ホンダNSX(4WD/9AT)
ホンダの意地と未来が見える 2016.12.01 試乗記 初代の生産終了から10年あまりの時を経て、ようやく現実のものとなった新型「NSX」。ホンダ渾身(こんしん)のハイブリッド・スーパースポーツの走りと、それを支える技術的ハイライトについて詳しく報告する。米国工場製ではあるが
量産市販車として初のオールアルミボディーにV6エンジンをミドシップした初代ホンダNSXは、堂々と胸を張ってスポーツカーと言える数少ない日本車だった。量産といっても生産台数は15年間におよそ1万8000台、この種のスポーツカーとしては決して少なくない数字だと思うが、ホンダの期待値はもっと高かったようだ。リーマンショックや東日本大震災など紆余(うよ)曲折を乗り越えてNSXを復活させるからには、長く継続できるよう環境を整えるのは当然であり、発売直後から急速な円高に苦しんだ初代NSXの轍(てつ)を踏まないよう、最大市場である米国で生産する道を選んだことも理解できる。だがそれでも、ホンダのフラッグシップスポーツカーがアメリカ製だなんて、とわだかまりを抱いている人も少なくないことだろう。
ご存じの通り、確かに新型NSXはオハイオ州メアリズビル工場に新設されたPMC(パフォーマンス・マニュファクチュアリング・センター)で製造されている。ただし、正確に言うならそれは組み立て(アセンブリー)であり、米国組み立てであることがそのままアメリカ車を意味するのであれば、広島のマツダの工場で生産されるイタリアンブランドのスパイダーは日本車と言わなければならない。自動車に限らず、このような例はもはや現代ではまったく珍しくない。どこで作られたか、というよりもどのようにして作られたか、に注目しなければならない。しょせんアメ車だろう、とひとことで突き放してしまっては、苦手の納豆が好きになるほど栃木県に通い詰めたというテッド・クラウスLPL(ラージプロジェクトリーダー)の立つ瀬がない。
2011年の末に新型NSXのLPLに任命された彼が真っ先に考えたのは、できるだけ早くオリジナルNSXの開発メンバーと話をすることだったという。ちなみにリーマンショックでの休止を経て、新型の開発作業はそれ以前に日本で始まっていた。果たして、最初のミーティングは宇都宮の居酒屋で行われたと聞くが、それ以降、数え切れないほどアメリカ側も日本側チームも日米を往復し、テッドはNSXフィエスタにも開発メンバーを率いて参加するなどして開発が進められたという。その間にエンジン横置きから縦置きツインターボへの大転換があり、また時には日米チーム間で意見が対立することもあったというが、そんな場合は現物を目の前にして議論するという現場主義を貫いて完成したのが新型NSXである。これほど大変な手間をかけて開発した新型を単にアメリカ製と決めつけていいはずがない。
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エンジンはコスワース製
そもそもアセンブリーはオハイオ工場敷地内に新設されたPMCで行われるとはいえ、75度というV6では異例のバンク角を持つエンジンのブロック、ヘッドは、実はモータースポーツ界では泣く子も黙るコスワース社の手になるものだ。少量生産と高性能を考慮してサプライヤーとしてのコスワースにホンダが依頼して製造されているもので、ダミーヘッド&ブロックホーニングやプラズマ溶射によるシリンダーコーティングなど、非常に高精度な加工を施されている。前者はダミーのヘッド/ブロックを取り付けた状態(力を加えた状態)での切削加工、後者はシリンダー内部に高温高圧でスチールを吹き付けてコーティングする手法で、ポルシェやメルセデスの一部モデルに採用されている。ホンダもかつてのように極端な“自前主義”にこだわっている時代ではないのだ。
また9段DCTトランスミッションは浜松工場製、クランクやコンロッド、ターボチャージャーなどの主要部品も日本製である。縦置きドライサンプだから当然なのだが、念のために言っておくと、パワートレインは「レジェンド」用とはまったく異なる新開発のものだ。さらにはレーシングカー並みの強力な潤滑システムを備えたドライサンプユニット、二重三重の冷却システムなどを見ると、どうも500psちょっとのエンジンのためには大げさすぎるというか、ぜいたくすぎるような気がしてならない。
ハイブリッドならではの個性
NSXには507ps/6500-7500rpmと56.1kgm/2000-6000rpmを生み出す3.5リッターV6ツインターボエンジンに加え、左右独立して加減速を制御する(電動駆動も受け持つ)37psのモーターがフロントに2基備わり、リアには48psのダイレクトドライブモーターがトランスミッションに内蔵されている。すべてを合わせたシステム最高出力は581psと、他のスーパースポーツに匹敵するが、NSXは一切の猛々(たけだけ)しさや凶暴性を感じさせない。デフォルトのスポーツモードやクワイエットモードではモーターによってスルリと静かに発進し、極めてスムーズに素早く変速していくし、たとえトラックモードでも、ランボルギーニのようにガツンガツンとショック(演出気味だが)を伴うことはない。洗練度を第一に扱いにくさを取り去り、非常にイージーで快適な使い勝手という初代モデルと同じ美点を備えている。
