第22回:命名“スーパー節約号”
2016.12.20 カーマニア人間国宝への道超絶最高! ランチア・デルタ
ダラダラ寄り道を繰り返しているうちに、購入から早くも丸1年たってしまった欧州のオシャレ牛丼カー「ランチア・デルタ1.6マルチジェット」。実は私、この1年の間に他にクルマを2台も買ってしまっておるのですが、とにかくデルタの話に決着をつけにゃいかんので、書き切らせていただきます。
で、ぶっちゃけこのクルマ、どうなのか?
超絶最高です……。
いろいろ欠点はあるけど最高なんですよ! なぜって、カーマニアである私が乗るために生まれてきたようなクルマだから!
個性的過ぎて軽い吐き気すら催す特異なフォルムや、没落貴族的なインテリアには、いまだに見るたびに陶酔のため息が出る。人もクルマも見た目が9割ですネ!
しかも超レア。買って最初にデルタでお台場・潮風公園(クルマ撮影のメッカ)に入った時、撮影中だった自動車メディア関係者が全員「あれはなんだ?」という目でこっちを見た!
彼らはフェラーリやランボルギーニが入ってきたって、一瞥(いちべつ)しかしない。でも我がデルタには全員が振り返った! あの時の「勝った!」という感覚。これはカーマニアでなければわからないでしょう。
その中のひとりに聞いたところ、「『イプシロン』かな? って思ってよく見たらデルタでビックリしました」とのこと。マニアでもよく見ないとわかんないってのが勝利なんだよ!!
変態性カーマニアにドンピシャ
8年前に我がカーライフにジャイアント・インパクトをもたらした「フォード・フォーカス1.6ディーゼル」(欧州で乗ったレンタカー)と同じ、1600ccディーゼルエンジンを搭載しているのも超ストライクだ。これが2リッターディーゼルだと、全域でトルクに余裕があるけれど、1.6だと微妙に余裕がない。その分ドライバーがちょっとだけ頑張らないといけない。そこがいいのです! 頼られてるみたいで。
変速のたびに軽くガックンとなる、シングルクラッチのセミAT(セレクトロニック)も最高にイイ。一般的には評判の悪いロボタイズドMTだが、私のような変態性カーマニアにはドンピシャだった。
なにしろ多少手をかけてやらないと思い通りにならないのがいい。ほら、MTなら思い通りにできるでしょ? 逆によくできたAT、トルコンやDCTだと、思う必要もなくミッションが勝手にうまくやってくれる。「フェラーリ458イタリア」のDCTなんざ、こっちの想像をはるかに超えた最適すぎる変速をかます。もはや靴を舐(な)めるのみですよ! 服従の快楽。
でも、ロボタイズドMTはそうはいかない。これはフィアット系のセレスピードやデュアロジックに共通して言えることだけど、なんかちょっとイラッとするじゃないですか! それって恋愛に似てないか?
思い通りにならない。だからこそ相手にいろいろ思いを巡らせて、うまく合わせて愛し合う。そこにヨロコビがある! 全部思い通りになったら恋愛じゃない!!
命名“スーパー節約号”
具体的には、まずノーマルモードとE(エコノミー)モードの使い分け。ノーマルモードだと通常2400rpmくらいまで引っ張るけど、減速時の自動シフトダウンも早いので、街中だとショックがちょっと気になる。気になる時は、前方信号が赤になるたびにNに入れる。そういった小さな操作に小さなヨロコビがある。
Eモードで走ってもショックは軽減されるが、2000rpmでほぼ強制シフトアップなので、発進加速が超トロくなる。「ワゴンR」とかにも軽く置いて行かれる。「ああ~、軽に負ける~~~」っていう焦り。あるいは「軽って速いな!」という驚き(笑)が、カーマニアとしてまたジワジワうれしい。初体験なので。
高速巡航は実に甘美だ。2000~2500rpmあたりの、ディーゼルの一番おいしいゾーンを使ってゆっくり流しつつ、ほんのちょっとアクセルを踏み増した時の軽~い加速感。最小のエネルギーで最大の仕事をやってる感じがたまりません! フェラーリエンジンを9000rpmまでブチ回してるだけがカーマニアじゃない! クルマにはこういう繊細な、重箱の隅をつつきまくる快楽もある。
燃費はこれまでの平均で約17km/リッター。軽油ってリッター100円切ってるでしょ? もうタダみたいなもんですよ! しかもワンタンク800kmくらい走るんだから。ほとんど永久機関。ゆっくり流しても5.3km/リッターしか走らない458イタリアとは最強のタッグだ。組み合わせも最高なのですね。
私はこのデルタを、“スーパー節約号”と命名しました。ただの節約を超えた、スーパーなマニアックさに満ちているのです。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。