第411回:サーキットでもスゴいんです
ミシュランの最新作「パイロットスポーツ4S」を試す
2017.05.12
エディターから一言
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ミシュランのスポーツタイヤ「パイロットスポーツ」シリーズに新しい1ページが加わった。「パイロットスポーツ4S」は公道での使用はもちろん、サーキット走行までをカバーするハイスペックタイヤだ。F1アブダビGPが開催されるヤス・マリーナ・サーキットでその実力を試した。
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ラベリング対応でサーキットもOK
気温約30度、湿度が低くてカラッと暑い、4月4週目のヤス・マリーナ・サーキット。今回の試走会は正確には「ミシュラン・パッション・デイズ」と呼ぶ。その趣旨は「スポーツカーやレーシングカーの試乗を通じて、ミシュランタイヤが持つスポーツマインドを存分に体感してほしい」というもの。新しいパイロットスポーツ4Sが装着された「フォルクスワーゲン・ゴルフR」のほかに、レース用のスリックタイヤを履いた「ルノー・クリオ」(日本名:ルーテシア)のワンメイクレース用競技車両やフォーミュラ4マシンなどがピットレーンに並んだ。
今回の主役であるパイロットスポーツ4Sにとって、サーキットはうってつけの舞台である。なぜならこのタイヤの真骨頂は、公道におけるスポーツ性能や安全性能に加え、サーキットでのパフォーマンスにあるからだ。
パイロットスポーツ4Sの特徴は、まずは路面がドライ、ウエットにかかわらず、高いグリップ性能を確保した点にある。特にウエットグリップには力が入っており、タイヤラベリング制度で最高レベルの“a”を獲得している。また高いコントロール性能と応答性を誇り、安定した高速性能が楽しめるとうたわれている。公道での基本性能からサーキット走行に求められるスポーツ性までと、パイロットスポーツ4Sがカバーする領域は広い。
聞けば、フェラーリの新しいフラッグシップモデル「812スーパーファスト」をはじめ、同じくフェラーリの「GTC4ルッソ」やメルセデスAMGの「E63」および「E43」の2017年モデルへの純正装着が決定しており、それ以外にも60を超える新型車両に装着するプロジェクトが進行中という。位置付けとしては2011年に発売された「パイロットスーパースポーツ」の後継製品であり、その世代交代は順調に進んでいるようだ。
2種類のコンパウンドで迎え撃つ
路面がドライ、ウエットにかかわらず高いグリップ力を確保したその肝となる技術が「バイ・コンパウンドテクノロジー」である。これはトレッドの外側と内側に2種類のコンパウンドを配置することで、一見両立が難しそうな性能を同時に成立させようというもの。パイロットスポーツ4Sでは、外側にシリカとカーボンブラックのハイブリッドコンパウンドを配置してドライグリップを確保し、内側にシリカの結合力を高めた新しいコンパウンドを用いてウエットグリップを発揮させている。この内側のコンパウンドは、「プライマシー」や「エナジー」のようなエコ性能にも優れたタイヤに使われているものを、よりウエット寄りにチューニングして用いているそうである。ちなみにこのバイ・コンパウンドテクノロジーは、すでにパイロットスーパースポーツや「パイロットスポーツカップ2」(2014年発表)にも採用されている。実績ある技術なのだ。
さらにパイロットスポーツ4Sでは、タイヤと路面の密着度を高め、特にコーナリングにおける優れた操縦安定性を実現するために、アラミドとナイロンのハイブリッドベルトをタイヤのインナーに使用している。これを「ダイナミック・レスポンス・テクノロジー」と呼ぶ。この高強度かつ耐熱安定性に優れたベルトをタイヤの内部構造に用いる目的は、トレッド部のテンションを強化すること、すなわちタイヤが高速で回転しているときに遠心力で生じる変形を防ぐことにある。
公道を舞台に繰り広げられているフォーミュラEのレーシングタイヤからトレッドパターンを受け継ぐなど、パイロットスポーツ4Sにはレースの世界からフィードバックされたさまざまな技術が用いられているが、このダイナミック・レスポンス・テクノロジーも同様。2013年のルマン24時間レースでこのハイブリッドベルトを用いたタイヤを履いた「アウディR18」が1セットのタイヤで5スティントを走り抜き、アウディチームの勝利に貢献したそうだ。
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操る楽しさがある
ヤス・マリーナといえば、コースをまたいで横たわる豪華ホテルや周辺のヨットマリーナも含めた総工費が8億ポンド(約1兆2000億円)に達したことでも知られる超ゴージャスなサーキットだ。全長は約5.6km、ロードコースとしては珍しい左回りとなっている。今回はコースを3つに分割して、ゴルフR+パイロットスポーツ4S、クリオカップカー、フォーミュラ4という3種類の試乗を同時に行った。つまり、いずれのコースも長さは2kmに満たないショートコースでの試乗となったわけだ。
いざ、パイロットスポーツ4Sを装着したゴルフRでコースインし、まずはパイロンスラロームに試す。操舵に伴うレスポンスが過敏すぎず穏やかすぎず極めて自然なこと、そして狙ったラインを正確にたどれるトレース性のよさが印象的だ。
続いてドライブレーキングをテストする。これはサーキットのバックストレッチでスタンディングスタート(ゼロ発進)し、100km/hを超えたところで全制動を開始して停止までの距離を測るというもの。車両に搭載されたGPSベースのデータロガー(VBOX)で計測し、80km/hから5km/hまでの制動距離を有効なデータとして記録・採用する。筆者のデータは1本目:20.1m、2本目:20.0m、3本目:20.0mだった。
