ボルボV40 D4 R-DESIGNポールスターエディション(FF/8AT)
熟成きわまる走り 2017.01.25 試乗記 特別仕立ての内外装や足まわりに、パワーアップしたディーゼルエンジン、専用のエキゾーストシステムを組み合わせた、「ボルボV40」の限定車に試乗。今後のボルボの方向性を示す、スポーツハッチバックの実力を確かめた。“パフォーマンス”がキーワード
基本的に小規模メーカーゆえに、新型車がそう頻繁に出るわけではない。しかし、手を変え品を変え、あるいは大なり小なり……のニュースを絶え間なく提供して、決して埋もれさせないのがボルボの伝統手法だ。
今年の日本発売が予想される新型ボルボは、おそらく近日発売予定の「S90/V90」のみ。ただ、今年のボルボではもうひとつ、好き者間でちょっとした話題になりそうな新商品が導入された。「ポールスター・パフォーマンス・パーツ」と名づけられたスポーツ系の純正パッケージオプション群である。
ポールスターは今やおなじみのボルボ純正スポーツブランドだ。現在のポールスターは、世界ツーリングカー選手権(WTCC)を頂点としたモータースポーツ部門こそ今もボルボから独立した組織だそうだが、市販車部門はボルボの100%子会社となっている。
ポールスター名義の市販商品といえば、これまで限定コンプリートカーの「S60/V60ポールスター」とアフター装着のパワートレインチューンプログラム「ポールスター・パフォーマンス・パッケージ」があった。ただ、意地悪にいうと、それだけだった。
ボルボは長年の戦略のもとに、ドイツ高級ブランドの対抗馬の筆頭に成長しつつある。となると「コンプリートカーとまではいわずとも、AMGやM的なボルボ(=ポールスター仕様)が欲しい」との声が出てくるわけで、ポールスター・パフォーマンス・パーツはそれに応えた商品だ。
ポールスター・パフォーマンス・パーツは「V40」および「60」系に用意される。吸排気系とそれに適合するリアディフューザーによる「エキゾーストセット」、大径ホイールとスポーツタイヤの「タイヤ&ホイールセット」、専用ダンパー&スプリングとストラットタワーバー(S60/V60のみ)の「シャシーセット」、そして、これらすべてに内外装のドレスアップパーツも加えた「コンプリートセット」がある。
150台限定の“初物”
そんなポールスター・パフォーマンス・パーツの発売に合わせて、ボルボ日本法人は、これまた好き者は無視できない限定車を発売した。今回の主役はそれである。
こういう限定商法もまたボルボの得意とするところだが、今回の限定車の名は「V40 D4 R-DESIGNポールスターエディション」という。限定数は150台だそうだ。
その車名を見れば、クルマの成り立ちはほぼ理解できる。ベース車両は、今やボルボの主力エンジンとなった2リッター4気筒直噴ディーゼルターボを積んだV40のR-DESIGNである。ボルボのR-DESIGNといえば、スポーツ風味の内外装備にスポーツサスペンション(普通のV40はツーリングシャシーと名づけられている)を装着した定番のスポーツグレードである。
ただ、V40を一度でも真剣に購入検討した向きならお気づきのように、R-DESIGNは、V40 D4のカタログモデルとしては用意されない。日本におけるV40 D4のR-DESIGNは2015年末に200台限定で一度発売されただけで、今回は2度目。そして“なんちゃらハンマー”の最新ヘッドライトをもつフェイスリフト版としては今回が初となる。
今回はさらに末尾に「ポールスターエディション」とある。そのココロは、この限定車に、おなじみのパワートレインプログラムであるポールスター・パフォーマンス・パッケージと、前記ポールスター・パフォーマンス・パーツの中からパフォーマンス・エキゾーストセットが特別に標準装備されるからだ。
さて、前置きが長くなってしまったが、普段は乗れないV40 D4のR-DESIGNは、予想どおり、なんとも熟成きわまった味である。
高級感あるスポーツハッチ
繰り返しになるが、限定ポールスターエディションのココロは、パワートレインプログラムとエキゾーストセットにある。よって、乗り心地や操縦性の類いは普通のR-DESIGNである(といっても、D4のR-DESIGNそのものが限定なのだけれど)。
最新のR-DESIGNは標準のツーリングシャシー比で、スプリングのレートがフロントで20%、リアで19%引き締めてあるという。そのほか、フロントダンパー減衰、バンプストッパーとリアスタビライザーも強化型となる。18インチタイヤはサイズ、銘柄とも前回の限定車と同じもようだ。
たしかフェイスリフト前のV40 R-DESIGNのバネレートは標準比でフロント+10%、リア+7%だったから、最新型はさらに硬くされていることになる。ただ、クルマ全体がいろいろと熟成されているのか、ズシンという剛性感とそれなりに気分を盛り上げる俊敏性はそのままに、直進時の肩の力のぬけっぷりと路面不整への寛容度は以前より確実に増している。
どんなシーンでも運転操作にピタリと吸いついて、同時に、ほどよく穏やかで、変なクセが皆無の高級感に富むストリートスポーツである。
Cセグメントに45.0kgm近い最大トルクだから、遅いクルマであるはずもない。パワートレイン用パフォーマンス・パッケージのプログラム内容は、ピークの出力/トルク値を引き上げているだけでなく、中速域を意図的に太らせるチューニングとなっている。それなりに硬いシャシーをリズミカルに荷重移動させるだけのレスポンスを発揮する。スポーツハッチと呼ぶに十分な動力性能と操縦性だ。
コストパフォーマンスにも納得
今回のポールスターエディション最大のキモである新しいエキゾーストセットの恩恵は、それなりにある。
ボルボのD4エンジンは、車外で聞くとけっこう勇ましく、そしてディーゼル感も強い。エキゾーストセットを追加すると、わずかだがさらに全体音量が増して、ちょっとだけヌケが良くなる気もするが、“ホレボレする快音”というほどでもない。ただ、車内に伝わってくる音は、ドスのきいた重低音が明確に強調されており、好き者には悪くない。
もはやボルボのV40、D4、そしてR-DESIGNはどれも、ほぼ文句なく熟成されており、その商品力にはなんの不安もない。449万円という価格も、限定だのポールスターうんぬん以前に、“D4のR-DESIGN”という位置づけから素直に納得できる設定であり、ポールスター関連装備はオマケと考えていい。エキゾーストセットは、パッケージオプションとして追加料金を支払うなら費用対効果をじっくり吟味すべきだが、今回のようにオマケならお得感が強い。
よって、この限定車もその成り立ちとスペックにピンときたら“不見転(みずてん)”でオーダーを入れても、まあ後悔はないと思う。
ただし、これまでなら「カタログにないV40 D4のR-DESIGN。限定だから、ほしいなら急ぐべし!」と結論づけるところだが、今後のV40には冒頭のように、ポールスター・パフォーマンス・パーツがある。V40のカタログモデルに、コンプリートセットを追加すれば、R-DESIGN以上のスポーツモデル=ポールスター仕様に仕上げることも可能である。というわけで、純粋にディーゼルのスポーツボルボをご所望なら、そんなに焦る必要もないか。
(文=佐野弘宗/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ボルボV40 D4 R-DESIGNポールスターエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4370×1800×1440mm
ホイールベース:2645mm
車重:1540kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:200ps(147kW)/4000rpm
最大トルク:44.9kgm(440Nm)/1750-2250rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 92W/(後)225/40ZR18 92W(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:20.0km/リッター(JC08モード)
価格:449万円/テスト車=457万3000円
オプション装備:メタリックペイント<バースティンブルーメタリック>(8万3000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1313km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。