を守っていて好印象。同時に、リアクオーターウィンドウの形状にお尻まわりをきちんと長く見せる意図がうかがえるのも“分かっていらっしゃる”美点だ。
508のプラットフォームは、プジョーでいうと3008や5008、あるいは「308」と共通の「EMP2」だが、これら弟分と具体的に共用となるのは前半分……つまりはエンジンルームを含むフロントセクションからフロントシート直後までだ。FFのプラットフォームではこの部分が核となる。
逆にいうと、508と弟分モデルが明確に同じなのはそこまでで、リアセクションはフラッグシップらしいぜいたくな設計であり、ほかにも508独自となる凝ったハードウエアも使われる。リアサスペンションは508以外では今のところ「DS 7クロスバック」にしか例のない独立マルチリンクを使っている。また、電子制御の連続可変ダンパーとなる「アクティブサスペンション」もPSAでは今のところは508専用のハイテクであり、同時に日本仕様の508は全車に標準装備だ。
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本物のネコアシ、ここにあり
昨今のPSAは、乗り味の調律でもブランドごとの確固たるレシピを見つけた感がある。シトロエンはスローで大きめの上下動を意図的に許容しながら、凹凸をゆったりと吸収する“ハイドロ風味”をコイルスプリングで再現しようとしている。DSは上屋をフラットに安定させたまま、バネ下だけで凹凸を吸収するモダンな味わいを目指す。プジョーはそれらと比較すると、もっともオーソドックスな味つけともいえる。ロール方向の動きを抑制しすぎず濃厚な接地感を演出しつつも、ムダな動きはできるだけ排除する伝統的な“ネコアシ”が理想なのだろう。
今回のSWを含めた508の走りは率直にいって素晴らしい。最近はただ柔らかいだけのサスペンションまでネコアシと評しているケースも見受けられるが、本物のネコアシとは508のようなアシさばきをいうのだ。
この18インチを履く508のネコアシも動き出しから滑らかなのだが、それは温かい血が流れているかのように潤いに満ちた作動感である。ロール方向の動きはスルッと速やかに進行しつつも、姿勢が決まったらそこでヒタッと一発で収束。それこそ日本の制限速度をはるかに超えるようなスピードでも、肩の力が抜けたまま吸いつくように直進。路面不整にはそれなりに蹴り上げられるが、その後はまるで忍者のようにスタッと静かに着地する。いかなる路面にも吸いつくように、あくまでヒタヒタとしなやかに接地して、それでいて、あらゆる動きが一発でおさまる。これぞネコアシだ。
プジョーの代名詞である「iコックピット」は前記のように先代208で初登場したモチーフで、その中心となる異形ステアリングホイールは、この508で左右方向が350mm弱、上下方向が同じく320mm強という超小径である。ただ、そのぶんステアリングギア比が通常よりスロー化されているので、絶対的な操作量としては格別にクイックな設定ではない。
だから、慣れてしまえばさほど違和感もない……はずである。しかし、やはりステアリングホイールそのものが絶対的に小さく軽いせいもあって、これまでのプジョーでは無意識のうちに急ハンドル操作になって、結果的に一体感に欠けてしまうケースも多かった。
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往年のプジョーの乗り味が思い出される
今回の508の走りでもっとも感銘の受けたのは、そんな超小径ステアリングを(先代208から約7年という歳月をかけて)ついに“モノにした感”がアリアリなところである。これ以前の3008や5008もイイ線まで来ていた気がするが、508で完全開眼したように思える。
異例なほど小さくて軽いステアリングホイールを、なんのコツもなく無意識にスパスパ操作しても、508のシャシーはあくまで優しく、そして正確に応えてくれる。驚くほど軽く、しかも最小限の操作で事足りる……という超小径ステアリング本来の利点だけが純粋に味わえるだけでなく、それがクルマ全体を実寸より小さく感じさせて、えもいわれぬ人車一体感の醸成にまで昇華している。そこがなにより素晴らしい。
センターコンソールのドライブモードセレクターのボタンを押すと、パワートレインやパワーステアリング、可変ダンパーの性格がまとめて変わる。最柔の「コンフォート」モードでもコーナーのクリップをねらう走りにまでそれなりに対応するし、逆にコーナーでゴリゴリ曲がってくれる最硬の「スポーツ」モードでも、その乗り心地は世の平均からすれば十二分に快適といえる。そこに、508の基本フィジカル能力の高さと、これを仕立てたエンジニアたちのセンスの良さがうかがえる。
なかでも、特にバランスがいいのは中間の「ノーマル」モードで、乗り心地はフワピタ、ステアリングは吸いつくような接地感で、しかも正確無比。その味わいは筆者のような50がらみのオッサン世代にはかつての「205」「405」「306」あたりを思い出させつつも、じつは姿勢変化は大きくなく、しかも限界がメチャ高い。
あの時代のアナログな土着的フランス車テイストを、現代に求められる安定性と安全性を確保しながらここまで忠実に再現するとは、最新のクルマ技術には感心するほかない。
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騒々しいが性能は折り紙付き
今回の試乗車で唯一のツッコミどころがあるとすれば、鼻先の2リッターディーゼルターボが、現代の、それも決して安価ではないDセグメント車としては明らかに騒々しいことだろう。まあ、かつてのようなドシバタという耳障りな雑音ではないが、現代のクルマとしてエンジンの存在ははっきり強い。
かわりにその性能は、このクラスでは白眉のBMWにも大きく劣らないくらいには高い。回り出したら笑ってしまうほどフラットトルクであると同時に、スポーツモードにすると8段ATの変速マナーとともに印象的なほどレスポンシブとなる。同時にダンピングも引き締まる優秀なシャシーに、適度なカツが入るようになるのがうれしい。
ところで、昨2019年の自動車業界といえば、年末に最大のニュースが飛び込んできた。それはいうまでもなく、PSAとFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)の対等合併合意である。その合意内容によれば、会長職にはFCAのジョン・エルカン氏がついて、実際に経営を切り盛りするCEO職は現在PSAを率いているカルロス・タバレス氏が担う。
その合併で生まれる予定の新グループは、プジョー、シトロエン、DSに加えて、すでにPSA傘下にあるオペル/ヴォクスホール、そしてFCA系のフィアット、アバルト、アルファ・ロメオ、マセラティ、ランチア、ジープ、ダッジ、クライスラー……といったブランドを抱え込むことになる。普通に考えると、めまいがしそうなほど膨大なブランド数だが、こうして最新のプジョー、シトロエン、DSでタバレスさんがやってのけた仕事を見れば、さらに8つや9つ(笑)のブランドが増えたところで、彼ならサラリとさばいてしまうのではないか……と勝手に期待したくもなる。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
プジョー508SW GT BlueHDi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4790×1860×1420mm
ホイールベース:2800mm
車重:1700kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:177PS(130kW)/3750rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)235/45ZR18 98Y/(後)235/45ZR18 98Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:18.3km/リッター(JC08モード)/16.9km/リッター(WLTCモード)
価格:526万6000円/テスト車=599万9500円
オプション装備:メタリックペイント<アマゾナイト・グレー>(7万1500円)/フルパッケージ<ナイトビジョン+フルパークアシスト+フロントカメラ[360°ビジョン]+パノラミックサンルーフ+ブラックナッパレザーシート[運転席メモリー付き]>(66万2000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2900km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:555.0km
使用燃料:46.2リッター(軽油)
参考燃費:12.0km/リッター(満タン法)/13.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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