プジョー508SW GTハイブリッド(FF/8AT)
満ちてなければ満たされない 2021.07.13 試乗記 スタイリッシュなプジョーのフラッグシップワゴン「508SW」にプラグインハイブリッドモデルが登場。興味津々でステアリングを握った清水草一が、既存モデルとの走りの違いや留意すべきポイントを報告する。“イケメン”の新たな選択肢
私事ではありますが、私はエコにうるさい。というより燃費フェチだ。お金を節約したい気持ちもあるが、それよりも低燃費で走ることに快感を覚える。燃費がいいと、テストでいい点を取るような、あるいは「ファミコン」(古い)でゲームをクリアしたような達成感がある。
そんな私は、現在ロングドライブの足として、「BMW 320d」(先代)に乗っているが、カーマニアなので、常に後継モデルを脳内で物色している。その候補のひとつが、「プジョー508」だ。
508は実にカッコよく、非常に古典的なイケメンだ。セダン(正確にはハッチバック)もSWも、どっちも男前である。例えればアラン・ドロンだろうか。ダーバンのCM(すごく古い)で、ドロンと共演しても似合いそうだ。「ダーバン セ レレガンス デロンム モディアンヌ」。ダーバン、それは現代の男のエレガンス。CMでのドロンのセリフは今でも丸暗記している。
ドロンにあこがれた中高年カーマニアとして、508はごく普通にターゲット。問題はガソリンかディーゼルかだが、乗り味は断然ガソリン、でも燃費なら断然ディーゼルという、悩ましい二者択一だった。
そこに第3の選択肢が現れた。プラグインハイブリッドだ。
自宅屋根にソーラー発電パネルを載っけてる節約好きの人間として、プラグインハイブリッドは「いつかたどり着くべき道」だと思っている。それがカッコイイ508なら大歓迎だ。実際乗ってみてどうだろう。
EVモードでスルスル発進
「プジョー508 GTハイブリッド/508SW GTハイブリッド」は、最高出力180PSの1.6リッター直4ガソリンターボに、同110PSの電動モーターを組み合わせ、総合すると最高出力225PS、最大トルク360N・mを発生する。トヨタのハイブリッドシステム(THS)などと同様に、システムの総出力は単純な足し算にはならない。
トランスミッションはトルコン式ATではなく、湿式多板クラッチのPHEV専用8段AT「e-EAT8」。これまたTHSの電気式無段変速みたいなもので、エンジンとモーターの動力をうまくミックスするためのものだ。
バッテリー容量は11.8kWh。WLTCモードでのEVモード航続距離は56km。欧州ではEVで50km以上走れれば、CO2排出量を3分の1に換算できるので、それをしっかり達成している。今回試乗するのは、SWのほうである。
相変わらずのイケメンのドアを開けると、インテリアも相変わらずイケメンだ。本革シートのステッチがものすごくだてである。なにもかもがスカしまくりでハマッっている。さすがアラン・ドロン。
デフォルトのドライブモードは「ハイブリッド」だ。スタートボタンを押して電源をONにしても、いきなりエンジンはかからない。そのままソロリとアクセルを踏んでも、しばらくはEVのままスルスルと走る。フランス車も進歩したものだ……。
大通りに出てアクセルを深く踏みこむとエンジンが始動し、戻すと止まる。まさにハイブリッドそのものである。
加速までもがヤサ男
ただ、数km走って感じたのは「重い!」ということだった。508のガソリン車は、鼻先やステアリングやアクセルやブレーキや、すべてが羽毛のように軽やかなのが持ち味だが、そこにモーターやバッテリーが加わって、車両重量は1550kgから1820kgに増加している(パノラミックサンルーフ付きは1850kg)。その差270kg。重く感じるのも当然か。
そのせいもあり、パワー感やトルク感は非常に控えめだ。アクセルを床まで踏んづけても、グワッと前に出るフィーリングは皆無。良く言えばひたすら穏やか~に加速するが、悪く言えば重い車体に非力なエンジンを積んだクルマのようだ。「このクルマ、全開時はひょっとして180PSのみ?」なんて思ったりした。この穏やかさは、同じ508のガソリン車やディーゼル車と比べても際立っている。
信号で停止する際は、回生ブレーキとフットブレーキの協調制御が少しだけ甘いのか、初代「プリウス」のような「カックンブレーキ」症状が少しだけ出る。初代プリウスほどではないけれど、ちょっとだけドライバーがブレーキペダルを繊細に扱ってやる必要はある。ハイブリッド初心者のプジョーですから、温かい目で見守りましょう。
加速が穏やかな感覚は、ドライブモードを「スポーツ」に変更しても、さほど変わらなかった。その割に足まわりはスポーティーになり、そうするとボディー剛性が車両重量に負けてる感が高まって、路面からくるショックがドスンと強くなり、あまり快適とはいえなくなる。まだド新車だったので大目に見る必要があるが、だてなヤサ男に思い荷物を背負わせたまま全力疾走させるのは酷だった。
湿式多板クラッチの8段ATは、ギアチェンジの感覚がトルコンATとはだいぶ異なり、レスポンスが穏やかでヌエ的。積極的にマニュアルモードを使って走りたくなる感覚はゼロだった。そういう点でも、スポーティーに走りたいクルマではない。スポーティーに走りたいなら、すべてが羽毛のように軽く、クイクイ曲がってグングン加速する508のガソリンモデルが断然おすすめだ。
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節約好きにはツラいクルマ!?
