ボルボV90 T6 AWD R-Design(4WD/8AT)
軽快さが身上 2017.04.20 試乗記 “スポーツドライビングを愛するあなたのための”とカタログでアピールされる、「ボルボV90」のスポーティーグレード「T6 AWD R-Design」に試乗。引き締められた専用サスペンションシステムがもたらす、その運動性能やいかに? デザインや使い勝手も含めてつぶさにチェックした。プラットフォームとエンジンを刷新
このところ、スウェーデンのボルボがアグレッシブだ。リーマンショックによる経済危機の余波で、それまでの米フォード・モーターの傘下から、中国の吉利汽車に売却されたのが2010年のこと。しかし、そこからの経営状態の回復はめざましく、2016年のグローバル生産台数は、前年同期比6.2%増の約53万4000台と、過去最高を記録した。
日本では2016年に最上級SUVの「XC90」を刷新したのを皮切りに、2017年2月に、今回紹介する最高級ワゴンのV90と、最高級セダンの「S90」、そしてV90をベースにSUV的な味付けをした「V90クロスカントリー」の3車種を発売した。すでに海外では、XC90よりもひとまわり小さい「XC60」を発表済みなほか、2017年4月の上海モーターショーでは、より小型の「XC40」も発表される予定だ。
こうしたニューモデル攻勢を支えるのが、吉利汽車への売却後から開発が始まった新世代プラットフォームと新世代エンジンだ。同社のプラットフォームを中大型車向け新世代プラットフォームの「スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)」と、小型車向けプラットフォームの「コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー(CMA)」の2つに集約し、新世代エンジンも4気筒だけに絞るという、高級車メーカーとしては大胆な決断をした。しかも、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンでも可能な限り部品を共通化する。
すでに新世代プラットフォームのうち、SPAはXC90から採用が始まり、今回のV90やS90、V90クロスカントリーは採用第2弾となる。V90は、ボルボの従来の最高級ワゴンだった「V70」に代わるモデルで、車格としてはメルセデス・ベンツの「Eクラス」、BMWの「5シリーズ」、アウディの「A6」などと同じEセグメントに属する。
後輪駆動車のようなプロポーション
実車を目にした最初の感想は「大きい」ということだ。確かに全長が4935mmと、従来の最高級ワゴンV70の4825mmに比べて10cm以上大きいのだが、それ以上に大きく見える。ウエッジシェイプでフロントエンドを低く抑えたデザインのクルマが多い中で、ボンネット先端の位置が比較的高く、水平基調の伸びやかなデザインや、FWD(前輪駆動)ベース車でありながら、まるでRWD(後輪駆動)車を思わせる、前輪の位置を前に置いたプロポーションがそう思わせるのだろう。それでいて、ドイツ車のような主張の強さがなく、あっさりとして押し付けがましいところのないテイストが、いかにも北欧生まれのデザインという感じがする。
この新しいプロポーションが、まさに新しいプラットフォームであるSPAを採用した効果で、前輪の客室内への出っ張りが少なくなるほか、ペダルレイアウトなどが改善され、良好なドライバーの運転姿勢も確保できるという特徴がある。SPAは、客室とエンジンルームを隔てる壁と、前輪の車軸の距離は固定されているが、それ以外の寸法はフレキシブルに変更できるように設計されているのが特徴だ。前輪の位置とエンジンルーム隔壁の距離を固定し、あとの寸法には柔軟性を持たせた設計は、フォルクスワーゲンの新世代プラットフォーム「MQB」とも共通する。
フロントオーバーハングは、FWDベースの大型車としては短めだ。車体前端の角を落として、視覚的に短く見えるようにデザインされている効果もあるだろう。上下に2分割する白いLEDランプを配置した、特徴的なヘッドランプのデザインは、北欧神話に出てくる神であるトールが持つハンマー、その名も「トールハンマー」をデザインのモチーフにしたもので、新世代ボルボ車の一つのデザインアイコンになっている。このヘッドランプも、フロントデザイン全体をシャープに引き締めるアクセントになっている。
リアゲートは、これまでのボルボのワゴンのような切り立ったデザインではなく、比較的大きな傾斜が与えられている。これにより、従来のように実用一点張りのイメージから脱却したスポーティーさを感じさせているのだが、絶対的な荷物の収容量では不利かもしれない。しかし、テールゲートの開口部面積が大きくなり、荷室の奥まで手が届きやすいので、実用性は向上している。
軽やかさより重厚さを重視したインテリア
