第374回:焼き物の町唐津に幻の野外レストランが登場!
「DINING OUT ARITA& with LEXUS」でアメージング体験
2016.11.05
エディターから一言
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料理人とクリエイターがタッグを組み、野外レストランでゲストをもてなすイベント「DINING OUT(ダイニングアウト)」の第9弾が、2016年10月8日~10日に佐賀県唐津にて開催された。その初日イベントに記者も参加、レクサスがオフィシャルパートナーを務める“アメージングな体験”をリポートする。
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「有田焼」400周年を記念した特別なイベント
唐津といえば、豊臣秀吉による朝鮮出兵(1592~98年)の際に拠点となった、日本の歴史上、重要な地である。当時は10万人が住む町に30万もの兵士が結集し、その規模は、70万都市だったオスマントルコのコンスタンチノープル(現・イスタンブール)、北京、大阪に次ぐ世界で4番目の大きさだったとか。
その唐津で、「有田焼」創業400周年を記念し、「ダイニングアウト アリタ アンド ウィズ レクサス」という特別なイベントが開催されるという。オフィシャルパートナーはレクサス。3夜限りの野外レストランは、当日まで会場がどこであるかは知らされていない。つまりミステリーツアーだ。
あいにく、東京出発時から天気は雨。福岡空港からクルマで唐津までの移動中には、激しい土砂降りに見舞われ、前方視界も得られないほどだったが、予定時刻をずらす形で、なんとか野外で開催する運びとなった。
「到着しました」との声でクルマを降りると、なんとそこは名護屋城跡だった。ちょうど直前にNHKの大河ドラマ『真田丸』で紹介されていた場所でもあり、にわかにテンションが上がる。傘を差し、水たまりをよけながら「馬場」にたどり着くと、目の前には透明のテントで覆われた仮設レストランが出来上がっていた。40名を収容できるホールを抜けると厨房(ちゅうぼう)、その奥にバックヤードと、細長い回廊のように作られている。肉を焼くような香ばしいかおりが広がる厨房では、シェフの渥美創太氏が黙々と最後の仕込みに汗を流していた。
18時、激しい雨音がテント内に響くなか、司会者の「ダイニングアウト、スタート!」の声でイベントの幕が上がった。「よりによって、こんな日に……」という気持ちがないわけではなかったが、「こんなに激しく雨が降るなか開催するのは初めてだ」という彼の言葉を耳にすると、むしろ貴重な日に参加できたことに感謝している自分もいた。400年前もここにあったのだろうか、幹太く伸びる大木がオレンジ色にライトアップされ、少し神懸かって見える。野外イベントならではの醍醐味(だいごみ)は、こんな天候の日にこそより深く感じられるのかもしれない。
斬新なフランス料理と器、酒の供宴
「ダイニングアウト」のコンセプトは現地の素材を使ってその土地の魅力を発信していこうというもの。テーブルにはメニューではなく、1枚、食材の文字が記された佐賀の地図が置かれている。どうやらこれが本日のお品書きらしい。
シナモン風味のゴボウという前菜でスタートしたコース料理の一皿一皿は、どれも斬新この上ないものだった。パリで長年修業し、現在もパリの人気店「CLOWN BAR」でシェフを務める渥美創太氏。細身で色白、寡黙に見えるが、その料理にはパッションが感じられた。
なかでもその目新しさにハッとさせられたのが、1品目の「レンコンのガレット」。灰皿のような器に苔(こけ)が敷き詰めてあり、その上に人さし指大のガレットが乗せられている。目に飛び込んできたときのインパクトも大きかったが、口に入れたときはそれ以上に衝撃的だった。生温かく柔らかい食感のなかに、苦みと甘みとが混じりあう不思議な味。地元のレンコン、シイタケ、米粉を加え焼き上げ、平飼卵をぬり、仕上げにからすみとレモンタイムが添えられている。これがパリの最先端の味なのか!
ガレットのペアリングに供されたのは、オーストリアの白ワイン、ピノ・ブラン。ヨーグルトのような香りを持つナチュラルワインで、清涼感とうまみが染み渡るような独特な味わいに、2度驚かされた。
ほかには、コリアンダーを使った「クエセビーチェ」や、どっしりとしたソースのなかにクミンや山椒(さんしょう)の風味も感じられた「イノシシの煮込み」、舌平目に八丁味噌のソースをまとわせた「ソール八丁味噌」など、日本人の口にも合う料理が数多く登場した。食について素人の私には、ノンジャンルの創作料理のようにも思われたが、渥美シェフによれば、「純粋にフランス料理を作ったつもり」とのこと。素材の違いはあるにしても、オリエンタルハーブや日本の伝統素材を駆使した料理スタイルが、今パリで注目されているというのは間違いない。
料理と並び、重要な主役となるのが、器である。今回はクリエイティブプロデューサーの丸若裕俊氏が佐賀で活動する13人の作家たちを訪ね、料理に合う器を一点ずつプロデュースしている。
佐賀で焼き物が広がったのは、有田泉山で陶石が採れたことに関係しているのだそうだが、同じ佐賀の焼き物といっても、「有田」「伊万里」「唐津」の三産地で作られる焼き物は、どれもまったく違ったテクスチャーを持ち、形や色もさまざまだ。料理の素材も海のものから山のものまでバラエティーに富んでいたが、焼き物に関しても幅広いバリエーションを持っていることを知り、佐賀という土地の懐の深さを感じた。料理も器も、この日のこの瞬間のために、時間をかけて特別に作られたものだと思うと、一皿一皿から伝わる、ものづくりのエネルギーの強さを感じずにはいられない。
「ダイニングアウト」に込められた思い
ところで、レクサスがオフィシャルパートナーとしてこのイベントをサポートする意図はどこにあるのか。ブランドマネジメント部Jマーケティング室の沖野和雄室長によれば、「レクサスを通じて、自分の感覚が広がったというアメージングな体験を提供したい、それこそがこのブランドが伝えたい体験、エクスペリエンス」なのだとか。日本のまだ気づかれていない魅力を発掘し、新しい価値を作り出そうという「ダイニングアウト」に、レクサスは大きな可能性を感じているようだ。
そして彼は続けた。
「ここは、400年前から世界と向き合って戦ってきた場所です。陶器は製品としても、世界に価値を認められ、その関係は今も続いています。日本の文化や日本人の感性をもとにして、世界で戦おうとしているという部分では、われわれレクサスも同じなんですよね。国の最前線に立つという意味では」。
快晴となった翌日、「レクサスGS350」のステアリングを握って唐津の街を散策する時間を持てた。なめらかな加速としっとりとした足まわりから得られるラグジュアリーな乗り心地は、休日のドライブにピッタリだ。十分なトルクが得られるのを感じながら、つづら折れの山道を小気味よく駆け上っていくと、標高284mの鏡山頂上にたどり着いた。防砂林となる虹の松原が、緑色の帯のように海岸線を縁取り、エメラルドグリーンの海の向こうに壱岐まで見渡すことができた。この先には中国、そして世界が広がっている。
はるか400年前、150もの武将が結集し、40万もの人であふれていたという唐津は、どんなにかにぎやかであったことだろう。そんなふうに思いを馳(は)せると、日本の最前線であったというこの土地が持つパワーを、ほんの少しではあるが感じることができたように思う。
(文=スーザン史子/写真=スーザン史子、トヨタ自動車)