スマート・フォーツーカブリオ ターボ リミテッド(RR/6AT)/フォーフォー ターボ(RR/6AT)
日常を変えるコンパクト 2016.09.29 試乗記 第3世代となる現行型のスマートに、ターボエンジン搭載モデルが登場。その走りは、先行デビューした自然吸気モデルとどう違うのか。2シーターオープンと4シーター、それぞれの持ち味をチェックした。ターボ付きはまるで別モノ
東京湾を眺めながら、千葉県・稲毛海岸の海沿いの道を「スマート・フォーツーカブリオ ターボ リミテッド」で流していると、天気は今にも崩れそうではあったけれど、吹けよ風、呼べよ嵐、ドーンと来い、という太っ腹な気分になった。
オープンカーは百難隠す。ということもあるにせよ、フォーツーカブリオ ターボはいい路面の道路を適度な速度で流している時にその最良の面を見せるのだ。ホイールベースたったの1875mmのコンパクトカーとは思えぬほど、乗り心地はどっしりしている。ボディー剛性が高い。車重も990kgある。意外に重い。そこは日本の軽自動車と大いに違う。ちっちゃいけれど、手の込んだ一人前のちゃんとしたモノに乗っている感がある。
ターボ化のおかげで、いまどきびっくりするぐらい遅い998ccの3気筒自然吸気(NA)モデルよりフツーに乗れる。ま、NA版もそのうちその遅さに慣れるけれど、初めて乗った直後は、「おーい、生きているかぁ~」と山で遭難した人に呼びかけるような気分になった。「ツイナミック」と名付けられたデュアルクラッチ式トランスミッションも変速が超ユッタリしていて、CVTかと思った。
その点、ターボは全然違う。ターボモデルはNAの998ccユニットのボアはそのままに、ストロークを8.2mm縮めて排気量897ccに縮小し、ターボチャージャーの力を借りて、リッターあたり100ps以上の最高出力90ps/5500rpm、最大トルク13.8kgm/2500rpmを発生する。
NAは71ps、9.3kgmにすぎないから、19psと4.5kgm強力になっている。しかもターボは最大トルクを2850rpmで発生するNAに対して350rpm早めにより分厚いトルクを得ているのだから、低速トルクに余裕がある。
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独特な挙動のフォーツー
例によって電子制御のドライブモードが付いていて、Eでもびっくりするほどは遅くない。Sにすればなおさら、街中でもスイスイ走る。
3.3mの最小回転半径はそのままで、Uターンは得意中の得意。幕張の住宅街での撮影のときも、あっちこっち走ったり止めたり、カメラマンの指示に気軽に応えることができる。ウルトラ・マイクロ・カーの面目躍如だ。
ただし、街中の路面がとりわけ凸凹だったりすると、ショートホイールベースであることの短所を露呈する。前165/65 、後ろ185/60の、ともに15インチのタイヤはスタイル優先だと筆者には思われるけれど、カッコイイ分、低速だとドタドタする。
スプリングの柔らかさは印象的で、加減速時のピッチングは、油圧でもってダンスする、アメリカのローライダーのホッピングを思わせる。走りながらわざとブレーキングを繰り返すると、エルビスみたいにセクシーに腰を動かしている心持ちがして、悦に入る私でした。
2015年12月に試乗したNAのフォーツーは車体の上下動を抑えるためもあって、足まわりがガチガチだった。でも、今回のターボは、客観的な事実はともあれ、足まわりはソフトであるように感じた。トルク変動が大きいがゆえの錯覚であるかもしれない。
スーパーカー並みの希少車
低速での短所が目立つ領域を超えると、フォーツーカブリオ ターボはがぜん気持ちのよいクルマに変身する。冒頭記したように、路面が平滑な道路を巡航していると、つまりはドイツのような交通環境においては、長所が際立つ。短所と長所のギャップがあればあるほど、長所はより長所として輝きを増す。
70年代の大映テレビ制作『赤い運命』の三國連太郎のように、悪いヤツが改心すると、ああ、この人は本当はいい人だったのね、と思うのである。と書いても共感してくださる方は少ないかもしれませんが、つまるところフォーツーは、ターボ化されても1875mmという純粋2座のショートホイールベースぶりがその性格を運命づけている。
その運命にあらがうことなく、受け入れた上で屋根が開く。無限空間を得たフォーツーカブリオは、短所はそのままに長所の分量がパーッと増えたわけである。ほろのメカニズムは初代フォーツーカブリオと基本的に変わっていない。スイッチひとつでファブリックのほろがタルガトップ状態まで開き、さらにスイッチを押し続けると、リアのガラスウィンドウまで折りたたみながら開く。それからいったんクルマから降りてルーフに残った両サイドのバーを手動で外すと、フルオープンに近い開放感が得られる。
日本に輸入されるフォーツーカブリオ ターボはいまのところ、赤、黄、白、黒の4色のボディー色で、それぞれ50台の限定となる。軽自動車を含めて年間400万台といわれる日本市場において、わずか200台ポッキリ。その意味ではスーパーカー並みの超希少モデルなのだ。どうしても欲しい人が欲しがる、そういう類いのクルマであって、無理に買うことはないのである。
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実用性なら“4座仕様”
一方の「フォーフォー ターボ」はフツウによい実用車である。ホイールベースをフォーツー比620mm延ばして2495mmとし、後ろのドアを2枚左右に付け足して、大人2名分の後席を設けた。座高の高い筆者だと、頭が天井につかえるし、シートも薄っぺらで足元も狭い。往年のE30型「BMW 3シリーズ」のリアを思い出したくらい狭い。とはいえ、4人乗れるのと2人しか乗れないのとでは、実用上、大違いである。
