アウディA5クーペ2.0 TFSIクワトロ スポーツ(7AT/4WD)
文句の付けようがない 2017.05.24 試乗記 流麗なスタイルが自慢の「アウディA5クーペ」が、9年ぶりにフルモデルチェンジ。新型はどんなクルマに仕上がったのか、2リッターの4WDモデル「2.0 TFSIクワトロ スポーツ」に試乗して確かめた。「独善的な性質」は変わったのか?
先代A5が発売された時、「ターゲットは年収1500万円以上の富裕層」と聞いて、微妙にシラケたことを思い出す。
確かに695万円のぜいたくなクーペを買えるのは、それくらいの層なのでしょうが、あまりにも自ブランドに高いプライドを持ちすぎではなかろうか、と感じたのです。これはあくまで日本人的謙譲精神からくる思いなので、ドイツのプレミアムブランドには通用しないと思いますが……。
そして先代A5は、実に独善的な、よく言えばプロダクトアウトな商品だった。
いかにもアウディ的な衛生的かつ精緻さの結晶とも言うべきフォルムに、特に面白みのない3.2リッターV6エンジンを搭載し、アウディ得意のクワトロシステムを組み合わせる。どこか高級オーガニックカフェみたいなクルマで、「健康にはいいかもしれないけど、あんまりおいしくないからな~」と、個人的には敬遠したい気分だった。
その後A5は、5ドアハッチバックの「スポーツバック」を追加し、エンジンも2リッターターボがメインとなって、エリートのためのステキな足へと成長していったのですが、いまだにA5と聞くと、初期の独善的な姿こそ原点! という気がしないでもありません。
今回A5は、9年ぶりにフルモデルチェンジを受けた。正確には9年ぶりなのはクーペだけで、売れ筋のスポーツバックは7年ぶりだが、やっぱりA5の原点はクーペなので、今回はそちらに乗らせていただきました!
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チャレンジ精神が感じられる
試乗したA5クーペは、2リッターターボ(最高出力252ps)のクワトロ仕様、トランスミッションは7段Sトロニック(デュアルクラッチ)。価格は素で686万円と、9年前のV6モデルよりも若干お安くなっている。それでいてパワーはほぼ同等、燃費は断然アップ(約2倍! ちなみに先代2リッターターボに対しても21%改善)なのだから、ダウンサイジングターボ万歳ですね。
ただ、今回試乗したクルマにはオプションが127万5000円分装備され、合計813万5000円になっていました。うーん、やっぱりアウディは高いなあ。個人的な話で申し訳ないですが、私が先日買った「フェラーリ328GTS」は乗り出し980万円。それと大差ないです。もちろん328は普段のゲタにできないし単純比較は無意味ですが、諸経費を含めれば「古いスーパーカーが買えるくらいの値段」ではあります。
A5といえば、けれんみのない精緻なスポーツクーペ。そういうイメージだが、新型のスタイルは結構イメージが違う。かなり脂身がのっている。一番違うのは、ノーズの絞り込みが強く、ふくよかにラウンドしている点だ。写真だとそれほどでもないが、実物の丸みには、直線的で衛生的なアウディの殻を破る何かを感じる。正面からだと「テスラ・モデルS」のように丸まって見えて、「これがアウディ?」という違和感すら漂っている。
このふくらみは、歩行者保護の意味もあるだろうが、「アウディデザインは新たな世界へ脱皮せねばならない!」という意思の表れでもあろう。フロントのボリューム感が増した分、お尻が小さく見えてバランスは今ひとつだな……とも思いましたが、バランスが崩れるのもアウディの新しいトライ! かもしれない。ちなみに5ドアスポーツバックなら、前後バランスも取れていてバッチリです。
拍子抜けするほど快適
インテリアはさらに質感を向上させつつゴージャス感も増し、こちらも適度に脂身増量。686万円(繰り返すが素で)のクルマに乗っているプライドは十分満たされる。やっぱり年収1500万円以上の富裕層が乗るクルマだなぁ間違いなく。なにせクーペというだけですっごくゼイタクですから。
もちろんクーペなので後席スペースにはそれほど期待してはいけませんが、お子さまならまったく問題なし。大人もロングドライブでなければぜんぜんOKです。
先代A5はアウディらしいソリッドな乗り味満点で、つまりドイツ・アウトバーンの平滑な路面にはベストマッチだが、ちょっとデコボコがある日本の路上では内臓が痛いほどハードな足まわりを持っていた。なにせエリートの乗るクーペですから。
今回も、路面からそれなりの突き上げがあるのは覚悟していたが、覚悟していただけに拍子抜け。「A5がこんなに民主的な乗り味でいいの!?」と感じるほど快適だった。
