マツダ・アテンザセダンXDプロアクティブ(FF/6AT)
出し惜しみなしの正常進化 2016.10.03 試乗記 「アクセラ」に続き、フラッグシップモデルの「アテンザ」にも、さらなる“走る歓び”を追求するマイナーチェンジが施された。G-ベクタリングコントロールなどの新機軸を得た新型の走りはどう変わったのだろうか。再びメジャーアップデート
近ごろのなんだかイケてるマツダのイメージは、2012年に発売された初のスカイアクティブテクノロジー全部載せモデルの「CX-5」から始まった。全部載せ第2弾としてフラッグシップのアテンザが現行型にモデルチェンジしたのも同じ年だった。マツダが「魂動デザイン」と呼ぶ、彫りが深くこってりしたスタイリングと、トルキーで経済的なディーゼルエンジンの組み合わせは登場直後から人気を集めた。その後も、「アクセラ」「デミオ」「CX-3」「ロードスター」と、(同社としては)ハイペースで新型車を投入しながら現在に至る。登場から2年たった14年、アテンザは大規模なマイナーチェンジを行った。さらに2年後の今年、つまり今回、再び改良が加えられた。どう変わったかを見ていきたい。
今回のマイチェンのテーマは“今までの技術進化をフルに織り込み、人とクルマとがさらに深くつながることで、お客さまの人生を豊かにできるモチベーターとなること”だそうだ。自信に満ちあふれるマツダらしく、だんだん語る言葉のスケールが大きくなってきて若干聞いていて気恥ずかしい感じがしないわけでもないが、しかし自信がないよりはいい。
外観の変更は最小限にとどまった。具体的にはドアミラーに埋め込まれたターンシグナルの形状が異なる程度。変える必要を感じなかったのだろう。その代わり「マシーングレープレミアムメタリック」という新しいボディーカラーが設定された。その名の通り、金属の質感を表現したグレーで、陰影によるコントラストが目立ち、深みがあるすてきな色だと思う。カタログの表紙を飾るのはこれまで同様「カープレッド」、もとい「ソウルレッドプレミアムメタリック」だが、こっちのほうがずっといい。
インテリアは、最上級グレードの「Lパッケージ」に限り、オフホワイトだった天井とピラー内側の色をブラックとしたほか、ホワイトとブラックのナッパレザーを設定した。どっちの色を選んでもシートにはチタニウムカラーのパイピングがあしらわれる。加えて、インパネの加飾パネルやドアトリムスイッチなどの色をコーディネートし、質感アップに努めている。こうした取り組みは「インテリアが安っぽい」という市場の意見を受けてのことだそう。最近のマツダの“新しい価値はモデルチェンジを待たずに盛り込む”という姿勢の表れでもあるような気がする。
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スカイアクティブD2.2が進化
登場から4年たったアテンザの外観をあらためてじっと眺めてみたが、やっぱりこのクルマは美しい。フロントがシュッとしていて、リアが肉感的でボリューム満点のプロポーションからは、このクルマがFWD(もしくはFWDベースの4WD)とは思えない。均整がとれている。CX-5もアクセラも同じようにハンサムなのだが、アテンザはハンサムに細マッチョなボディーの組み合わせという感じだ。この先あと1年半~2年くらいはこの形だろうが、十分戦えると思う。
エンジンはパワースペックに変更はないが、何も変わっていないわけではなく、ディーゼルのスカイアクティブD2.2に「DE精密過給制御」「ナチュラルサウンドスムーザー」「ナチュラルサウンド周波数コントロール」などが採用された。いずれも先日マイチェンしたアクセラに盛り込まれた技術だ。DE精密過給制御はエンジンの燃焼噴射をより細かくコントロールすることで、全開時ではなくパーシャルスロットル時のピックアップを向上させる制御のこと。年配の方には「トルクのつきがよくなったんだ」と表現したほうがわかりやすいかもしれない。ただし、明らかに違うというほどに違うわけではなく、言われてみれば……というレベルだ。でもないよりはあったほうがいい。
ナチュラルサウンドスムーザーは1.5リッターディーゼルで最初に採用された技術で、ピストン内にダンパーが仕込んであって、コンロッドの微妙な伸縮によって発生する音を打ち消すことができる。これもあれば若干だが確実に静粛性が高まる。ナチュラルサウンド周波数コントロールは、エンジンの加振力と構造系共振という2つの騒音発生原因が同時に発生することで騒音を高めていたのを、発生タイミングを絶妙にずらすことでこれまた静粛性を高める技術。ここまで読んでわかるように、エンジンはマニアックな小変更の積み重ねだ。
走る楽しさがある
