第387回:スバルのもうひとつの顔
知られざる航空宇宙事業の実態を取材
2016.12.15
エディターから一言
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富士重工業(以下スバル)が、愛知県半田市にある航空宇宙カンパニーの半田工場において、工場見学会を開催。知られざる日本の航空産業の現状と、意外なところでつながっている自動車産業との関連性をリポートする。
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中島飛行機のDNAを受け継ぐ
スバルの歴史をひもとけば、その前身が1917年(大正6年)に創立された中島飛行機であることは多くの人が知るところ。同社が「九七式戦闘機」や純国産の中型高速旅客機である「AT-2」を手がけ、戦後の財閥解体を経て1953年に現在の富士重工業として再結集した後も、航空機メーカーとしてのDNAは脈々と受け継がれているのだ。
見学会では冒頭、同社の専務執行役員であり航空宇宙カンパニープレジデントの永野 尚氏から航空宇宙事業や工場の概要等の説明が行われた。
航空宇宙カンパニーは現在3つの工場があり、今回見学会が行われた半田工場はボーイング社の旅客機や防衛省向け航空機の「中央翼」の生産を行う工場。土地面積は5万9000平方メートル、建物面積は1万6000平方メートル、ここで1000人を超える従業員が働いている。
そもそも「中央翼」とは飛行機の中部胴体のことで、左右の主翼外翼と前後の胴体をつなぐ重要な部位。構造としては上部がキャビンの床、下部が機体の下面、内部は燃料タンクになる。また「ボーイング777/787/777X」は主脚格納部も統合されており、その中でも特に787のそれは大型の炭素繊維複合材(カーボンコンポジット)構造で、部材にはチタンも多用されている。
半田工場は、ボーイング777の中央翼を組み立てるために1988年2月に用地取得が行われ、1992年6月に完成。同年12月に組み立てが開始された。その後も、ボーイング787の中央翼の組み立てや増産に対応するために工場は拡張。現在では2020年ごろに就航予定の同777Xの中央翼をはじめ、他機種に対応する組み立てセンターとして進化を続けているという。
また隣接する半田西工場は2005年4月に完成、前述したボーイング787向けの炭素繊維複合材製の外板パネルを生産している。
世界の航空事業に対する大きな影響力
そもそも飛行機はそれぞれのパーツが分割して各メーカーに発注され、その完成パーツがひとつに集められて最終組み立てが行われる。ボーイング社であれば米国ワシントン州にあるエバレット工場が有名だが、スバルは前述した中央翼と主脚格納部をこの半田工場で生産している。
ボーイング777は1994年6月12日に初飛行に成功しているが、スバルは1993年7月に初号向けの中央翼を初出荷、2016年10月24日の段階で1472機の納入を行っている。これは月産8.3機、年間では約100機のペースになる。
一方で、2006年6月より生産を開始したボーイング787の中央翼に関しては2016年には累計500機分の出荷を達成しており、月産10機のペースで生産が続いているという。
見学で入った工場内はクルマのようなベルトコンベヤーやロボットによる頻繁な動きが少なく、パッと見た感じでは「ゆったり」とした印象だ。もっとも777の中央翼は非常に大きなもので、クルマと比較すること自体が間違っているのだが。いずれにせよ、前述したように最終的に飛行機の組み立ては別に行われていることで、出荷前までの高い品質管理やサプライヤーマネジメントなどが要求されるそうだ。
このほかにも、半田工場では自衛隊が運用する「P-1哨戒機」や「C-2輸送機」の主翼や垂直尾翼なども生産。ボーイング社向けの中央翼が海上(隣接する亀崎港からエバレット工場へ)、787については空輸(セントレアから米チャールストン工場)で輸送されるのに対し、国内生産の哨戒機等は陸上輸送で岐阜県などにある他メーカーの生産工場へ送られる。その点でも半田工場は立地的にも有利な環境にある。
また、余談だが工場内には「ボーイング社専用」のミーティングルーム(のような部屋)があった。興味深かったので聞いてみると「ボーイングの方がいらっしゃった際の打ち合わせなども行う部屋です」とのこと。さすがに中を見ることはできなかったが、重要なクライアントであるボーイング社に対する「おもてなし」もしっかり用意されているようである。
最先端の航空機技術がクルマの進化につながる
今回は前出の永野プレジデントの他、航空宇宙カンパニーのヴァイスプレジデントである濱中康宏氏も同席して質疑応答が行われた。それによると、日本の航空機事業は世界の中でも非常に規模が小さいそうだ。
2014年の調査によれば、米国の22.1兆円に対し、日本はわずか1.7兆円。日本の自動車産業(53.3兆円)と比較しても3%というレベルである。
ただ、世界の航空機需要は年々拡大傾向にあり、例えば航空旅客予測は15年周期で約2倍のペースで伸びているとのこと。ジェット旅客機の需要も、2015年の2万0814台に対して2035年は3万8313台と予想されており、さらにそのうちの53%が新規需要と考えられている。
現在のスバルの航空宇宙事業は、売上高においては社全体の約5%と少ない。しかし、前述した世界の需要動向もあって、リーマンショックの時期を除けば確実な成長カーブを描いているという。
今回の見学を通して興味深かったのは、航空機の技術はクルマとは異なる次元で高いレベルにある点だ。素材から加工、構造や空力、制御や電子領域など各分野で高い技術が求められており、これらは自動車ビジネスに応用することができる。
実際、昨今話題の自動運転などは、飛行機の世界では「Way to point」つまり巡航時の自動操縦は常識となっており、その点でもスバルは他の自動車メーカーと異なる技術面のアプローチが期待できる。
一方で、航空機事業側もすでに自動車産業で培われたコスト低減や調達管理のノウハウを取り込んでいる。永野プレジデントの「トヨタ生産方式の影響もあり完成機メーカーとしてのこだわりも持っていく」という言葉にも表れている通り、自動車事業の技術が航空機事業の利益率を上げ、産業自体の成長にも寄与するはずだ。
2017年にスバルは中島飛行機の設立から数えて100周年を迎え、それに合わせて、4月に社名を現在の富士重工業株式会社から株式会社SUBARU(スバル)に変更するという。同社にとって変化の多い一年となるだろうが、ぜひクルマだけなく航空宇宙カンパニーの動向にも注目してほしい。投資家も当然この動きを見ているはずで、文字通り2017年は同社から目が離せない。
(文=高山正寛/写真=富士重工業、webCG/編集=堀田剛資)

高山 正寛
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