ダイハツ・ムーヴ キャンバスX“リミテッド メイクアップ SA II”(FF/CVT)
胸がキュンとなる 2016.11.16 試乗記 ダイハツから、「タント」より少し背の低い“ミニバス”「ムーヴ キャンバス」が登場。「置きラクボックス」や「パノラマモニター」を初採用した新型軽の印象は? ストライプスカラーが映える「X“メイクアップ リミテッド SA II”」に試乗した。ちょっとくらい似ててもいい
15年以上昔の話だが、イタリアで自動車雑誌を買って読んでいたら、カコミ記事に「ダイハツ・ミラジーノ」(初代)のことが書いてあった。日本国内専用である軽自動車の、それもミラジーノのことがイタリアの雑誌に! と驚いて中を読むと、といってもイタリア語なのでおぼろげな意味しかわからなかったが、「日本では『MINI』が大変人気で、それでこのようなパクリカーが発売され、人気となっている」といった内容だった。
当時私は、日本でパクリカーが堂々と発売され、それがかなり売れていることを非常に苦々しく思っていた。後日、ダイハツ関係者からこんな話を聞いて、その思いはさらに強まった。
「販売店に出向していた時、MINIでご来店されたお客さんがいたんですわ。なので、うちにもこういうのがありますってミラジーノをご案内したんですが、『そういうのは興味ない』と、『ネイキッド』を買われましたワッハッハ」
本物に乗っている人に、似ているからとニセモノを薦める。自分がもしも本物に乗っていたらどう感じるか、それを考えた形跡は皆無だ。私は、中国でのパクリ騒動を見るたびに、「人のことを言えた義理じゃない」と感じる。
ただ、今は少しだけこうも思う。「ちょっとくらい似ててもいいじゃない!」と。それは、人類が常に行ってきた自然な行為なので。
モチーフはフォルクスワーゲン・バス!?
で、ムーヴ キャンバスだ。今度は「フォルクスワーゲン(VW)・バス」がモチーフとなっている――のだろうなぁと思う。たぶんそうなのだろうが、決してソックリではない。あのちょっと間の抜けた親しみやすいワンボックスカーの雰囲気を取り入れようと努力したという感じか? 並べて見たらおそらく、似ているのは雰囲気だけだとわかるだろう。
初代ミラジーノに怒りを感じた私も、ムーヴ キャンバスには怒りは感じないし、むしろダイハツの狙い通りに「かわい~い!」と言ってしまった。
発表からそこそこ時間もたっているので、クルマのおおまかな内容についてはすでにご存じでしょうが、ムーヴ キャンバスは「タント」をベースにした軽自動車で、特徴はタントより全高を95mm下げたこと。タントはサイドがほとんど垂直に立っていることもあって、あまりにも全高が高すぎてバランスが悪く感じるが、ムーヴ キャンバスはこの95mm下げにより頭でっかちな不安定感が消え、見るからに自然体だ。自動車の形としてバランスが取れている。繰り返すが、形だけを見れば、「VWバスのパクリ」という意識も湧かない。
このクルマをVWバスっぽく見せているのは、カタチよりむしろ2トーンのボディーカラーだ。特に濃いクリーム色や水色と白の2トーン。このレトロな色使いと、丸みを帯びたワンボックスフォルムの合わせ技で、VWバスっぽく見える。つまり「罪は極めて軽い」ということにしたい。させてほしい! だって私はこのクルマが好きなので。これくらいは良くないですか?
実は私、「ラパン」の形も大好きです。新型ラパンが走ってるのを街で見かけると、思わず抱きしめたくなる。ラパンもムーヴ キャンバスも狙いは女性だが、どっちも54歳のカーマニアのオッサンが、胸がキュンとなるほど愛らしいデザインに仕上がっている。このところの軽自動車のレトロデザインは、経験を積んで非常に奥の深いものになっている。もう「パッと見レトロに仕上げました~」なデザインじゃないです、これは。
走りはラクラク!