ブレーキングというのは、タイヤだけでなく車両側の性能に依存する部分が大きい。ましてや制動の“質感”にも言及するとなると、このテストの結果だけで一般論を導き出すのは難しい。それを踏まえつつ傾向を述べるなら、まず制動距離が予想より短かった。制動開始とともにタイヤがしっかり路面をとらえる様子が伝わってきて、体感的には1割ぐらい短い距離で止まったイメージである。また制動時の安定性が極めて高く、それゆえに安心感に満ちた制動に終始した。
100-0km/hの全制動(体感的に減速Gは1Gちょっとだろう)を連続10本というのならともかく、3回程度ならいまどきのスポーツモデルのブレーキにフェードの兆候など見られないものだ。またこれは後述するハンドリングテストでも感じたことだが、このタイヤは熱ダレに対してひときわ強い感触がある。テスト車が搭載しているVBOXの精度がどれくらいなのかわからないけれど、制動距離の差がわずか10cmしか生じなかったのはとても興味深いところだ。
最後は低速コーナーが連続するセクションでのハンドリングチェックである。ここでも自然なターンインとライントレース性の良さが際立った。しかし、それ以上に印象に残ったのは、テールスライドに持ち込んだときの挙動が漸進的、かつ素直で、姿勢のコントロールも非常にしやすかった点だ(ゴルフRは4WDである)。
ここでもタイヤの熱ダレがどれだけ進むかを注意して観察してみたが、わずか数百m程度のハンドリングコースを3本走った程度では、音を上げることはなかった。結構アグレッシブにプッシュしてみたものの、アンダーステアを露呈することはなくゴルフRは右へ左へ軽快なステップを刻み続けた。
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これがパイロットスポーツの“源流”か!
ゴルフRに続き、クリオカップカーでコースインする。外観はやや勇ましい「ルーテシアR.S.」といった感じだが、室内を見ればこのクルマがレーシングカーであることがわかるだろう。1.6リッターの直4ターボエンジンはスペックは220bhp(223ps)と270Nmと、ルーテシアR.S.の「トロフィー」仕様に近い数値にとどまる。しかし車重は1000kgとのことで、市販モデルから250kg以上、パーセンテージにして20%以上も軽量化されているのだから、そのパフォーマンスや推して知るべしである。0-100km/h加速は4秒という。アイドリング時から排気音は市販車とは比べものにならないくらい野太く、ボリュームも大きい。なかなか手ごわそうだ。
車重が軽いだけのことはあり、スピードの乗り具合が市販モデルとは明らかに違う。スロットルペダルを踏む右足の動きに敏感に反応して、野蛮なまでにグイグイと速度を上げていく。タイヤはミシュランのレーシングスリックでコンパウンドはソフト、いわば最大限のドライハンドリングとドライブレーキングに照準を合わせた“迷いなし”のタイヤだ。パイロットスポーツの源流ここにあり、である。ハンドリングにしてもブレーキングにしても、スリックタイヤがもたらす世界は圧倒的。ベタッと張り付くように路面をとらえ、ちょっとやそっと攻めてみた程度ではタイヤの限界を探るのは難しい。一体どこまでプッシュしていいのやら想像がつかない。
車重がさらに半分以下の470kgとなり、重心位置もグッと下がるフォーミュラ4だと、その強烈さはいっそう強まる。フォーミュラをフォーミュラらしく走らせようとすれば、旋回速度をそれ相応に高めなければならない。これすなわち、ドライバーの体がクリオカップカーでは感じられなかったほどの強い横Gにさらされることを意味する。つまりタイヤという存在が、“ハコ”のレーシングカーより圧倒的に身近にある感じだ。
タイヤやブレーキも温まり、走りがやっとカタチになり始めたところでタイムアップとなってしまった。えー、もう終わり? もっと乗りたいのにーと思う反面、ピットに戻れてホッとした気持ちも正直ある。
といったメニューで、市販モデル向けのパイロットスポーツ4Sからレーシングカーのスリックタイヤまで、一日中ミシュランの“スポーツマインド”に触れたわけである。そこで感じたのは、クルマを運転するのは人であり、これすなわちタイヤと対話するのもまた人なのだ、という半ば当たり前のことであった。
ミシュランのタイヤには、それがレース用のスリックであっても操って楽しいと感じる何かがある。その何かとは、ハンドリングとかブレーキングとか突出した一点ではなく、さまざまな性能が織りなす“調和の妙”と言ってもいいかもしれない。
タイヤには安全性、快適性、省燃費性能、そしてそれらを持続させる耐久性など、さまざまな性能が求められる。そのどれかが秀でたものを作るのではなく、すべての性能を追求する道を選んだ――ミシュランのスリックタイヤのサイドウォールには、そんなメッセージが込められた「MICHELIN Total Performance」という文字が記されているのをご存じだろうか。「ミシュラン・パッション・デイズ」を終えてみると、その文字がよりいっそう、立体感を帯びて見えてきたのだ。
(文=webCG 竹下元太郎/写真=ミシュラン、webCG)
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竹下 元太郎
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