アウディQ7 e-tron 3.0 TDIクワトロ(4WD/8AT)/Q7 3.0 TDIクワトロ(4WD/8AT)
財布に優しいだけじゃない 2016.10.28 試乗記 アウディの大型SUV「Q7」のディーゼルエンジン搭載車とプラグインハイブリッド車に試乗。日本導入が目されるパワートレインの出来栄えを試すとともに、“ディーゼル”という選択肢が持つ存在意義を、あらためて考えた。快適性にも寄与するトルクの太さ
今年、日本市場に投入された「A4」とQ7は、共にアウディの日本市場における基幹車種だ。特にQ7は5mを超える巨体を有する同社のSUVのフラッグシップだが、広大な室内空間に7シーターのユーティリティーもあって、車格をものともせず好調なセールスを重ねてきた。それゆえ、2代目となる現行型の注目度も高い。
現状、日本におけるQ7のグレード構成は2リッター直4と3リッターV6、共にガソリン直噴ターボの2本立てとなっている。いわゆるダウンサイジングコンセプトにのっとって、ごく低回転域からしっかりとトルクを発するパワートレインとはいえ、その巨体を2リッターで……というのはにわかにイメージがわかない。が、そこは新設計のMLBプラットフォームに加えて、アルミ材の積極的採用もあって300kg前後の軽量化を果たしていることが奏功してのことだろう。新しいQ7の2リッターモデルは、日常的な負荷であれば十分に賄える動力性能を確保していた。
が、マルチシートのSUVをSUVらしく使いこなそうということであれば、特にトルクの余裕があるに越したことはない。それは長距離を走るうえでもしかりだ。アダプティブクルーズコントロールを使っていれば減速後の再加速の際にはなおのこと、トルクの有無が快適性にもつながってくる。余談だが、もし自動運転の時代が来るならば、メーカーのエンジニア側としては所定の能力を正確に再現すべく、“タイヤは硬く”“トルクは太く”が当然の要求になっていくのではないだろうか。すでにメルセデスあたりはそんな要件を織り込みながらクルマを作っているのではないかと思うこともある。
先進技術の搭載に好適なボディーサイズ
そんなわけで、使い勝手の見地に立てば、Q7を選ぶ上での本丸的パワートレインはやはりディーゼルということになるだろう。アウディ ジャパンとしてもそこは当然承知しており、今年市場投入されたA4、もしくはこのQ7あたりを皮切りに一気呵成(かせい)のラインナップ展開をもくろんでいたはずだ。が、そのプランが延期状態になっている理由はお察しの通り、2015年秋に米国で発覚した、グループのディフィートプログラム問題が絡んでいる。
それは完全に解決したわけではなく、現在進行形の課題だ。ゆえに、自らの選択に潔癖さを求める向きが当事者であるフォルクスワーゲン・グループのディーゼル搭載車にネガティブな印象を抱くのは当然である。が、一方でCO2削減やエネルギーミックスの均等化を “扱いやすさ”というドライバー側の利と両立できるこの選択肢は無になるべきではない、というのが個人的な意見だ。
Q7は本国仕様においてすでに3つのディーゼルユニットを有している。218psと272psの2つの「3.0 TDI」に加え、今春に発表されたのが、電動タービンを備えるトリプルターボにより435psを発生する4リッターV8ユニットを搭載した「SQ7 TDI」だ。さらに直近では、3.0 TDIをベースにプラグインハイブリッド化を施した「e-tron」がデビューしたばかりでもある。巨大なボディーゆえのスペースを利しての、最新技術投入の筆頭銘柄。アウディにおいてQ7はそういう一面を持つモデルとしても捉えられている。
日進月歩のパワートレイン制御
これらのうち、アウディ ジャパンが導入検討しているQ7のディーゼルモデルは272psを発生する3.0 TDI。並行してe-tronも導入が検討されているようだが、こちらはコストや用途を鑑みて、ガソリンユニットの「2.0 TFSI」をベースとしたグレードが適しているとみているようだ。
それでもハイブリッドシステムの基本構成は変わらないと考えれば、試乗したe-tron 3.0 TDIからはメカニズムの高い洗練性がうかがえた。クラッチ式システムの最大のネガともいえる、異なるパワーソースの分割マネジメントにショックがほぼ感じられなくなったことで、「隙あらば」とエンジンを落としての頻繁なモーター駆動や減速回生などにまつわる違和感は、ほぼほぼ気にならなくなった。それでも厳密に言えばトヨタが擁する「THS」系のシステムに滑らかさは及んではいないが、そのぶん、こちらはトルコンATながらも駆動伝達のダイレクト感が勝っている。今日び、欧州勢はプラグインハイブリッド開発が至上の命題と化しつつあるが、e-tronのドライバビリティーからは、メガサプライヤーとも緻密に連携する彼らの技術の日進月歩ぶりがはっきりとみてとれた。
それでもQ7のe-tronにはネガがないわけではない。アウトバーンレベルの動力性能とともに、満充電で最大55kmという強力なEV能力を満たすための大きなバッテリーは車体後部に置かれ、3列目シートの居場所を奪ってしまっている。その能力を使いこなすには200Vのウオールプラグを備えた車庫も不可欠となるだろう。
ローエミッションと動力性能の両立
