第385回:ランドローバーBARがシリーズ制覇!
世界最高峰のヨットレース、アメリカズカップを観戦して
2016.12.12
エディターから一言
拡大 |
世界最高峰の国際ヨットレース、アメリカズカップのワールドシリーズ最終戦・福岡大会(2016年11月18日~20日)を、ランドローバーBARチームが制覇。これにより、同チームがシリーズ優勝を成し遂げた。決勝は2017年。英国チームは、常勝米国にどこまで迫ることができるか。勝負はがぜん面白くなってきた。
拡大 |
拡大 |
なぜ米国が圧倒的に強いのか
世界最高峰のヨットレースにして、サッカー・ワールドカップよりもゴルフの全英オープンよりも古い、世界最古のスポーツトロフィーとして知られるルイヴィトン・アメリカズカップ・ワールドシリーズが福岡市の地行浜(じぎょうはま)で開かれ、ランドローバーBARチームを応援すべく、現地で観戦してきました。結果は皆さんご存じのとおり、土曜日に3レース、日曜日に3レースを行う今回の戦いにおいて、ランドローバーBARは見事優勝! 次のステップであるルイヴィトン・アメリカズカップ・クオリファイアーズへ有利な条件で進出することが決まりました。
アメリカズカップは日本初開催、アジア初開催です。ヨットファンには言わずもがなでしょうが、アメリカズカップはアメリカ合衆国が開催するヨットレースということではありません。今から165年前の1851年、英国が第1回万博開催を記念し、ワイト島を1周するレースを開催したのですが、多くの英国チームに交じって米国からのチームが「アメリカ号」で参戦しました。レースでは、そのお客さん的に参戦した米国のチームが見事優勝、トロフィーを合衆国へ持ち帰りました。その偉業をたたえ、このレースはアメリカズカップと名付けられたのです。アメリカ号のカップということですね。
以来、数年ごとに開かれるレースで毎回米国チームが勝利し、1983年に豪州チームが勝利するまで、132年間、米国がトロフィーを守り続けたのです。ちなみに、これ以外に米国以外が勝利した例は、95年のニュージーランドだけです。圧倒的に米国が強い。なぜか。実力が優れているというのは大前提として、加えてチャンピオンが次の大会の開催権を得て、ルールやヨットの規格を決められるという特権があることも大きいのではないでしょうか。
ベン・エインズリー率いるBARチームで戦う
かつて同名のF1チームがあったため、紛らわしいのですが、英国チームのランドローバーBAR。BARはベン・エインズリー・レーシングのイニシャル。ベン・エインズリーは英国ヨット界のスーパースター選手で、これまでにオリンピックのヨット競技で金メダルを4つ獲得した人物です。今年開かれたリオ五輪にも望めば英国代表として出られたものの、アメリカズカップに専念するため、出なかったということです。その彼が率いるランドローバーBARが英国代表として、今回のアメリカズカップ・ワールドシリーズを戦い続けてきたというわけです。その最終戦が福岡。
アメリカズカップはワンメイクレースです。防衛艇(前回チャンピオン)のオラクル・チームUSAが提案し、他の挑戦艇が同意したAC45Fという規格のカタマランを使います(この後の本戦に相当するシリーズではまた異なる規格を使います)。全長13.45m、マストの高さ21.5m、重量1320kg、骨格がアルミ、ボディーパネルがカーボンファイバーです。
最大の特徴はダガーボードの先端がL字型に曲がっている点。これによって、水中で揚力が生まれ、12ノット(22km/h)程度に達するとヨット全体を浮き上がらせることができるのです。水中翼船ですね。その状態だと抵抗が4分の1程度に減るため、余計スピードが出るというわけ。最高速は40ノット(74km/h)に達するそうです。動力付きの船としても相当速い部類ですね。プレジャーボートをもつ知人にその速度を伝えたところ「魚雷かよ!」というツッコミをいただきました。
水上で繰り広げられる“静かな駆け引き”
土曜日のレースを観戦用ボートで海上から観戦しました。どのチームのヨットも速いです。ま、世界で一番速いヨットを見ているわけですから当然ですが。印象的なのは静けさ。F1なりエアレースなり、自分のなかにスピード=エンジン音という先入観がありますが、それを打ち破る静かなスピードレースでした。水を切り裂く音と風によってマストがはためく音しかしません。
