第262回:最悪すぎて可能性は無限大
2023.07.10 カーマニア人間国宝への道私に13台の中古フェラーリを売った男
いつのまにか、初めてフェラーリを買ってから30年の歳月が流れた。記念日には無頓着な私だが、その日だけは自分の人生の記念日、いや金字塔として記憶に刻んでいる。
1990年式「フェラーリ348tb」、1163万2800円にて購入。契約日は1993年7月6日、7月18日納車。日付は最近調べて判明した。というより、「そういえば今年で30年!?」と気づいたのも最近なのだが。
訂正。今後、上記記念日を人生の金字塔として記憶に刻みます!
最初に買ったウルトラ初期型348tbは直進安定性が恐ろしいほど低く、高速道路では臨死体験の連続だった。電気系の接触不良? で何度もエンジンが片バンク止まったし、最後はタイミングベルトテンショナーベアリング崩落という大きな故障もあった。それらはすべて自分の糧となり宝となった。
最初の348では、それなりの苦労をして経験を積むことができたが、その後買った12台のフェラーリは、苦労と呼べるようなものは皆無。ただただ極楽浄土を味わって過ごした。振り返れば、31歳で初めてフェラーリ348を買い、それを手放すまでの5年半が、自分にとっての青春時代だった。
では、エノテンはどうか。私が買った13台の中古フェラーリすべてを売った男、現「コーナーストーンズ」代表の榎本 修氏である。今回は、30年と少し前の、ひとりのスーパーカーブーマーの熱すぎる青春を振り返ってみたい。
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優良企業を辞め自ら地獄へ飛び込んだ
エノテンは、東海大学工学部卒業後、新卒でトヨタ自動車にエンジニアとして就職するも、3年で辞め、中古フェラーリ業界に身を投じた。時は1991年。バブル崩壊の真っただ中だった。
「この会社にいたら一生フェラーリは買えない。でもフェラーリ屋に就職すれば、そのうち買えるかもしれないと考えたんです」
そう思って就職した八王子のフェラーリ屋は、すでに悲惨な状況だった。
「フェラーリの値段が奈落の底へと落ちていく時期で、お客さんなんて誰ひとり来ませんでした。在職中、ひとりも来なかったと思います。ウフフ~」
そんな状況で、エノテンは何をしていたのか。
「当時僕がやっていたのは業販です。在庫車はまったく売れませんし、新たな仕入れもないですから、それしかなかったんです。他店の雑誌広告を見て、そのクルマを買ってくれるお客さんを探して紹介することで、一台あたり5万円から10万円の紹介料をもらうんです。お客さんといっても普通のお客さんなんかいませんから、全部業者とかブローカーです。業者と業者の仲介をしてお小遣いをもらうんですよ。そうやって、毎月なんとか自分の給料の3人分くらいの利益を上げて、傾いた会社に貢献していました」
すさまじい話である。客の消えた業界で、自分のシッポを食うようにして食いつなぐ。これに比べたら、初期型348が真っすぐ走らなくて臨死体験! なんてのは優雅なお遊びだ。エノテンはトヨタという超優良企業を辞め、自ら地獄へ飛び込んだというしかない。後悔はしなかったのか。
「僕を引き留めてくれた人たちに、『そら見ろ』って言われるかもなぁとは思いましたけど、あまりにも絶望的な状況だったので、逆に可能性は無限大に思えました。ウフフフフ~!」
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あと29年は店頭に立ち続ける
最悪すぎて可能性は無限大。すばらしい言葉だ。これぞ泥まみれの青春!!
「あの頃の業販の経験が、今でも生きてます。あの時つくった人脈が、その後中古フェラーリを仕入れる水源になりました」
八王子のお店は入社後1年余りで倒産し、エノテンは「ナイトインターナショナル」に移籍。その年、初めて普通のお客さんに「フェラーリ328GTS」を売った。価格は1380万円、下取りは「ホンダNSX」。畑の脇のアパート住まいの、クルマ好きのサラリーマンだった。それは、エノテンが中古フェラーリ業界に入って初めて見た、本物の希望だったという。それに続いたのが私である。
「翌年、清水さんが348を買い、その顛末(てんまつ)を『そのフェラーリください!!』(講談社刊)に書いてくれたのは、僕にとってイエス・キリストの降臨でした。その後25年間くらい、普通のサラリーマンにフェラーリを売って売って売りまくることができました。ありがたくて涙が出ます」
身近で見知っているが、普通のサラリーマンにフェラーリを売るというのも大変な仕事だ。なにしろ相手はカネがないのだから、安くするしかない。エノテンは25年間、高額商品を扱うビジネスとしては信じられないような薄利多売を繰り返し、通算2000台以上のフェラーリを売った。青春がずっと続いたのである!
「でも、本当に欲しい人にフェラーリを売る仕事は、希望のカタマリです。これも、地獄の業販時代があったおかげです」
地獄がなければ天国もない。世の中は表裏一体だ。
「今は中古フェラーリの高騰で、サラリーマンのお客さんは皆無になりましたけど、富裕層専門店として、希望のカタマリで頑張ってます。あと29年間は店頭に立ちますよ!」
せめて私は、一生328GTSに乗り続けよう。青春の長い長いシッポとして。そろそろ故障でもしてくれないかなぁ。
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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