ホンダCR-Z α・Black label(FF/6MT)【試乗記】
スポーツですカー、エコですカー? 2011.10.11 試乗記 ホンダCR-Z α・Black label(FF/6MT)279万6000円
「ホンダCR-Z」の新グレード「α・Black label」に試乗し、ハイブリッドスポーツカーの存在意義をあらためて考えた。
“スポーティーなホンダ”の象徴
メタリック塗装のアルミホイールが鈍い光を放ち、すごみをきかせている。ドアを開けると、ブラックでコーディネートされたインテリアの中で、3本のペダルだけが浮かび上がる。スポーツカー然としたしつらえだ。「ホンダCR-Z」はハイブリッドのエコイメージとスポーティーな走りという2つの要素を併せ持つクルマだが、「α・Black label(アルファ・ブラックレーベル)」は明らかにスポーティー方向にシフトしている。爽やかなエコの装いをかなぐり捨てて、ワルそうなにおいをプンプンさせているのだ。
映画『アザー・ガイズ』の中で、「トヨタ・プリウス」は軟弱者の乗るクルマとして象徴的に使われていた。ナタリー・ポートマンの『抱きたいカンケイ』でも、プリウスに乗っていたのはいけ好かないインテリ野郎だった。ハイブリッドカーにはそういうイメージがつきまとう。このクルマは、それを払拭してくれるだろうか。
「α・Black label」は、ベーシックな「β」と上級の「α」の2本立てだったところに、新たに付け加えられたグレードである。「α」の249万8000円に対して251万円と、わずか1万2000円しか違わない。エンジンやモーターなどはまったく一緒だから、目的はスポーティーさを強調することだけなのだろう。
今や、ホンダのスポーティーなイメージを一手に担うのは、CR-Zである。「NSX」「S2000」が存在しないラインナップの中では、このモデルの持つ意義は大きい。環境に気を配りながらスポーティーな走りを楽しむ。それが現時点における「ホンダらしさ」のアピールなのだ。
ボタンひとつで3モードを選択
低い着座位置で真っ黒なインテリアに囲まれると、気分は自然に高揚する。左手を伸ばした場所にはシフトノブがあって、それだけでもうれしい。CVTも用意されているが、MTを選ぶ人が4割ほどもいるというのも納得できる。今時マニュアルで乗れるというだけで、希有なクルマなのだ。
とはいえ、スポーツカーであり、エコカーであるというのは、どこか鵺(ぬえ)のようであり、そう言って悪ければコウモリのようであり、二股膏薬(こうやく)……、どうもいい表現にならないな。とにかく、2つの性格を併せ持っているということだ。いったい、どちらの性格が強いのか。確かめるべく、房総半島を目指した。
CR-Zには、「3モードドライブシステム」が装備されている。メーターパネル右横にあるボタンで「SPORT」「NORMAL」「ECON」の3つのモードを切り替えることができる。エンジン、トランスミッション、ステアリングなどを統合制御するものだ。CVTモデルでは変速比を変えるが、MTモデルではそれは無理。代わりにモーターのアシスト量を変化させる。
今回の試乗では、基本的には燃費優先の「ECON」に設定し、アイドリングストップ時にエアコンが止まって暑くなると「NORMAL」に切り替えることにした。そのうえで、交通法規にのっとった普通の運転を心がけた。114psの1.5リッターi-VTECエンジンに14psのモーターを組み合わせたパワーユニットは、今時の超ハイパワーエンジンに慣れた身には特段の感興をもたらすことはない。アクセルペダルを踏んでも回転数の増加が抑え気味なのは、「ECON」モードの効果なのだろう。
バッテリーはフル稼働
モード切り替えはサスペンションには及ばないので、「ECON」であっても乗り心地はスポーツカーのものだ。まるで演出されたかのような硬さで、路面の凹凸を正直に腰に伝えようとする。今時のスポーツカーはもう少し乗員に優しくてもいいような気がするのだが、これがホンダスピリットなんだろうか。
CVTのように変速制御が自動でできない代わりに、シフトのタイミングを指南する機能が搭載されている。アクセルペダルを踏み込んでいくと、メーターパネル内の「UP」の表示の横に上向きの三角が現れ、シフトアップを促す。ちょっと加速態勢に入ったかと思うとすぐさま次のギアを指示され、50km/hを超えると6速に入ってしまう。なるほど、言うとおりに運転していれば、燃費は良くなるだろう。ただ、楽しくはない。
バッテリーの状態も表示されていて、チャージとアシストの量が目盛りで示される。常時チャージかアシストのどちらかに振れており、発電しないモーターも使わない、という状態はほとんどない。目一杯バッテリーの能力を引き出そうとしているようだ。100km/hで巡航していても、ひと目盛りだけチャージ側に振れているのはどういう設定なのだろうか。
瞬間燃費を見ていると、100km/hで20km/リッターを超えている。「フィットハイブリッド」は18km/リッターもいかなかったので、より高速寄りのセッティングになっているようだ。
高速道路を下りて一般道に入ると、信号待ちなどで頻繁にアイドリングストップがはたらく。クルマが動いていても、10km/hを下回ったぐらいでエンジンが止まる。「ダイハツ・ミラ イース」は7km/hだったが、大容量のバッテリーを持つハイブリッドはこのあたりの制御に関しては自由度が高いのだろう。停止/始動の滑らかさでは、フィットハイブリッドに軍配が上がる。そうは言っても、初代「インサイト」のことを思えば、隔世の感がある。
エコとスポーツの差は2割
東京都内から鴨川まで走ったところでメーターを見ると、走行距離は145kmで燃費は16.2km/リッターだった。10・15モードで22.5km/リッターが公称値だから、7割強の数字だ。悪くはない。ここからは心を鬼にして「SPORT」モードを選び、存分にスポーティーな走りを楽しむことにした。これまで緑か青に光っていたメーターの照明は、瞬時に赤に変わった。エコイメージの寒色から情熱の赤へ。実にわかりやすい。
帰路で曲がる道を一本間違え、うっかり山の中に迷い込んでしまった。これでは同じ条件で燃費を計測できないではないか。そう思ったが、戻るのも癪(しゃく)なのでワインディングロードを楽しんで走ることにした。心を迷わすほど、さっきまでとは別物のクルマになっていたのだ。
エンジンの音が、野太く迫力のある音色に変わった。明らかにトルクの出方も活発になり、アクセルペダルとエンジンの間に何か挟まっているような感覚は消えうせた。モーターのアシストも積極的で、加速感は明確に増した。絶対的な速さはもちろんないが、しっかりリミットまで回転を上げて走るのは、一昔前のスポーツカー的な雰囲気もあって悪くない。
高速道路に乗ってからも「SPORT」モードはキープしたままで、出発地点まで帰りついた。燃費表示を見ると、13.3km/リッターである。「ECON」モードでの走行と比べて、2割弱悪化している。ただし、走った道は、帰りのほうが燃費には厳しかった。これは、なかなかの健闘ではないだろうか。
スポーツカーなのか、エコカーなのか。答えは、人によって異なるかもしれない。「ECON」モードと「SPORT」モードでは、明らかに性格の違うクルマになっていた。ボタンひとつで別の2台のクルマを出現させたのだ。
普段用にはエコカーに乗るが、たまにスポーツカーでワインディングロードに出かけたい。そのためには2台所有する必要があるが、CR-Zなら1台でそれを実現できる。スポーツカーの存在を可能にするエコカーという、アクロバティックな芸当には拍手を送りたい。
(文=鈴木真人/写真=菊池貴之)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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