そういう点においても、日本でより多くのユーザーにフィットするのはストレートな3.0 TDIであることは間違いない。こちらは7シーターのユーティリティーはまったく失われることなく、EU計測値で149-163g/kmのCO2排出量を達成している。一世代前でいえば、ガソリン2リッターハイブリッドの「アウディQ5」とほぼ同等かそれ以上といえば、これがいかほどの数字かお分かりいただけるだろう。ちなみにQ7に搭載されるディーゼルエンジンは、全種NOx処理には尿素SCRを用いている。
0-100km/h加速6.3秒、最高速234km/hという文句のないパフォーマンスは言うに及ばず、3.0 TDIは乗り心地や静粛性の面で大きく進化した新しいQ7の魅力をまったく阻害しないマナーの良さを備えてもいる。エンジン本体は微振動やインジェクターノイズに至るまできっちりとチェックされており、始動時を除けばそれがディーゼルであることを意識することはほとんどない。サウンドにおいても控えめながら高音域を上乗せしたチューニングが施されているようで、5000rpm手前の高回転域に至るまで、吹け上がりは耳障りなガリガリ系の音感も少なく素直だ。何より、61.2kgmのトルクがもたらす伸びやかな加速を知れば、エンジンをそこまで回そうなどという無粋な気持ちも抱かなくなる。やはり四駆にしてこのくらいの車格になってくると、ディーゼルの出力特性は親和性が非常に高い。
ディーゼルの存在意義は大きい
地域によってはディーゼルが乗用車のほぼ半分に至るほど普及が進んだ欧州では、大都市圏でPM(粒子状物質)系に由来する大気汚染が問題視され始めている。一方で確実視されるパリ協定の発効もあり、CO2排出量の削減は商業的都合を待たない世界的必達事項となった。これらの事情をくめば、欧州が電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車など電気系パワートレインの普及を加速化させることは目に見えている。反比例的にディーゼルのシェアは漸減傾向となるだろう。
翻って日本はどうか。まずEVの無秩序な普及による消費電力の増加は、パリ協定うんぬん以前に国家的なエネルギーマネジメントの課題を深刻化させることになる。もちろん原発の電源構成比率を高めるなら話は別だ。現政権は当初の脱原発路線から一歩退いたところにいる。が、いち国民的心情からいえば、それはあり得ない話だと思う。
一方で、世界的課題となったCO2排出量の削減を自家用車のハードの側でまずサポートするすべは、目的用途に沿った動力源の適切な配置にある。小口で近距離を守備範囲とする法人であれば、EVの計画的運用により自らのランニングコストも効果的に削減することが可能になるだろう。使用頻度が低く定速巡航の多いマイカー利用であれば、なにもハイブリッドでなくともコンベンショナルなユニットで全体負荷を下げることができるかもしれない。その中で、著しくガソリンに偏向した燃料構成を下げ、軽油の地消率を一定の度合いで高めることは万一の災害時にもライフライン確保として有効であることは、東日本大震災の際にわれわれが学んだことだ。
もちろん、原理主義的な話をすればQ7のように大きなSUVを走らせること自体が個人のエゴではある。でもわれわれにとって、多様な選択肢は守るべき自由のひとつだ。その折衷点としても、CO2抑制貢献度の高いディーゼルはあってしかるべきものだと思う。何もお財布に優しいというだけが、そのメリットではない。
(文=渡辺敏史/写真=アウディ)
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テスト車のデータ
アウディQ7 e-tron 3.0 TDIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5051×1968×1741mm
ホイールベース:2994mm
車重:2445kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:258ps(190kW)/3250-4500rpm
エンジン最大トルク:61.2kgm(600Nm)/1250-3000rpm
モーター最高出力:128ps(94kW)/2600rpm
モーター最大トルク:35.7kgm(350Nm)/2550rpm
システム最高出力:374ps(275kW)
システム最高トルク:71.4kgm(700Nm)
タイヤ:(前)255/55R19/(後)255/55R19
燃費:1.8リッター/100km(約55.6km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
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アウディQ7 3.0 TDIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5052×1968×1741mm
ホイールベース:2994mm
車重:2060kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:272ps(200kW)/3250-4250rpm
最大トルク:61.2kgm(600Nm)/1500-3000rpm
タイヤ:(前)255/60R18/(後)255/60R18
燃費:5.9リッター/100km(約16.9km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。