乱暴に言えば、横からの風を受けて進むもので、風向とヨット(マスト)の角度の関係こそがキモです。例えば、次のブイなどの目標に対し、最短距離で進むより角度を付けて遠回りしたほうが、距離は伸びるが(風をうまく受けられるため)時間的に早い……といった戦術や、敵の風上に位置して敵に風を当てないといった駆け引きが、あの優雅に見える静かな集団の中で繰り広げられていると思うと、ヨットレースについてもっと深く知りたいと思えてきます。
ランドローバーBARのCEOはマーティン・ウィットマーシュ。F1チームのマクラーレンの代表だった人です。土曜日のレース後、いくつかの質問を受け「アメリカズカップで一番重要なのはエアロダイナミクスだが、F1と似ていて、セーラー、チーム、ヨットのパッケージがそろわないと勝てない。ワンメイクだが、総合的にはF1よりもチームの自由度が高い。開発費を含め約1億1000万ポンド(150億円)をかけている」などと答えた後、ちょっと思わせぶりな表情で「F1の後、クリーンな世界に来られてうれしい」と述べていました。F1時代、つらかったのかな?
次戦は2017年5月バミューダで
アメリカズカップは長い戦いです。昨年夏から今回の福岡戦まで、6チーム(オラクル・チームUSA、ランドローバーBAR、グルパマ・チームフランス、ソフトバンク・チームジャパン、アルテミス・レーシング<スウェーデン>、エミレーツ・チームニュージーランド)が、1年半をかけてアメリカズカップ・ワールドシリーズを行ってきました。この6チームは次にクオリファイアーズ(17年5月26日~6月5日。バミューダ諸島)へ進みます。ここからはマッチレースの総当たり戦です。ワールドシリーズの優勝のランドローバーBARは2ポイント、準優勝のオラクル・チームUSAは1ポイント与えられた状態で戦うことができます。
面白いのは、オラクル・チームUSAは前回優勝した防衛艇です。つまり残り5チームはこのオラクル・チームUSAに挑む権利をかけて戦っているわけです。ただし、レースに出続けているほうが調子を維持しやすいということで、オラクル・チームUSAも序盤のレースから出てよいのです。だってルールを自分たちで決められるから。
そして次に行われるのがルイヴィトン・アメリカズカップ・チャレンジャー・プレーオフ(17年6月7日~12日。バミューダ諸島)。オラクル・チームUSAを除く上位4チームによるマッチレース。ここを勝ち抜いた1チームが、挑戦艇として、いよいよアメリカズカップ(17年6月17日~27日。バミューダ諸島)で防衛艇のオラクル・チームUSAと戦うわけです。せっかくアメリカズカップの世界に触れる機会を得たのですから、興味をもって追いかけてみたいと思っています。
ところで、ジャガー・ランドローバーはここのところ日本にとって縁起がよいのです。ランドローバーは2015年のラグビーワールドカップのワールドワイドパートナーでしたが、同大会で日本代表は南アフリカに勝利し、スポーツ史上最大の番狂わせといわれる活躍を見せました。それからテニスの錦織 圭選手はジャガーのアンバサダーを務めていますが、就任早々に全米オープンテニスで決勝進出しましたし、それ以降もここ数年の快進撃は説明不要です。そして、日本で開催されたアメリカズカップ・ワールドシリーズでは、ランドローバーBARチームが優勝しました。ブレイクしたいアスリートはジャガー・ランドローバーの門をたたくべきではないでしょうか。
(文=塩見 智/写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン/編集=竹下元太郎)

塩見 智
-
第863回:3モーター式4WDの実力やいかに!? 「ランボルギーニ・テメラリオ」で雪道を目指す 2026.3.3 電動化に向けて大きく舵を切ったランボルギーニは、「ウラカン」の後継たる「テメラリオ」をプラグインハイブリッド車としてリリースした。前に2基、リアに1基のモーターを積む4WDシステムの実力を試すべく、北の大地へと向かったのだが……。
-