マツダR&Dセンター横浜を出発し、首都高を走行して大黒ふ頭を目指す。初めてスカイアクティブD2.2が搭載されたCX-5やアテンザに乗った時、4気筒ディーゼルエンジンを日本でラインナップするメーカーはごく少数だったため、その速さや燃料の減らない様子がとにかく新鮮だった。あれから4年。今では4気筒ディーゼルエンジン搭載モデルが実に増えた。1.5リッター3気筒ディーゼルまで登場する時代だ。スカイアクティブD2.2は、前述した努力の積み重ねによって、体感できるトルクの豊かさやスムーズさの面で依然一級品ではあるが、今ではマツダ以外のPSAやBMW/ミニ、ボルボあたりも同等かそれ以上のレベルに達した。ここはひとつ、経済性、環境性能はそのままに、パワーとスムーズネス、静粛性を引き上げたスカイアクティブD“エボ”の登場を期待したい。
アクセラに採用されたG-ベクタリングコントロールがアテンザにも採用された。横浜ベイブリッジから大黒パーキングエリアへ向かう際のぐるぐる回るスパイラルコーナーを最も心地よいと感じる速度で走らせる。コーナリング中、アテンザのボディーはぐっと沈み込んで4輪で踏ん張っているような印象を受ける。安心感が高い。微妙に異なる曲率に合わせてステアリングを切り増したり戻したりしながら走らせるのは実に楽しい。
今が買い時だが……
G-ベクタリングコントロールは、ドライバーがステアリング操作をすると、エンジンの燃焼コントロールによって瞬時に出力をほんのわずか絞る。そうすることで前荷重を高め、前輪の接地性を高めるといった制御をそっと行う。制御は一瞬なのでドライバーは制御が入ったことを感じることができない。ただただコーナリングが楽しいだけだ。G-ベクタリングコントロール付きのクルマはドライバーに“少し運転がうまくなった?”と錯覚させる。ステアリングホイール、シート、ペダルの位置関係が適切で、好みのドライビングポジションを得やすいのは新世代マツダに共通する長所だ。
久しぶりに乗ったアテンザには、ネガなポイントがほとんど見当たらなかった。ディーゼルエンジンは静粛性が高まり、常用域でのピックアップが増した。インテリアは質感の向上が著しい。新色マシーングレーメタリックは艶(なま)めかしい。そしてG-ベクタリングコントロールは備わっているに越したことはない。現在マツダがもてる技術がすべて盛り込まれた出し惜しみなしの正常進化だ。4年が経過し、現行アテンザ最高の買い時を迎えているのではないだろうか。ただし、先行車両に追従するアダプティブ・クルーズコントロールが30km/h前後でキャンセルされる点だけはいただけない。全車速追従可能かどうかは便利さに大きな差が出る。ここが改善されたら、その時こそ文句なく“買い”だ。
(文=塩見 智/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
マツダ・アテンザセダンXDプロアクティブ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4865×1840×1450mm
ホイールベース:2830mm
車重:1540kg
駆動方式:FF
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:175ps(129kW)/4500rpm
最大トルク:42.8kgm(420Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)225/55R17 97V/(後)225/55R17 97V(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:19.6km/リッター(JC08モード)
価格:327万7800円/テスト車=347万7600円
オプション装備:特別塗装色代(スノーフレイクホワイトパールマイカ)(3万2400円)/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(2万7000円)/セーフティ・クルーズ・パッケージ(スマートブレーキサポート<SBS>&マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール<MRCC>、スマート・シティ・ブレーキ・サポート<後退時><SCBS R>、AT誤発進抑制制御<後退時>、リアパーキングセンター<センター/コーナー>、ドライバーズ・アテンション・アラート<DAA>)(7万5600円)/ドライビング・ポジション・サポート・パッケージ(運転席10Wayパワーシート&シートメモリー<アクティブ・ドライビング・ディスプレイ連動>、運転席&助手席シートヒーター、ステアリングヒーター)(6万4800円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2060km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

塩見 智
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