ポルシェ718ボクスター(MR/6MT)
ちょっとした奇跡 2016.09.21 試乗記 新開発の2リッター4気筒ターボエンジンが採用された、ポルシェの2シーターオープン「718ボクスター」に試乗。自然吸気の2.7リッター6気筒エンジンを搭載した従来モデルとの違いを含め、走りや乗り心地の印象を報告する。かつてのスバルを思い出す
待ちに待ったポルシェ718ボクスターの初試乗。夜の都心でキーを預かり、早くスタートしたい気持ちをグッと抑えて試乗車の周りをぐるりと一周。パッと見た感じは先代と大差ないけれど、よくよく見れば大型化されたエアインテークや鋭い目付きのヘッドランプの形状によって、フロントマスクはキリリと引き締まった。
テールランプの形も変わった。試乗車の色がシルバーだったこともあって、リアビューはウルトラマンの顔のようだ。ちょっと未来っぽい感じがするこの後ろ姿、かなり好きです。
ま、外観のチェックはそこそこにして、待ってましたのエンジン始動。試乗車は6MTだったのでクラッチを踏んでイグニッションをヒネると、2リッターの水平対向4気筒ターボはバウン! とワイルドに目覚めた。モーターが回るようにシュンと始動するエンジンが増えたいま、ガソリンが爆発していることを肌で感じるこのエンジンスタート、古い気はするけれど嫌いではない。
「ブブブブブブ」という不機嫌そうなアイドル音が不良っぽい。なるほど、不等長エキマニの水平対向4発ってこういう感じだったな、と大昔のスバル車を思い出す。6気筒とはやはり違う。
アイドル回転でクラッチをミート、発進直後のタイヤの数回転で、もうちょいトルキーなほうが発進加速が滑らかで上質になるのに、と思う。でもスポーツカーのエンジンは回してナンボ、これくらいなら、気にならないといえば気にならない。
そういえば、1996年にデビューした初代ボクスターの2.5リッター水平対向6気筒自然吸気エンジンも低回転域のトルクが細くて、初めて乗った晩は靖国通りの信号待ちで2回連続でエンストして、赤面したっけ。
乗り心地のよさに驚く
極低回転域で感じた、エンジンの粗っぽい手触りとトルクの細さは、アクセルペダルに少し力を加えるだけで消えてなくなる。そしてタイヤが20回転もする頃にはトルクが足りないと感じるどころか、アン肝のように濃厚な味わいのトルクが湧いてくる。市街地での微妙なアクセルのオンオフにも繊細に反応するから、気分よくアクセル操作ができる。ターボ化によってドン臭いエンジンになったのでは、という懸念は吹っ飛んだ。
市街地での乗り心地のよさは、感心を通り越して驚きのレベル。試乗車はオプションの「19インチ ボクスターSホイール」を履いていたにもかかわらず、路面からの突き上げは角のとれたものになっている。標準の18インチだったらどれだけ乗り心地がいいんだ。
路面の凸凹を乗り越えた後の上下の揺れもきれいに収束する。ちなみに試乗車は、電子制御ダンパーシステムであるPASMをオプションで装備。ドライビングの状況や路面のコンディションに応じてダンパーの減衰力を無段階で調整するこの仕組みが、効果的に働いているようだ。
おお快適、快適、と感心しながら首都高速の料金ゲートを通過、アクセルペダルを踏み込む。むむむ、やはり……。
ほかの試乗記を読んで知っているつもりだったけれど、3500rpmから4000rpmあたりになると鼓膜を震わす、「クォーン」というエンジン音がない。ブ厚いのにシャープで、ひずんでいるのに美しい、ジミー・ペイジのギターのような“あの音”が聞こえない。鼓膜を震わすというより、心を震わすあの音がないのは実に寂しい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「音」だけが満たされない
ジミー・ペイジはどこに行ったのか? 試乗車はオプションのスポーツクロノパッケージを装着しているので、ステアリングホイールには「ノーマル」「スポーツ」「スポーツプラス」「インディビジュアル」の4通りが選べるモードスイッチが備わる。
スポーツやスポーツプラスを選べばジミー・ペイジに会えるのではないか、という淡い期待ははかなく消えた。クルマ全体がぎゅっと引き締まったことは伝わってくるけれど、ジミー・ペイジのギターは鳴らない。
ただし、胸をかきむしるような「クォーン」という音が聞こえないだけで、エンジンとしては加速力もフィーリングも完璧である。アクセル操作に対するレスポンスはナチュラルで素早いし、高回転まで突き抜けるように回る。高回転域でのフンづまり感はみじんもない。まだ350psの「718ボクスターS」は試していないけれど、300psの718ボクスターで十二分に満足。これ以上の何を求めよう?