では、電気モーターのみで走るエレクトリックモードはどうかというと、これも加速はかなり穏やかだ。航続距離は前述のように56kmとなっているが、クルマを受け取った時点の表示は48km。が、エレクトリックモードにすると、残りの航続距離がその1.5倍くらいのペースで減る。走り方がイカンのだとは思うが、実際にEVとして走れるのは30kmちょいだろうか。少ない貯金がどんどん減る感覚は、節約好きには精神衛生上よろしくない。
エレクトリックモードからハイブリッドモードに切り替えて、首都高をしばらく巡行。エレクトリックモードの恩恵もあり、燃費計は38km/リッターあたりを指している。燃費フェチとしては実にうれしい。これは、プラグインされた電気を食って出している数字であることは理解しているが、家で充電して出撃すれば、ある程度の範囲ならこれくらいの燃費で走れるわけで、燃費フェチは大喜びだ。
ただ、節約マニアとしては、バッテリー残量が一方通行で減っていくのが悲しい。ついどこかで充電したくなるが、508ハイブリッドは普通充電しか受け付けないので、カラの状態から満充電まで、200V・3kWで約5時間、200V・6kWで約2時間半かかる。つまり、出先でちょっと充電してもほぼ無意味。エンジンで充電しながら走るチャージモードもないので、バッテリーはひたすら減っていく。そこは完全に割り切ってつくられている。
70kmまでの幸せ
走り始めてから69kmで、ついにバッテリー残量はゼロになった。燃費計の数字は33.3km/リッター。この燃費で70km前後走れれば、燃費計の数字上はプリウス(常時ハイブリッド)に勝てる! 燃費フェチは、精神的にはプラグインした電力をノーカウントでオッケーなので、「508ハイブリッド、スゲエ!」という感覚は味わえる。
が、当たり前のことですが、そこからは燃費計の数字は落ち続けた。ハイブリッドモードだけの燃費は、概算で13km/リッターくらいだろうか。もはや燃費計を見ても楽しくない。車体も重くて動きは鈍い。足やパワートレインのセッティングで、無理やりにでももうちょっと軽快に感じさせる方法はなかったのだろうか。バッテリーが終わってからの508ハイブリッドは、だてな風情を除いて、特にヨロコビのないクルマになった。
しかし、70kmまであの燃費で走ってくれれば、だてなハイブリッドとしての価値はある。もちろんその場合、自宅車庫に普通充電器を設置する必要があるけれど、わが家ならソーラーパネルで発電した電力を注入できるので、電気代は本当のノーカウントでいける。
今はまだ出たばかりで、ちょっと未熟なところもあるけれど、将来が楽しみな大器ではないだろうか。なにしろアラン・ドロンだし。
(文=清水草一/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
プジョー508SW GTハイブリッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4790×1860×1420mm
ホイールベース:2800mm
車重:1850kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:180PS(133kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/3000rpm
モーター最高出力:110PS(81kW)/2500rpm
モーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/500-2500rpm
タイヤ:(前)235/45ZR18 98Y/(後)235/45ZR18 98Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
ハイブリッド燃料消費率:15.5km/リッター(WLTCモード)
価格:633万6000円/テスト車=674万8000円
オプション装備:パッケージオプション<ナイトビジョン+フルパークアシスト+フロントカメラ付き360度ビジョン+パノラミックサンルーフ>(41万2000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:980km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:165.0km
使用燃料:9.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:16.6km/リッター(満タン法)/18.1km/リッター(車載燃費計計測値)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。