自動車におけるホイールベースの重要性がしかとわかるのは、乗り心地が全然違うからだ。前後重量配分はともに44:56程度のリアヘビーであるけれど、フォーフォーの方が乗り心地に落ち着きがある。ブレーキングをわざと繰り返しても、エルビスしない。タイヤのサイズは前185/50、後ろ205/45の、ともに16インチと、フォーツーカブリオ ターボより1サイズ大径かつ偏平タイヤを履いているけれど、フォーツーみたいに低速でもショックを伝えない。
不思議なのは、着座位置である。フォーツーとフォーフォーの違いは後席の有無だけだろうに、フォーツーの方が着座位置が高くて見晴らしがよいように感じる。原因を私なりに探ると、フォーツーは走行中、微妙にヒョコヒョコ姿勢が変化していて、視点が定まらない。その不安定さゆえに自分が高いところにいるように感じられるのではあるまいか……。
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スマートはフォーツーに限る
いいクルマという意味では、圧倒的にフォーフォー ターボに分がある。こちらはフツーの小型車としてフツーに乗れる。メルセデス・ベンツ日本にしても、フォーツーの需要が限られていることは先刻ご承知で、だからこそ限定車扱いにしている。価格はフォーツーカブリオ ターボが248万円、フォーフォー ターボはそれより8万円高い256万円で、8万円しか違わないのだったら、多くのフツーの人はフォーフォーを選んでおくのが賢明だろう。
フォーツーカブリオ ターボの価値は、常人には理解しがたい存在そのものにある。なんでこんなモノがあるのか? しかるに、「いいクルマ」というのが退屈な日常をイキイキとさせるものだとしたら、これこそがそうなのだ。
先般、青山の骨董(こっとう)通りで、現行フォーツーに乗る女性を見かけた。ワインショップの屋号がドアに書いてあったそのフォーツーの女性は、単なる従業員であるかもしれないけれど、フォーツーを足に使うようなオシャレなお店の関係者で、一身独立しておられて、とてもステキに思えた。
それと、筆者は未体験ながら、フォーフォーだったら、プラットフォームを同じくする兄弟車、「ルノー・トゥインゴ」のキャンバストップ、199万円が視野に入ってくる。キャンバストップが付いていて57万円もフォーフォーより安い。
であるからして、筆者としてはこう結論付ける。スマートはフォーツーに限る。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎)
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テスト車のデータ
スマート・フォーツーカブリオ ターボ リミテッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2755×1665×1540mm
ホイールベース:1875mm
車重:990kg
駆動方式:RR
エンジン:0.9リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:90ps(66kW)/5500rpm
最大トルク:13.8kgm(135Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)165/65R15 81T /(後)185/60R15 84T(ミシュラン・エナジーセイバー)
燃費:22.0km/リッター(JC08モード)
価格:248万円/テスト車=260万4900円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション スマートベーシックキット<ETC車載器+フロアマット+スマートカラビナ[オレンジ/ブルー2個セット]>(2万5000円)/ポータブルナビ(9万9900円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1171km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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スマート・フォーフォー ターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3550×1665×1545mm
ホイールベース:2495mm
車重:1060kg
駆動方式:RR
エンジン:0.9リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:90ps(66kW)/5500rpm
最大トルク:13.8kgm(135Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)185/50R16 81H /(後)205/45R16 83H(コンチネンタル・コンチエココンタクト5)
燃費:22.0km/リッター(JC08モード)
価格:256万円/テスト車=275万5700円
オプション装備:メタリックペイント<イエロー×ホワイト>(3万4000円) ※以下、販売店オプション スマートベーシックキット<ETC車載器+フロアマット+スマートカラビナ[オレンジ/ブルー2個セット]>(3万2000円)/ポータブルナビ(9万9900円)/エアウィーヴ コンフォートシーター(2万9800円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:919km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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