プジョー308SW GT BlueHDi(FF/6AT)
ライオン印のグランドツアラー 2017.04.25 試乗記 ディーゼルの本場フランスのプジョーが日本に導入したクリーンディーゼルモデル「308SW GT BlueHDi」で、東京から名古屋までのロングツーリングを実施。往復735kmの道のりで見えてきた、このクルマの魅力と欠点とは?ディーゼルでブランド改革
プジョーのブランド改革が進行中だ。1つ目の戦略は「2008」「3008」「5008」といった「00」モデルを拡充し、SUV路線を推し進めること。もう1つはクリーンディーゼルエンジンの導入だ。「BlueHDi」と名付けられた新型ディーゼルエンジン搭載モデルが、昨年(2016年)の7月から日本に導入されている。
1.6リッターと2リッターの2種類があり、「308」と「508」に搭載されている。今回試乗したのは、2リッターエンジンを積む「308SW GT BlueHDi」だ。最高出力180ps、最大トルク400Nmの強力なパワーユニットは、環境性能も高いという。プジョーといえば軽快なコンパクトカーという従来のイメージから脱却するために、クリーンディーゼルエンジンは重要なアピールポイントとなる。
最近のディーゼルエンジンの常で、アイドリング状態では運転席に侵入するノイズは薄い。ただ、外で聞くとディーゼルらしい音が響く。それでも給油に立ち寄ったガソリンスタンドの店員は気づかなかったようで、「ハイオクですか?」と尋ねてきた。オシャレなフランス車がディーゼルだとは思ってもみなかった、ということなのだろうか。
たまたま名古屋まで取材に行く用があり、往復にこのクルマを使った。経路のほとんどが高速道路ということになる。ディーゼルのメリットが最大に生かされるコース設定でのテストになった。
大トルクのおおらかな走り
高速道路での巡航は、思った通りの快適さだった。豊かなトルクがあり、気持ちがおおらかになる。近頃はダウンサイジングターボのガソリンエンジン車に乗ることが多く、このゆったりした感覚を懐かしく感じた。最新のテクノロジーを満載したガソリンターボは、小排気量とは思えないパフォーマンスの高さを示す。精妙にコントロールされた技術的達成には感心するものの、理詰めの息苦しさのようなものを感じてしまうこともある。
大トルクのディーゼルターボは、ゆとりのある走りでドライバーの心を和らげる。面倒な能書き抜きなら、何も考えずに楽な運転ができるほうがいい。2リッターBlueHDiエンジンは2000rpmで最大トルクに達しているから、高速巡航は至って穏やかである。回転数が低いことで騒音も抑えられているので、車内は快適そのものだ。
正直なところ、街なかを走っている時はディーゼル特有の音と振動をそれなりに感じた。発進から低速走行している時は、少々ギクシャクした動きもあった。高速道路に入ってからは印象がはっきりと好転する。車名のとおり、グランドツーリングカーなのである。
気持ちよく走っていても汚い排ガスをまき散らしているのなら心が痛むが、その点も安心だ。酸化触媒、選択還元触媒(SCR)、微粒子フィルター(DPF)の組み合わせでHC、CO、NOx、PMを効率的に除去している。SCRはトランク下のタンクに貯蔵されたアドブルー(尿素水溶液)が噴射される仕組みだ。1年または1万kmを目安に点検・補給を行わなければならないが、このスパンならそれほど大きな負担ではないだろう。
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ボタンひとつでクルマが豹変
前のクルマを追い抜こうとすると、アクセルペダルを踏み込んでから一瞬のラグを感じる。速やかにスピードを上げたかったら、ステアリングホイールに備えられたパドルを使ってシフトダウンするべきだろう。もっと強力なパワーが欲しい時は、「SPORT」ボタンを押せばいい。即座にクルマの性格が一変する。
アクセル開度が一定でも、エンジンの感触がはっきりと変わる。トンっと後ろから押されるような印象だ。メーターが真っ赤に染まるという、すがすがしいほどベタな演出もある。さらに、もっと派手でわかりやすい仕掛けも用意されていた。加速に合わせてエンジンサウンドが明確に変わる。音量が増すだけではなく、音質が劇的に変化するのだ。
どう考えても4気筒のディーゼルエンジンからは発生しないサウンドだ。ドロドロドロと勇ましい重低音が鳴りわたり、マッチョなアメリカ車に乗っている気分になる。どうやら、実際のエンジン音とは別の音が人工的に加えられているらしい。今のテクノロジーを使えば難しいことではないのだろう。エンジン音の演出は昨今の流行とも言える。
