ポルシェ911カレラ(RR/7AT)【試乗記】
最後の(?)911 2011.10.18 試乗記 ポルシェ911カレラ(RR/7AT)……1362万5000円
9月のフランクフルトショーで、次世代型(タイプ991)が発表された、伝統的スポーツカー「ポルシェ911カレラ」。バトンを渡すその前に、現行型の「タイプ997」を駆り、その進化について考えた。
いま「911」はどこにいる?
新型「911カレラ」(タイプ991)の試乗記が出ても良さそうなこの時期、なぜか無性に従来型(997)に乗りたくなり、東京の街中を2日間、ごく普通に流してみた。『webCG』では、おそらくこれが997が現役時代の最後の記事になるのではないかと思う。
何でこの時期、わざわざそんなことをするのかというと、ずばり、気になったからである。「最新は最善」とうたわれ、たゆみなく改善が加えられてきた911が今、どれほどの高みに達しているのか、すごく気になったからである。その昔、よく言ったじゃないですか。気に入ったものに本当に長く乗りたいのなら、むしろ最終型が買いなんだと(このフレーズ、最近「BMW135iクーペ」のところでも使った気がするなあ……)。
誕生から48年が経過した911は、その歴史において何度か大きな転機があった。最近では水冷エンジンの搭載(1998年の996型)が一大転換点だったが、いまチマタに出回っている話を総合するに、どうも新型にも相当大きな手が入っているようである。すなわち、新型にはアルミとスチールを組み合わせたまったく新しいプラットフォームが与えられ、ホイールベースが100mmも延長されているというのである。ちなみに、この延びしろはタイプ993から996に進化した時(2270→2350mm)よりも大きい。言ってみれば基礎の打ち直しだ。
新型と旧型を比較すれば当然、新型が「最善」だろうし、どちらが味わい深いかを決めるのはメディアではなく個人である。そういう“バーチャル比較”がしたくて今回、従来型に乗ったのではなく、タイプ997における到達点をしっかり記憶しておきたかった。ただそれだけのことなのである。
受け継がれる“フィット感”
新型のボディーサイズは全長×全幅×全高=4491×1808×1303mm(欧州仕様)と、従来型とあまり変わらない。しかし新型をフランクフルトショーで見た仕事仲間は、口々に「大きくなった」と言っている。これはちょっと心配である。なぜなら乗ると意外にコンパクトに感じる、というのは、911の特長の中でもとても大事なものだと思うからである。
持論をぶたせていただくと、911のドライビングシートというのは、尻でも背中でもなく、腰で座るものである。たとえばブレーキひとつとっても、ドライバーは腰をドシッと落ち着かせなければ、あの踏み応えのあるペダルを満足にコントロールできないからだ(オルガン式の時代はその傾向がさらに強かった)。クルマはバイクとは違い、体を使って曲がるものではない。しかし911というのは乗り手がちゃんとした姿勢で座らないと、本当の意味で生き生きと走らないクルマだと思うのだ。
前方にはヘッドライトへと続く2本の峰がスーッと伸び、これがコーナリング時に猫のヒゲみたいな役目をして、狙ったラインに乗せるためのいい照準になっている。また911のキャビンはガラスエリアが広いおかげで、クーペデザインにしては例外的に死角が少ない。
911とはすなわち無駄なくピチッとフィットしたコンパクトな服。ドライバーにとってこんなに動きやすいものもないのである。たとえファッション的に立派に見えても、筆者はルーズな911など着たいとは思わない。新型が本当に大きく感じられるのか、早く乗ってみたいものである。
一方、久しぶりに乗る997は、十分にコンパクトに感じられるクルマだった。コンパクトで車両感覚がつかみやすいから、スポーツカーにしては異例なまでに街乗りが気楽という特典までついてくる。伝統の正しき継承者である。
変わってしまう、その前に……
街中で乗りやすいといえば、下から上まで驚くほど従順に回る3.6リッターの水平対向6気筒エンジンの存在は大きい。スロットルペダルを踏み込めば一級品の加速を披露するのはもちろん、1000rpm台の半ばからでもボディーをグオッと押し出す底力を秘めている。フラットシックスのこういった柔軟性を街中ではついつい当たり前のことのように感じてしまうが、よく考えてみるとこれはすごいことである。これ以上、どう進化するのかと思っていたら、新型は意外な、いやドイツ車のトレンドからしたら、当然の方向性を示してきた。
新型911カレラには排気量が200cc少ない3.4リッターユニットが載る。最高出力こそ5psアップの350psと発表されているが、オートスタート/ストップ機能を備えたり、PDKには下り坂などでニュートラルで滑走する制御が加わっていたりと、環境技術のメニューがずらりと並んでいる。そういえば、新型からパワーステアリングも電動に移行するそうである。911も変わったものだ。こういった一連の新技術が、911の世界をどう表現しているのかとても興味深い。
新型991型は従来型の“エボリューション”(進化)か“レボリューション”(革命)か? ホイールベースを延長し、骨格を新しく作り変え、環境技術を積極的に搭載してくる姿勢から察して、後者という気がしないでもない。もしかしてホイールベースを延長してできた空間には、ゆくゆくハイブリッドユニットでも搭載するつもりだろうか。
そう考えると従来型がいきなり“アナクロ”に見えてきてしまうが、だとすると従来型は今すぐ買いである。エコ前の、エゴな時代の最後の911、と呼ばれることになるだろうから。
(文=竹下元太郎/写真=高橋信宏)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

竹下 元太郎
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。