第414回:自動運転の未来のカタチとは?
アイシン精機「台場開発センター」開所式に参加
2017.05.19
エディターから一言
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アイシン精機は2017年5月9日、東京・臨海副都心の新拠点「台場開発センター」の開設を記念し、同センターにて、来賓、報道陣を招いての開所式を行った。
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先端技術開発の拠点
“アイシン”と聞いて、すぐに思い浮かんだのは、自動車用のトランスミッションを手がけるアイシン・エィ・ダブリュだ。では、アイシン精機は、一体何をつくる会社なのか?
実は、会社概要を読んでわかったのだが、サンルーフやパワースライドドアといった自動車部品をはじめ、ベッドのマットレスや家庭用ミシンなどの生活関連の製品を幅広く手がけるメーカーなのだ。不勉強ですみません!
そのアイシン精機が、新たな開発拠点として、「台場開発センター」を開設。ここでは、次世代成長領域である「ゼロエミッション」「自動運転」「コネクテッド」に加え、人工知能(AI)の基盤技術の開発を行っていくという。
まず、オフィスのなかが、とても整然としていて清潔感があることに驚いた。訪れる前には、ものづくりの現場ということで、とても雑然とした雰囲気の場を想像していたのだが、よく考えてみればそんなわけはない。なぜなら、ソフトウエア開発にはパソコンと周辺機器さえあればいいのだから。大変失礼しました。
アイシン精機が考える未来
開所式を機に、現在開発中のコンセプトモデルについての紹介も行われた。
まずひとつ目は、自動運転に向けて開発された新しいインターフェイス、「スマートコックピット(Smart Cockpit)」だ。
このコンセプトモデルには、同社が取り組む「おもてなしサービスコンセプト」が採用されている。具体的には、乗員の声や動作に反応して、クルマとの快適なコミュニケーションを提供したり、乗員の状態(赤ちゃん連れなど)に応じて、乗車前にシート位置等を調整したりといったことを目指し、AIやビッグデータなどを活用することで、“クルマが自分の気持ちを分かり、賢く頼れる「バディ」となる”べく、開発が進められている。
一見すると、フラットなインストゥルメントパネルの上に、自撮り用カメラを備えたステアリングが取り付けられているといったシンプルなもの。運転席側のダッシュボード上部には、幅45cm、高さ30cm程度の大きなヘッドアップディスプレイが備わり、フロントガラス越しの風景に目標物のアイコンを重ね合わせるなどして、走行中のさまざまなインフォメーションを映し出す仕組みになっている。
今回、自動運転モード(レベル3)のデモを体験したが、特に良かったのは障害物検知機能。先行車両の落下物を検知すると、ランバーサポートの左側から腰のあたりがグイッと押され、追い越し車線への車線変更を促してくれた。これはいい!
また、目を閉じた状態でいると、居眠りを検知し、腰のあたりに振動を与えることで、ドライバーに注意喚起する。今後、AIを導入することによって、居眠りに陥る前に、休憩を促せるのではないかということだった。
この新しいインターフェイスには、ステアリングカメラによって、ドライバーの目線検知を行うドライバーモニターシステム(DMS)をはじめ、シートによる体重検知と乗員検知、警告時にシートを振動させる技術など、すでに市販のクルマに搭載される技術が含まれている。アイシン精機では、独自の技術を盛り込んだこの新インターフェイスをもとに、各自動車メーカーへ新技術の提案をしていきたいと考えている。
次世代パーソナルモビリティーの展示も
パーソナルモビリティービークルの「アイリーエーアイ(ILY‐Ai)」も展示されていた。
開発コンセプトは“社会とつながるパートナーモビリティー”。前方にカメラと3D LiDARという3次元環境認識装置、音声認識を行うマイクロホンが搭載され、後方には2D LiDARという2次元環境認識装置(地図生成/自己位置推定)が搭載されている。
これらの装備によって、危険を察知して止まる、呼ぶと来る、追従して走行する、自分で戻っていくといった動きができるようになっている。
車重は30kg、耐荷重は230kg。乗り方は、立ったまま乗る、座面を出して座って乗る、荷物を載せて運ぶ、折りたたんでカートのように運ぶ、と、4つの形に変化させて使うことができる。また、前進時のみ、障害物を検知し、止まる仕組みだ。
操作は手元のハンドルレバーのみ。右手の親指でハンドル部のレバーを上げれば前進、下げれば後進になる。最高速度は6km/h。人の歩く速さとほぼ同じ5km/hで1時間稼働する。ただ、折りたたんだ状態で引いて移動させるのは、さすがに重いと感じられた。これを持ち上げて移動することは、あまりないかもしれないが、かなりキツそうだ。
パーソナルモビリティーというと、2005年の東京モーターショーで登場したトヨタの「i-unit」や、後継として2007年の同モーターショーで登場した「i-REAL」が思い浮かぶ。トヨタではその後、立ち乗り専用の「Winglet(ウィングレット)」を発表、すでに公道での試乗なども行われている。
アイリーエーアイは、ウィングレットとはまた違った方向性で開発されていて、座面を利用してセニアカーとしても使えることや、言葉を介して生活を共にできる相棒的な要素も組み合わされるなど、進化した人工知能が組み込まれることで、より幅広い用途に対応できるものであると感じた。2020年を目指してさらなる開発を進めていく予定だというが、車重がもう少し軽くなると、より使い勝手は良くなりそうだ。
自動運転技術のこれから
「台場開発センター」では、自動運転に関する技術開発にも力を入れていく予定だという。では、今後、自動運転はどのように進化していくのだろうか。
筆者を含め、一般のユーザーにとっては、まだまだわからないところの多い分野だと思うが、この疑問に簡潔に答えてくれたのが、主賓として参列した経済産業省の奥田修司さんだ。
奥田さんは「実際に一般の人たちがイメージするような自動走行車は、まだまだ先のことかもしれない」としながらも、「2020年頃からは、サービス事業者による自動運転車のサービスが始まるのではないか」という見通しを述べた。
また、技術開発の方向性については、「すべてのものを個社で完結するのは難しく、協調領域と競争領域をきっちりと仕分けながら進めていくべき。たとえば、ダイナミックマップ(高精度3次元地図)や通信インフラといった分野は、協調領域として標準化を進めながら開発を進めていくべき」とし、ソフトウエア開発における人材の確保や育成が必要であることにも言及した。
アイシン精機が今回、お台場に拠点を作った大きな理由のひとつに、優秀な人材が集まりやすい地であることが挙げられる。先端技術開発を進めるにあたって、いま最も必要とされているのは、優れた人材の確保や若手の育成だ。今回の開所式に参列して、同社がAIなどの技術開発に本気で取り組んでいこうとする意気込みを感じた。
(文=スーザン史子/写真=スーザン史子、アイシン精機)
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スーザン史子
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