「日産スカイライン」はBoseのノイズキャンセリング技術を使ってエンジン音のアレンジをしているし、「BMW i8」も人工音を使っているという。「ホンダS660」は、スマホアプリでF1マシンのサウンドを流せるようにしている。遮音性を高めるより、音を操作することによってドライバーを高揚させることが好まれているのだろう。本来の音とかけ離れているのは少々やりすぎのようにも感じるが、まあ好き好きではある。
開放感を満喫できるガラスルーフ
SPORTモードでは、メーター表示も変わる。中央に出力、ブースト、トルクが表示されるようになるのだ。出力表示を見ていたら、巡航状態では30~40psしか出ていない。グイッとアクセルを踏み込むと、ほんの一瞬だけ180psに跳ね上がった。最高出力が額面通りに発揮されるのは、強大な瞬発力が要求される場面だけなのだ。
メーターには瞬間燃費も表示される。SPORTモードにすると、あからさまに燃費が悪化した。後ろめたい気分になるが、この太いトルクの気持ちよさに慣れるとなかなかノーマルには戻れない。人間の欲には限りがないから、運転は機械に任せることにした。ACCを使うのだ。表示が英語表記だったこともあって、動作させるのに手間取った。設定はかなりアグレッシブで、ブレーキはちょっと突っ込みすぎにも思えた。ただ、燃費には効果がある。理性的に効率を追求するのは、機械のほうが得意だ。
オプションのパノラミックガラスルーフが装備されていたので、上方の視界が開けている。運転席ではあまり恩恵を受けないが、後席では開放感を満喫できた。心理的に空間が広く感じられるのもうれしい。ここが特等席だと思ってしまいそうだが、段差を乗り越えた時は結構な衝撃を感じた。運転席に戻ると、最小減のロールでコーナーを抜ける感覚が心地よい。硬めに設定された足まわりの美点を存分に味わえるのは、やはり運転席である。
700km以上を走破し、燃費は17.5km/リッターだった。JC08モード燃費が20.1km/リッターだから、歩留まりは悪くない。高速道路中心だったとはいえ、パワフルな走りと燃費性能を両立しているところにBlueHDiエンジンの実力を感じた。
帰り道にSAで休憩した際、駐車場に戻って乗り込もうとしたらドアが開かない。よく見たら似た色の「スバル・インプレッサ」だった。暗かったせいではあるが、外見に際立ったところがあれば間違わなかっただろう。運転席に座ると特徴的なメーターと小径ステアリングホイールが最近のプジョーデザインを明確に主張してきただけに、ちょっと惜しい気がした。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
プジョー308SW GT BlueHDi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4585×1805×1465mm
ホイールベース:2730mm
車重:1530kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:180ps(133kW)/3750rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 92W/(後)225/40ZR18 92W(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:20.1km/リッター(JC08モード)
価格:378万8000円/テスト車=415万1260円
オプション装備:メタリックペイント<マグネティック・ブルー>(5万9400円)/パノラミックガラスルーフ(11万円)/308タッチスクリーンナビゲーション(18万3600円)/ETC(1万0260円)
テスト車の年式:2017年型
テスト車の走行距離:1954km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:735.0km
使用燃料:39.0リッター(軽油)
参考燃費:18.8km/リッター(満タン法)/17.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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