ターボで過給しているとはいえ、2リッターで300psを達成、ジミー・ペイジはいないけれどこのフィーリング。ポルシェの技術者はエラいのではないかと自分を納得させる。そうだ東北地方の太平洋側から台風が上陸し、アメリカ西海岸では山火事が相次ぐいま、スポーツカーだってCO2削減に貢献しなければいけないのではないか。ジミー・ペイジがいないだなんて戯言(たわごと)は許されないのではないか。
尊敬できても恋は芽生えず
明けて翌日は絶好のオープン日和。西湘バイパスを軽く流して箱根に向かう。屋根を開けて、路面の悪さで悪名高いこのバイパス道路を行く。びっくり仰天の乗り心地のよさ、ボディーのしっかり感もただ者ではない。
ほかにも、操作の確実さと軽やかさを両立させている6MTのシフトフィールや、タイヤが置かれている状況や路面コンディションを細かく報告するステアリングフィールなど、イイもの感はハンパない。好きなオープン2シーターを選んで屋根を開けたまま東京~大阪間を往復しろと言われたら(言われないだろうけれど)、間違いなく718ボクスターを選ぶだろう。
山道に入ればまさに水を得た魚。どっしりとした安定感を感じさせながら俊敏に動くという、ちょっとした奇跡を味わえる。安定感と安心感があるからリラックスして操縦でき、しかも自分の操作が正確に車体の動きに反映される718ボクスターは、飛ばさなくても楽しいし、飛ばしても安心してドライビングに没入できる。
安心とワクワクドキドキが両立するなんて、永遠に続く新婚時代みたいで、やっぱりちょっとした奇跡だ。
「楽しい」と「安心」がボクスターの両輪だとすると、これまでのボクスターから718ボクスターに移行するにあたって、どちらの輪もバランスよく大きくなった印象だ。シャシーに関して言えば、ひとつクラスが上がったと感じる。非の打ち所がない。
ただし、しつこくて恐縮ではありますが、開け放った屋根から清涼な空気とともに「クォーン」が飛び込んでこないのは、やはり寂しいのである。あの音が恋しく感じるのは、肥満につながるとされるステーキの脂や白米をたまらなくおいしく感じるのと似ている。
いいクルマかと問われれば、間違いなくいいクルマだ。6気筒を4気筒ターボにしたことも正しい。でも、尊敬する人が必ずしも恋愛対象にはならないように、腹の底から「大好き!」とはならなかった。スポーツカーも恋人と同様、一目会ったその日から恋の花咲くこともあるけれど、今回は咲かなかった。
ボクスターに試乗して、親から借金してでも欲しいと思わなかったのは初めてである。
(文=サトータケシ/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
ポルシェ718ボクスター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4379×1801×1281mm
ホイールベース:2475mm
車重:1335kg
駆動方式:MR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:300ps(220kW)/6500rpm
最大トルク:38.8kgm(380Nm)/1950-4500rpm
タイヤ:(前)235/40ZR19 92Y/(後)265/40ZR19 98Y(ピレリPゼロ)
燃費:7.4リッター/100km(約13.5km/リッター、欧州複合モード)
価格:658万円/テスト車=882万1000円
オプション装備:ボディーカラー<ロジウムシルバーメタリック>(15万円)/レザーインテリア<ボルドーレッド>(64万7000円)/電動ミラー(5万5000円)/PASM(26万円)/PTV<ポルシェトルクベクタリング>(23万8000円)/スポーツクロノパッケージ(30万1000円)/19インチ ボクスターSホイール(32万5000円)/カラークレストホイールセンターキャップ(3万円)/オートエアコン(13万9000円)/シートヒーター(7万6000円)/フロアマット(2万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:8609km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:271.4km
使用燃料:27.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.0km/リッター(満タン法)/10.4km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.9.1 2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。
-
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD)【試乗記】 2026.8.31 フルモデルチェンジした「アウディQ3スポーツバック」に試乗。プラットフォームやパワートレインこそ従来型の改良版ではあるものの、内外装のデザインやインフォテインメント、効率性のすべてにおいて大幅な進化を遂げたという。その仕上がりやいかに。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】 2026.8.29 「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。
-
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.25 BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】 2026.8.25 カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。
-
NEW
新型「三菱パジェロ」の外装・内装を写真でチェックする
2026.9.2画像・写真5年間のブランクを経て、三菱のフラッグシップSUV「パジェロ」がついに復活! 「グランドカリスマ -泰然自若-」をコンセプトにデザインされた本格クロスカントリーモデルは、どのような姿をしているのか? 内外装の詳細を、写真で紹介する。 -
NEW
復活の決め手はこっくりさん!? 新生「三菱パジェロ」誕生の経緯とその狙い
2026.9.2デイリーコラム5年間の沈黙を経て、ついに登場した新型「三菱パジェロ」。スリーダイヤモンドが誇る荒野のフラッグシップは、いかにして復活を遂げたのか? 開発の経緯や内外装デザインの詳細、パワートレインに見るクルマの“狙い”をリポートする。 -
NEW
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.9.2カーデザイン曼荼羅その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。 -
NEW
BMW X1 sDrive20iオリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.9.2試乗記BMWのコンパクトSUV「X1」に新グレードの「オリジナル」が登場。走りの楽しさをはじめとしたBMWらしさをキープしつつ、装備の厳選によって価格抑制を図った新たなエントリーグレードだ。都市部におけるドライバビリティーとユーザービリティーをリポートする。 -
スポーツカーに未来はあるか?
2026.9.1あの多田哲哉のクルマQ&A年々、開発環境が厳しくなるといわれるスポーツカーは、この先も存在しうるのか? トヨタのエンジニアとしてさまざまなスポーツカーを開発してきた多田哲哉さんに“未来のスポーツカー像”を聞いた。 -
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.9.1試乗記2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。






