ドライブモードをあえて「ダイナミック」にしても、この感想はほとんど変わらない。「アウディのダイナミックモードがこんなに民主的でいいの!?」である。コンフォートモードにするとさらに一段快適性アップ。どのモードでも足がよく動いて路面からの突き上げをいなしつつ、ロールはゆっくり穏やかに制御され、動きはあくまでエレガントだ。「高級な足まわり入ってるな~。さすが686万円!」です。
アウディらしからぬ民主化
このようなエレガントな足まわりで、ワインディングを攻めるのもどうかと思う――というより、そんなことする人いるのか? という感じだが、さすがに「脱いでもすごいんです」。しなやかな足を路面にはわせ、トカゲが4本の足を地面に張り付かせるように走ります。あ、アウディのキャラクターはトカゲじゃなくてヤモリなんですか! 知らなかった。スイマセン。
なにをやっても絶対タイヤは路面から離れません! という絶大な安心感。オーバーステアとは無論無縁だがアンダーステアすら「ほぼ出せません」。どんだけハンドルを乱暴に切ってもそっちに曲がっていくので、これに乗ってるとヘタクソになるかもしれないが、そこはエリートの乗り物。クルマの動きは何か別のプリミティブなマシンで会得済みということでいいでしょう。
2リッター4気筒ターボは、相変わらず味わいの薄い性能第一主義で、回しても回さなくてもなにをしててもフィーリングは無味無臭に近いけど、とにかく性能はきっちり出ていて、1570kgの車体を軽々と加速させる。もはやどんな車体でも2リッターを超える排気量はトゥーマッチというご時世だが、最大トルクが370Nmつまり自然吸気の3.7リッター分あるのだから当然か。
なお、新型A5は先代より全幅を10mm狭めて1845mmになった。これで「全幅1850mmまで」の立体駐車場にも入る。まさにアウディらしからぬ民主化。安全装備にも抜かりはなく、歩行者検知機能付き自動ブレーキ「アウディプレセンスシティ」を全車標準装備。エリートでありながら国民の気持ちがよくわかる指導者のようで、文句の付けようがない。文句付けるとすれば値段だけ!
ただ、今回のこのエリート指導者には、より民主的なスポーツバックにFFモデルも設定されており(7月下旬導入予定)、そちらなら最安546万円から。なんだかんだでオプションを最低数十万円は付ける成り行きになるとは思いますが、お値段もリーズナブルな範囲に持ち込める可能性があり、だとすると本当に文句の付けようがないおクルマだと言えるでしょう。
(文=清水草一/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
アウディA5クーペ2.0 TFSIクワトロ スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4700×1845×1365mm
ホイールベース:2765mm
車重:1570kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:252ps(185kW)/5000-6000rpm
最大トルク:370Nm(37.7kgm)/1600-4500rpm
タイヤ:(前)245/40R18 93Y/(後)245/40R18 93Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:16.5km/リッター(JC08モード)
価格:686万円/テスト車=813万5000円
オプション装備:オプションカラー<スクーバブルーメタリック>(8万5000円)/セーフティーパッケージ<サイドアシスト+プレセンスリア+パークアシスト+サラウンドビューカメラ+コントロールコード>(16万円)/S lineパッケージ<S lineバンパー+ドアシルトリムS lineロゴ+S lineエクステリアロゴ+ヘッドライニングブラック+デコラティブパネルマット ブラッシュトアルミニウム+アルミホイール 5ツインスポークスターデザイン8.5J×18+スプリントクロス・レザーS lineロゴ+マトリックスLEDヘッドライト+LEDリアコンビネーションライト+ヘッドライトウオッシャー+コントロールコード>(44万円)/ダンピングコントロール付きスポーツサスペンション(14万円)/バーチャルコックピット(7万円)/Bang & Olufsen 3D アドバンストサラウンドシステム(17万円)/ヘッドアップディスプレイ(14万円)/プライバシーガラス(7万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1289km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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