第473回:「日産マイクラ」のBOSEに感激!
カーオーディオの歴史をプレイバック
2016.10.28
マッキナ あらモーダ!
初体験は、いすゞのコマソン
アップル社のBluetooth接続ワイヤレスイヤホン「AirPods」の発売が延期になった。理由は明らかにされていない。
2015年に発売された腕時計型ウェアラブル端末「Apple Watch」は、イタリアでハイテクに関心ある人たちに限っていえば、それなりに話題をよんだ。したがってAirPodsも発売されれば、自動車関係の新しいモノ好きが、早速耳に突っ込んでイベント会場に現れるのでは? とボクはひそかに期待している。
それにちなんで、今回は、サウンドデバイスの話をつれづれなるままに……。
東京で中学生だった1980年代初頭、筆者が初めて手に入れたヘッドホンはパイオニア製だった。
最初に聴いたのは、初代「いすゞ・ピアッツァ」のCMソングであった阿川泰子の「シニア・ドリーム」だった。頭の固い親に彼女のアルバムを買ってもらえるはずもないと諦めた筆者は、通学路にあった貸レコード店「黎紅堂」でアルバムを借りてきた。そしてヘッドホンで毎晩こっそりと聴いていたのだった。
マイクを買ってもらう前のボクが、そのヘッドホンのステレオ標準プラグを録音端子に挿してマイク代わりにしていたのも、いい思い出だ。
カーラジオは「降りたら外せ」!?
イタリアに住み始めて4年目の1999年に買った12年落ち「ランチア・デルタ」には、前オーナーが装着したフィリップス製カセットステレオが付いていた。その名は「ドライブマン」。新車当時欧州でも一世を風靡(ふうび)していたソニーの「ウォークマン」にあやかったネーミングだろう。
当時欧州のカーステレオは盗難防止のため、ダッシュボードからスポッと着脱できるものがまだ残っていた。ボクもイタリア人に倣って、運転を終えると抱えて家に持って帰ったり、股(また)を開いてシート下にドライブマンを隠したりしたものだ。やがて1DINのフロントフェイスだけ取り外せる機器が現れると、そうしたことも、かなり楽になった。
しかし、やはりCDを聴きたい。そこで東京時代に使っていた「CDウォークマン」の自動車版“CARウォークマン”を再利用することにした。テープ型アダプターをステレオ側のカセット用スロットに挿して使うやつである。
ダンパー機能を果たす別体トレーが付いているのだが、イタリアの劣悪な路面を走ると、音飛びは当たり前。途切れた部分に復帰できないと、再生が止まってしまった。そのため、好きな曲がかかっているときは、地雷原を走る戦車のごとく、路面の穴や突起を避けて走ったものである。
幸い後年、欧州で販売される車両の多くは、簡単に取り外せないビルトイン型が主流となった。ボクが今乗るクルマもしかり。もはや“股下ラジオ”は遠い昔の話である。
ただし、別の問題が生じた。記録デバイスの変化だ。例えば今ボクが乗っているクルマには、6連奏のCDチェンジャーが標準装備されているが、いまだかつて使ったことがない。6年前の車両購入時点から、すでに「iPod」時代に入っていたためだ。さらに後付けしたデジタル音楽プレーヤーのコネクティングキットも、元はといえばiPod用で、今は「iPhone6 Plus」のライトニング端子を接続するためにアダプターをかませている。著しい規格の変化に、標準装着オーディオがついていけなくなって久しい。
マイクラのBOSEに驚く
話は変わって、10月上旬に開催されていたパリモーターショー2016。日産が公開した5代目「マイクラ」は、フランスで生産されることもあり地元メディアが最も多く報道した1台だった。
早速そのマイクラのドライバーズシートに座ってみると、室内には米国のジャズ歌手ノラ・ジョーンズのボーカルが流れている。彼女の細かな息遣いまで再現している。コンパクトカーにしては十分すぎるオーディオだ。見れば、展示車にはBOSEの「Personalサウンドシステム」が搭載されている。
騒がしい会場ゆえ、それ以上の評価はできなかった。だが、かつて試聴したBOSEサウンドシステム搭載車両や、ボクが使っている同社製のワイヤレススピーカー、ノイズキャンセリングイヤホンの印象からして、マイクラに搭載のものも、類似した音作りと思われた。
よく「BOSEの音はいい」といわれるが、聴き手や再生する音楽ジャンルによっては、見解が分かれると思う。ジャズはBOSEが最も得意とするところで、絶妙な切れといかんなく発揮される美しい低音は誰もが即座に納得するだろう。一方、ロックの場合、人工着色的な音色を伴う他社製オーディオのほうが、現代の若者たちからは好まれるかもしれない。BOSEはその社是の通り、あくまでも原音を忠実に再現しようとするからだ。
クラシックも、例えば1970年代に活躍したピアニストであるグレン・グールドのアナログ音源を再生する場合、一定レベル以上の装置ならBOSEと同等の満足感を得る人は少なくないだろう。しかし、BOSEの本領を発揮するのは最新のデジタルレコーディングだ。他製品で聴こえなかった演奏者の息遣い、バイオリンの上げ弓、下げ弓、ピアノでは打弦装置のアクションが目に浮かぶのだ。それらをコンディションが限られた車内、ワイヤレスデバイス、そしてイヤホンで達成するのが、BOSEの痛快なところである。
そんなことを考えていたボクを外でニコニコして眺めている人がいる。彼も運転席に座ってみたいのかと思い、降りがけに「いい音ですよ」と声をかけると、なんと彼は、マイクラ発表に立ち会うため米国本社から出張してきたBOSEのプロダクトラインマネジャーだった。
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カーオーディオ趣味に歴史あり
よく見ると、マイクラの運転席のヘッドレストにスピーカーが内蔵されている。同様にBOSEのヘッドレスト内蔵型スピーカーが採用されている「マツダ・ロードスター」や、前回お伝えした姉妹車「フィアット/アバルト124スパイダー」が9個であるのに対し、マイクラの場合は6スピーカーだが、コンパクトカーとしては十分すぎるスペックだ。
従来欧州で日産マイクラといえば、コストパフォーマンスを重視する人たちのクルマだった。
今回の5代目はかなり車格アップが図られているものの、BOSEのサウンドシステムをオーダーするカスタマーがどの程度いるかは、実際に発売されてみないとわからない。ともあれ、メーカーとの高度なコラボレーションによる良質なサウンドが、コンパクトカーでも得られるようになるとは。前述のように日々苦労してきた身としては、ちょっぴり感動的である。
前述のプロダクトラインマネジャー氏は「BOSEのハイクオリティーサウンドが、より広いモデルレンジに使われ、多くのドライバーに楽しんでもらえるようになることは、とても喜ばしい」と、自信に満ちた様子だった。
ところで先月、ドイツ・ミュンヘンのBMW博物館を訪れたときのことだ。1955年「BMWイセッタ」のコーナーの脇に往年のカーラジオが展示されていた。
見れば、日本で1970年代後半にファン垂ぜんの的だったオーバーヘッドコンソール式の先祖もあるではないか! 敗戦後の耐乏期でさえ、一般ドライバーたちのオーディオに対する飽くなき追求が存在したことに、恐れ入ったボクである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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