第862回:北極圏の氷上コースでマクラーレンの走りを堪能 「Pure McLaren Arctic Experience」に参加して 2026.2.25 マクラーレンがフィンランド北部で「Pure McLaren Arctic Experience」を開催。ほかでは得られない、北極圏のドライビングエクスペリエンスならではの特別な体験とは? 氷上の広大な特設コースで、スーパースポーツ「アルトゥーラ」の秘めた実力に触れた。
-
第861回:冬道性能やいかに ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を北の大地で試す 2026.2.18 2025年9月に日本ミシュランタイヤが発表した最新のオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」の冬道性能を確かめるために、北海道に飛んだ。ドライやウエット路面に続き、ウインターシーンでの印象を報告する。
-
第860回:ブリヂストンの設計基盤技術「エンライトン」を用いて進化 SUV向けタイヤ「アレンザLX200」を試す 2026.2.13 ブリヂストンのプレミアムSUV向けコンフォートタイヤ「アレンザLX100」の後継となるのが、2026年2月に発売された「アレンザLX200」。「エンライトン」と呼ばれる新たな設計基盤技術を用いて開発された最新タイヤの特徴を報告する。
-
第859回:トーヨーのSUV向け冬タイヤを北海道で試す! アナタのベストマッチはどれ?
2026.2.10 トーヨータイヤが擁するSUV向けの冬タイヤに、北海道で試乗! スタンダードなスタッドレスタイヤから「スノーフレークマーク」付きのオールテレインタイヤまで、個性豊かな4商品の実力に触れた。アナタのクルマにマッチする商品が、きっとある?
-
NEW
「ジープ・アベンジャー4xeハイブリッド」発表会の会場から
2026.3.5画像・写真ジープブランドのコンパクトSUV「アベンジャー」に、4WDのハイブリッドバージョン「アベンジャー4xeハイブリッド」が追加された。その発表会(2026年3月5日開催)の場に展示された同モデルの外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
スバル・トレイルシーカーET-HS プロトタイプ(4WD)【試乗記】
2026.3.5試乗記スバルから本格的な電気自動車の第2弾となる「トレイルシーカー」が登場。前後のモーターから繰り出すシステム最高出力はドーンと380PS。ただし、それをひけらかすような設定にはしていないのがスバルらしいところだ。スノードライブの印象をお届けする。 -
NEW
ホンダ・インサイト
2026.3.5画像・写真4代目はまさかの電気自動車(BEV)! ハイブリッドからBEVへ、4ドアセダンからSUVへと変身して、「ホンダ・インサイト」が復活を遂げた。ドアトリム/ダッシュボードヒーターにアロマディフューザーと、新たな快適装備を満載したその姿を、写真で紹介する。 -
NEW
BYDシーライオン7 AWD(4WD)
2026.3.5JAIA輸入車試乗会2026堂々たるスタイルにライバルの上をいくパワーと一充電走行距離、そしてざっくり2割はお得なプライスを武器とする電気自動車「BYDシーライオン7」。日本市場への上陸から1年がたち、少しずつ存在感が増してきた電動クーペSUVの走りやいかに。 -
NEW
ついにハードウエアの更新も実現 進化した「スバルアップグレードサービス」の特徴を探る
2026.3.5デイリーコラムスバルが車両の機能や性能の向上を目的とした「スバルアップグレードサービス」の第3弾を開始する。初めてハードウエアの更新も組み込まれた最新サービスの特徴や内容を、スバル車に乗る玉川ニコがオーナー目線で解説する。 -
NEW
第951回:日本が誇る名車を再解釈 「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」の開発担当者に聞く
2026.3.5マッキナ あらモーダ!2026年の「東京オートサロン」で来場者の目をくぎ付けにした「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」。イタルデザインの手になる「ホンダNSX」の“再解釈”モデルは、いかにして誕生したのか? イタリア在住の大矢アキオが、開発関係者の熱い思いを聞いた。












