マツダ・デミオ 13-SKYACTIV/ホンダ・フィットハイブリッド スマートセレクション【試乗記(前編)】
「みんな」と「ひとり」(前編) 2011.10.02 試乗記 マツダ・デミオ 13-SKYACTIV(FF/CVT)/ホンダ・フィットハイブリッド スマートセレクション(FF/CVT)……150万円/201万6500円
コンパクトモデルの中でも注目のエコカー「マツダ・デミオ 13-SKYACTIV」と「ホンダ・フィットハイブリッド」。性格の違う2台を連れ出して、乗り心地、燃費を比べてみた。
「エコカー」というジャンル
「エコカー対決」がお題である。「ホンダ・フィットハイブリッド」と「マツダ・デミオ 13-SKYACTIV」は、どちらもエコを売り物にするコンパクトカーだ。ただ、真っ向からのライバルかというと微妙で、性格はずいぶん違う。フィットがファミリー指向であるのに対して、デミオはパーソナルな匂いが漂う。価格も、ベーシックグレード同士で比べても19万円の差がある。
それでも対決のステージが成り立つのは、エコカーがジャンルとして認知されるようになったからだ。クルマ選びの要素として、まずエコであることを優先する考え方がある。セダンか、ワゴンか、コンパクトカーかの前に、エコかどうかが判断基準になる。ランニングコストにシビアな目が向けられると同時に、環境性能を意識するのがごく当たり前の習慣として広がってきた。
この2台の大きな違いは、パワートレインにある。名前が示すとおり、フィットハイブリッドはホンダお得意のIMAハイブリッドシステムを搭載する。ガソリンエンジンを主とし、複雑な機構を排したモーターのアシストで補完する方式だ。インサイトと同様の仕組みである。
デミオは、ガソリンエンジン一本で勝負している。一切付加物はない。エンジンそのものの高効率化、軽量化によって燃費性能を上げている。従来の方法を徹底したわけだけれど、新機軸のように聞こえるのが不思議だ。ハイブリッド、プラグインハイブリッド、EVがエコカーの主流のようになっているせいで、エンジン性能を磨き上げるやり方がむしろ新しく感じられるという逆転現象である。ダイハツも、ガソリンエンジンの軽自動車「ミラ イース」を「第3のエコカー」と呼んでいる。本来ならばエンジン技術のブラッシュアップによる低燃費化は、第1の選択肢とも言えるのだが。
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トップクラスの燃費性能で並ぶ
フィットハイブリッドとデミオは、燃費に関してはぴったり同じ数値で並んでいる。10・15モードで、30km/リッターと、トップクラスの燃費性能である。今回は2台を同じコースで走らせ、計測してみることにした。厳密な測り方ではないので、あくまでも参考値と考えてほしい。東京都内から首都高速に乗り、中央道で河口湖を目指した。
まず乗ったのは、フィットハイブリッド。ECONスイッチをオンにして省燃費モードに設定するが、運転は普通に行う。極端な「ふんわりアクセル」で周囲に迷惑をかけるようなことは避け、標準的な運転を心がけた。88psの1.3リッターエンジンに14psのモーターアシストだから、合計で102psということになる。グッと押し出される感覚は、やはり1.3リッターのものではない力強さがある。とはいえ、アクセルを踏み込んでも加速はマイルドだ。パワーの出方は抑えめ、控えめな印象である。意のままに加速し、しかもエコなんて都合のいいことになるわけがない。
青く輝くスピードメーターの中央に位置する「マルチインフォメーションディスプレイ」では、平均燃費を表示することができる。瞬間燃費は数字ではなく、バーの伸び縮みで示される。制限速度の走行では、バーの目盛りはだいたい25km/リッターほどだ。ただし、上り坂になると瞬間燃費はガクンと悪化する。平均燃費で20km/リッターをずっと上回っていたが、談合坂SA前の長い上りが試練となり、大台を割ってしまった。
サイズで違うのは全高だけ
乗り心地は、思いのほか硬い。路面の凹凸はかなりストレートに伝わってくる。加速やハンドリングのマイルドさを考えると、性格付けの方向性が違うように感じてしまうほどだ。後でタイヤをチェックすると、ダンロップのENASAVE 31が装着されていた。葉っぱのマークが刻印されていることが示すように、省燃費タイヤである。このセレクトの影響もあったかもしれない。また、標準で供されるホイールはスチールである。アルミホイールは、最上級グレードの「ナビプレミアムセレクション」でないと標準装備されない。
談合坂SAで表示された平均燃費は、フィットハイブリッドが19.8km/リッター、デミオ 13-SKYACTIVは18.7km/リッターだった。デミオは一度も20km/リッターの大台には乗らなかったという。ただし、ここまでのところデミオが2名乗車でフィットハイブリッドが1名乗車という違いがあった。ここで乗員が交代し、できるだけテスト環境をそろえることにする。
外寸は全長と全幅が同じで、全高のみデミオが50ミリ低い。ほぼ同じサイズなのに、運転席に納まった感覚はまったく違う。フィットハイブリッドではクルマ全体が同一の空間になっている感覚があったが、デミオに乗ると運転席が特権的な地位を占めているように感じられるのだ。ベージュ内装とブラック内装の違いも影響しているかもしれないが、デミオの運転席が引き締まった感情を呼び起こしたのは確かである。走り始めると、印象の違いはさらに明確なものになっていった。(後編につづく)
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。