ドイツの高級車とは異なる、シンプルでクリーンな外観デザインに好感を覚える一方で、内装にはやや残念に感じさせる点もあった。これまでのボルボ車は、北欧的な明るい色使いや、軽やかなデザインの内装に特徴があったのだが、XC90以降のボルボ車の内装は、軽やかさというよりも、重厚さを感じさせる新たなテイストへと変貌しているからだ。これには、今回の試乗車はV90の中では最もスポーティーなV90 T6 AWD R-Designというグレードだったことも影響しているだろう。
個人的には、従来のV70や現行の「V60」「V40」などに採用している薄板を曲げたような形状のセンターパネル「フローティングセンタースタック」が室内に開放感を与えて、気に入っていたのだが、新世代のボルボ車は通常のセンターコンソールになり、切り立った壁のようにデザインされたインストゥルメントパネルや、大幅に高められたセンターコンソールによって、かなり囲まれ感が強くなった。確かに高級感は新世代ボルボ車のほうが上だが、従来よりも北欧的な個性が弱まったように感じてしまう。
今回、日本に導入されたV90には、排気量2リッター直列4気筒のガソリンエンジンにターボチャージャーを組み合わせた「T5」、同じエンジンにターボチャージャーとスーパーチャージャーを組み合わせた「T6」、ターボチャージャーとスーパーチャージャーに加えて、後輪に駆動モーターを備えたプラグインハイブリッド仕様の「T8」という3種類のパワートレインが用意されている。これに、日本のアイシン・エィ・ダブリュ製の8段ATが組み合わせられる。
試乗車はグレード名にT6とあるように、スーパーチャージャーとターボチャージャーを搭載し、四輪駆動システムを組み合わせ、さらにR-Design独自のスポーティーサスペンション仕様としたものだ。
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硬いが軽快な走り
走りだして最初に感じたのは、硬めの乗り心地だ。発進時にアクセルを踏み込んだ時のエンジン騒音も、4気筒エンジンということもあり、高級車としてはやや大きめだ。つまり、いわゆる「高級車らしさ」を期待すると、やや裏切られた気持ちがするかもしれない。
ただし、それとは引き換えに、このクルマで魅力的なのは、全長5m近く、全幅も1.9m近くもある大きなクルマであるにもかかわらず、それをまったく感じさせず、思った通りに振り回せる軽快さだ。エンジンは排気量2リッターながらスーパーチャージャーとターボチャージャーを組み合わせているだけに、最高出力320ps、最大トルク400Nmという、自然吸気エンジンであれば4リッター並みの性能を発揮する。スーパーチャージャーの効果で、アクセルを踏むと遅れなくすっと加速することも、軽快さを感じさせる大きな要因だろう。
そしてもうひとつ、非常に印象的だったのがボディー剛性の高さだ。硬めにセッティングされたサスペンションから伝わる路面の衝撃を、素早く減衰させ、安楽な乗り心地とは言えないが、すっきりした、気持ちのいい走りを実現している。ステアリング操作に対する車体の応答も速く、このことも軽快な印象を強めている。その一方で直進性も高く、軽くステアリングに手を添えているだけで、まさに矢のように直進する。これなら、高速の長距離走行も楽だろう。
150kmほど試乗して満タン法で9.8km/リッターと、ボディーサイズと動力性能を考えれば良好な値を記録した。ラグジュアリーで安楽な高級車を求める向きにはすすめないが、高度な実用性を備え、趣味の道具を満載して、疲れ知らずで高速道路を長距離移動できるクルマを求めているなら、V90はうってつけのパートナーになるだろう。
(文=鶴原吉郎/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ボルボV90 T6 AWD R-Design
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4935×1880×1475mm
ホイールベース:2940mm
車重:1840kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:320ps(235kW)/5700rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2200-5400rpm
タイヤ:(前)255/35R20 97W/(後)255/35R20 97W(ピレリPゼロ)
燃費:12.5km/リッター(JC08モード)
価格:769万円/テスト車=769万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1186km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:158.7km
使用燃料:15.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.8km/リッター(満タン法)/9.6km/リッター(車載燃費計計測値)

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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