第383回:テスラが自動運転機能の安全性を強化
新ソフト「バージョン8.0」搭載の「モデルS」に試乗
2016.11.29
エディターから一言
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テスラモーターズは2016年の秋、オートパイロットと呼ばれる自動運転機能の安全性強化を中心とした新ソフトウエア「バージョン8.0」の配信を開始した。このアップデートでテスラはどのように進化したのか。バージョン8.0を搭載した最新の「モデルS」に試乗した。
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オートパイロットはまだアシストにすぎない
テスラモーターズの現行ラインナップであるモデルSと「モデルX」が、他のブランドのクルマと決定的に違うのは、購入後、ディーラーに持ち込むことなく機能をアップデートすることができるところにある。PCやスマホのようにインターネット経由でソフトウエアをアップデートできるのだ。iPhoneのアップデートには毎回ワクワクする。大して変わらないこともあるけれど、この前みたいにカメラに「ポートレート」機能が追加された時には、なんだか得した気になる。
テスラモーターズは2012年にモデルSを発売した後、大小いくつものアップデートを配信した。例えば、
12年10月:クリープ機能を追加。
13年03月:予約充電可能に(電気料金が安い時間帯に充電可能に)。
13年10月:オーナーズマニュアルをタッチスクリーンに表示可能に。
14年09月:路面の悪い場所を認識し、あらかじめ車高を高くできるように。
15年01月:TACC(いわゆるACC)と正面衝突警報を追加。オートハイビーム追加。
15年03月:自動緊急ブレーキ(いわゆる衝突被害軽減ブレーキ)を追加。
15年10月:オートパイロット(オートステアリング、自動車線変更、オートパーキングなど)を追加。
16年01月:サモン(車外からスマホで出庫や入庫を可能にする機能)を追加。
残念ながら、TACCや正面衝突警報が追加された際には、カメラやレーダーなど、ハードウエアの追加を必要とするため、それ以前に購入したモデルは対象外だったが、とはいえいつ買っても買った時よりも機能が増えている。
そしてこの秋、バージョン8.0という新しいアップデートを配信した。タッチスクリーンのインターフェイスが初めて変更され、見やすくなった。Googleマップを使ったカーナビは見やすさも使いやすさも、当初に比べればかなり向上した。それからオートパイロットは、今夏、アメリカでユーザーがオートパイロットを作動させている最中にトレーラーとぶつかり死亡した事故を踏まえ、これがまだ自動運転ではなくアシストだということを明確にドライバーに知らせるようになった。最新の8.0を搭載したモデルSに乗る機会を得たのでご報告したい。
ステアリングから手を離し続けると最終的に停止する
走行中、クルコンレバーを手前に2度引くとオートパイロットが作動する。セットした速度でクルーズし、先行車を検知すると、設定した車間を保って追従する。また、車線を認識し、ステアリング操作をアシストしてくれる。従来よりも車線の中央を維持する能力が向上したように感じた。車線を変更したければ、変えたい方向にウインカーを出せばよい。2秒間点滅した後、(変更先の車線に車両がなければ)自動的に車線変更される。
これがオートパイロットの主な機能だが、従来これらの機能はステアリングホイールに手を添えていなくても警告が出なかった。テスラはオートパイロット機能について、オーナーに対し、ショールームに見に来た時、契約の時、納車の時の計3度、この機能はアシストであるということを説明すると決めているそうだ。けれど、作動中には警告が出なかった。これをバージョン8.0では、手を添え続けるよう注意するようになった。
例えば、オートパイロット中、一定時間を超えてステアリングホイールから手を離したままだと(何秒間かは明らかになっていない。またケース・バイ・ケースで警告が出るまでの時間は変わる)、メーターの枠が白く点滅する。この状態ではオートパイロットは作動したまま。それでも手を離したままだと、ステアリングを握れという図式の警告がメーター中央に表示される。同時にアラームも鳴るようになり、かなり不快な状態となる。依然手を離したままだと、枠の点滅、警告に加え、ハザードランプがつき、速度が落ち、程なく停止する。テストした際には、後続車が迫ってきて怖い思いをしたが、これはむしろ運転者が意識を失った場合の措置だろう。
自動運転はすぐそこに
アメリカの死亡事故の原因は明らかになっていない。つまりオートパイロット任せじゃなくドライバー自身が運転していれば避けられた事故だったかどうかはわからない。けれど、テスラは自動車メーカーとして、ここでいったん立ち止まり、このアップデートを配信したように見える。自動運転社会というものはいつかやってくるのだろうが、だれでもわかるように人の生死に直結するものであるだけに、技術的にも、法的にも、倫理的にも、慎重なプロセスが求められる。リスクを背負い、この分野で(少なくともわれわれ一般ユーザーの目に見えるかたちにおいては)トップを走るブランドならではの判断といえる。
ただし、テスラはバージョン8.0の配信とほぼ同時に、壮大な計画を発表することも忘れない。それによると、今後生産されるモデルS、モデルX、それに間もなく発売される「モデル3」に、8個のカメラ、12個の超音波センサー、ミリ波レーダー、それに従来の約40倍の演算能力をもつコンピューターを車載する(逆にレーザーはなくなる)。ユーザーはそれらをすぐには利用できないものの、近い将来、技術的、および(国によって異なる)法的に準備が整った段階で、追加されたデバイスを使った完全自動運転を可能とするソフトウエアアップデートが配信されるという。つまりこれからテスラのどれかを注文すれば、納車されるその個体で、いつの日か自動運転が実現されるというのだ。テスラモーターズのイーロン・マスクCEOは「2017年内に新しいデバイスを搭載したモデルで、ロサンゼルスからニューヨークまで完全自動走行してみせる」と宣言した。さすがにこれはちょっとワクワクする。
(文=塩見 智/写真=テスラモーターズジャパン/編集=竹下元太郎)

塩見 智
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