話がいろいろそれておりますが、すでに詳報はさまざま出ている時期ですので、こぼれ話的に進めさせていただいております。
さて、ムーヴ キャンバスがつい欲しくなってしまったカーマニアのオッサンが、次に気になるのは走りでしょう。後席下の「置きラクボックス」などの内装の便利装備はともかくとして、ちゃんと走るのかが気になるはず。なにせムーヴ キャンバスにはターボの設定はなく、全車自然吸気(NA)の660cc。それで坂を上るのかと。
上ります!
タントのNAは箱根のターンパイクを上るのに苦労した覚えがある。まあ苦労といっても自分の足で上るわけじゃないので、クルマがとっても苦しそうだっただけだが、ムーヴ キャンバスはタントより元気に感じる。
スペックを見ると、車両重量はタントより10kg軽いにすぎない。全高が95mm低いことによる全面投影面積の縮小=空気抵抗の減少はあるだろうが、それが決定的な要因とも考えられない。タントに乗ったのは3年前なので、その間にエンジンの小さな改良で、実用トルクが向上したのか?
一番の差は、車内の静粛性ではないか。ムーヴ キャンバスはとても静かなのだ。首都高湾岸線で3人乗車でアクセルを床まで踏み切り、エンジン回転が6000rpmに張り付いていても、けっこう静かだし音質もいい。なので心の負担に感じない。「クルマが苦しそう」と感じないのだ。
アンダーパワーのクルマに乗っての疲労感は、すべて精神的なものだ。自分の足で走るわけじゃないので。ムーヴ キャンバスはそれが少ないから「ラクラク」に感じる。
加えて、足まわりのソフトさもイイ。タントは高すぎる全高を持つがゆえに、横転防止のため足をある程度固めざるを得ず、路面からの突き上げがキツめだった。このところダイハツの軽は割合ハードな足を採用する傾向にあるが、ムーヴ キャンバスははっきりソフト。おかげで高速巡航がとってもラクなのだ。
通常、高速巡航ではドイツ車的なソリッドな足がイイというのがカーマニアの常識だが、軽の場合、絶対的な速度が低いこともあってそうはならない。特に首都高のようにジョイントの凹凸がキツい場合は、フンワリソフトな足の方がはるかにラク。両側スライドドアのワンボックス形状の場合、絶対的なボディー剛性の確保が非常に難しいので、足を固めるとヒサンなことになる。同じダイハツの「ウェイク」のように。
良心的な操作感
街乗りでも非常にイイ。ここで良さを感じるのは、主に電子スロットルやCVTのセッティングだ。これまた非常に自然なのだ。
出足でガバッと前に出てしまうこともなく、CVT独特のカラまわり感も適度に抑えられている。ブレーキもカックンになりづらい。パワステも軽すぎない。すべてが自然体でまとめられている。
ファミリー向けのクルマというと、アクセルを少し踏んだだけでガバッと出たり、ブレーキサーボが異様に強いクルマが少なくないが、ムーヴ キャンバスはそのあたりの操作感が実に良心的に仕上げられている。これはホントにいいクルマですよ! つい1台欲しくなります。
(文=清水草一/写真=池之平昌信/編集=大沢 遼)
テスト車のデータ
ダイハツ・ムーヴ キャンバスX“リミテッド メイクアップSA II”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1665mm
ホイールベース:2455mm
車重:920kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6800rpm
最大トルク:6.1kgm(60Nm)/5200rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:28.6km/リッター(JC08モード)
価格:147万9600円/テスト車=185万0407円
オプション装備:ストライプスカラー<スムースグレーマイカメタリック×プラムブラウンクリスタルマイカ>(6万4800円)/パノラマモニター対応純正ナビ装着アップグレードパック(5万4000円)/ブラックインテリアパック(2万1600円) ※以下、販売店オプション 8インチメモリーナビ<ブラック>(19万7834円)/ETC車載器<エントリーモデル>(1万7280円)/カーペットマット<グレー>(1万5293円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1067km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:183.0km
使用燃料:13.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.5km/リッター(満タン法)/16.3km/リッター(車載燃費計計測値)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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