無論スロットルペダルを踏み込めば恐ろしく速いけれど(公式に発表されていないが0-100km/h加速は3秒という)、ワイルドというよりスマートな速さと、ツインモーターによる本当のトルクベクタリングのおかげで、コーナーのイン側にスパッと貼り付くキレのある挙動が新型NSXの真骨頂である。
細部には注文あり
細部の仕上げなどについては残念なところはある。正直に言えば、少なくない。多くの方がすでに指摘している通りだと思う。テラテラのいかにもプラスチック然としたノーズ部の見栄えといい、インテリアの細部の仕上げ品質といい、まるで見落としたのかな、と訝(いぶか)るぐらいに、いわば“アテンション・トゥ・ディーテイル”に欠けていると思う部分はある。私が一番残念に思うのは、フロントフードを開けた際の雑然とした眺めである。せっかくの凝ったアルミ材を組み上げたフレームがすべて真っ黒に塗られ、ツインモーターユニットやラジエーター用の配線や配管が整理されずに縦横に入り組んでいる。あくまで市販前の試乗車ゆえ、実際に顧客に届くクルマがこのままか定かではないけれど、もう少し見栄えを何とかしてほしい。それに整理整頓すればちょっとした物入れぐらいは確保できるのではないかと思う。リアに小さなトランクはあるものの、問題は容量よりも内部がかなり熱くなることなのである。
とはいえ、私たちが見たのは、まだ日本ではデリバリーも始まっていない新型NSXの最初のページにすぎない。これをベースにGT3マシンが開発されるというが、もっとハードなロードゴーイングモデルも計画されていないというほうが不自然だ。レーシングカー並みのパワーユニットの他にも、ホイールハウス内のカバーされた通気孔など、次の一手が垣間見えるような手がかりがある。だから日本向けは年間100台という数字を聞いて、日本市場を軽く考えているなどと腹を立てる必要はない。じっくり待っているうちに、意外に早くその姿が明らかになると私は推測する。テッドはしつこく粘る私に、あきれた顔で「そんなに待たせない」と言ってくれたのである。
(文=高平高輝/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ホンダNSX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4490×1940×1215mm
ホイールベース:2630mm
車重:1780kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:507ps/6500-7500rpm
エンジン最大トルク:56.1kgm/2000-6000rpm
フロントモーター最高出力:37ps/4000rpm(1基当たり)
フロントモーター最大トルク:7.4kgm/0-2000rpm(1基当たり)
リアモーター最高出力:48ps/3000rpm
リアモーター最大トルク:15.1kgm/500-2000rpm
システム最高出力:581ps
システム最高トルク:65.8kgm
タイヤ:(前)245/35ZR19 93Y/(後)305/30ZR20 103Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5P)
燃費:12.4km/リッター(JC08モード)
価格:2370万円/テスト車=2671万4000円
オプション装備:ボディーカラー<ヌーベルブルー・パール>(67万円)/カーボンファイバーエンジンカバー(40万円)/カーボンファイバーインテリアスポーツパッケージ(36万円)/カーボンセラミックローター+ブラックキャリパー(113万4000円)/電動4ウェイパワーシート<セミアニリンフルレザー>(45万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3427km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:232.4km
使用燃料:32.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/7.3km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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