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ポルシェ911 GT3(RR/7AT)/911 GT3(RR/6MT)

サーキットが本籍地 2017.05.22 試乗記 河村 康彦 ピュアなレーシングカーである「ポルシェ911 GT3カップ」譲りの4リッター水平対向6気筒エンジンを得て、一段とサーキットに近い成り立ちとなった新型「911 GT3」。スポーツカーが終わり、レーシングカーが始まるところに位置付けられたこの最新モデルに、南スペインで試乗した。

911は時代に柔軟なスポーツカー

ボディー後端へのエンジンマウントや水平対向6気筒のエンジンデザインといった、今や貴重なアイコンでもあるハードウエア上の特徴。それとともに、911というモデルを語る上での欠かせないポイントが、「他のライバルスポーツカーには例を見ることのない、多彩なバリエーションを用意する」ということだ。

クーペにカブリオレにタルガ……と、基本ボディーだけでも3種類。そこにさまざまなエンジンが搭載され、伝統的な後輪駆動に加え4WD仕様も設定。トランスミッションにはMTと“PDK”と称するDCTの2タイプが用意され、さらにポルシェ車ならではの“走りのオプション”をトッピング……となると、実はもはや天文学的と言ってもいい多くの種類を選ぶことが可能になるのが、現代のポルシェ911。

かくも数多くのバリエーションを用意するのは、やはりこのモデルならではの特徴でもある、半世紀を軽く超えるその長い歴史にも要因があるはず。

スポーツカーとしては他に例を見ない長寿モデルの911は、当然それだけ長いさまざまな歴史背景の中を生き抜いてきた。その時の流れの中には当然、人々の嗜好(しこう)や価値観の変化、そしてレギュレーションの変化といった事柄も存在するわけだ。

すなわち、そうした時代ごとの要請を受け、それに対応をしてきたからこそ、911は他に例を見ないワイドなバリエーションをそろえるスポーツカーへと進化を遂げてきたとも考えられる。

そうした中にあって、一般公道を走行可能な準備は整えるものの、実は生まれも育ちもサーキット――そんなキャラクターがとことん強い911が、ここに紹介をする「GT3」という記号が与えられた一台だ。

ヘッドライトはバイキセノンが標準。写真のように、ブラックのLEDタイプをオプション選択することもできる(欧州仕様の場合)。
ヘッドライトはバイキセノンが標準。写真のように、ブラックのLEDタイプをオプション選択することもできる(欧州仕様の場合)。拡大
フロントの大型エアインテークの形状が変わり、車両の“顔つき”が変わった。左右の大型インテークにはエアブレードが設けられ、冷却風の供給が改善されている。
フロントの大型エアインテークの形状が変わり、車両の“顔つき”が変わった。左右の大型インテークにはエアブレードが設けられ、冷却風の供給が改善されている。拡大
車両後部のエンジンフード上にはラムエアスクープが2つ配置され、エンジンルームに冷却風を送る。
車両後部のエンジンフード上にはラムエアスクープが2つ配置され、エンジンルームに冷却風を送る。拡大
空力性能の改善と軽量化も新型における重要なテーマだ。リアまわりでは、エンジンフードとリアウイング、およびウイングサポートがカーボン製だ。
空力性能の改善と軽量化も新型における重要なテーマだ。リアまわりでは、エンジンフードとリアウイング、およびウイングサポートがカーボン製だ。拡大
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新型はGT3の“例外”

GT3が初めて911ラインナップに加えられたのは、1999年に誕生した996型が初。以来、その996後期型、997の前・後期型、そして2013~2015年モデルとしてカタログに存在した991前期型……と、これまで5代にわたり、いわば「最もサーキットに近い911」として歴史を重ねてきたのが、GT3の名を与えられたモデルだ。

モータースポーツ活動で培ったさまざまなテクノロジーを投入しつつ、一部では快適性の低下なども承知の上で、ベースモデルでは許されざるレベルの軽量化にも手を染める、というのが、歴代のGT3に共通する開発の基本スタンス。

一方で、それが走りのポテンシャル向上に大きく貢献すると判断されれば、今度はある程度の重量や価格の上昇も許容をしつつ、最新電子デバイスの採用も躊躇(ためら)うことなく行うというのが、昨今の目立った傾向でもある。

例えば、911シリーズの中にあっても最も初期に標準採用化を図ったリアのアクティブステアリングシステムや、「重量増を補って余りある効果が認められる」と、991前期型ではMT仕様を廃してまで採用に踏み切った“PDK”などがそれに当たる。

歴史と伝統には最大限の敬意を払いつつ、だからといってそれに甘んじることなく最先端のテクノロジーにも広く門戸を開いていることがGT3の大きな特徴。

とはいえ、「そんな基本スタンスにもまれに例外はある」ということを示したのが、実は今年春のジュネーブショーで発表された、最新のGT3でもあるのだ。

今回の試乗会では7段PDKと6段MTの両仕様に試乗することができた。「サファイアブルーメタリック」に塗られた写真の試乗車は前者。
今回の試乗会では7段PDKと6段MTの両仕様に試乗することができた。「サファイアブルーメタリック」に塗られた写真の試乗車は前者。拡大
PDK仕様の室内。背後にシフトパドルを備えた直径360mmの「GTスポーツステアリングホイール」は、「918スパイダー」のイメージでデザインされている。
PDK仕様の室内。背後にシフトパドルを備えた直径360mmの「GTスポーツステアリングホイール」は、「918スパイダー」のイメージでデザインされている。拡大
1万rpmまで刻まれたタコメーター。最高エンジン回転数は9000rpmで、レッドゾーンは8500rpmから。
1万rpmまで刻まれたタコメーター。最高エンジン回転数は9000rpmで、レッドゾーンは8500rpmから。拡大
試乗車にはオプションのフルバケットシートが装着されていた。バックレストには「GT3ストライプ」が入り、ヘッドレストにはポルシェクレストがエンボス加工されている。
試乗車にはオプションのフルバケットシートが装着されていた。バックレストには「GT3ストライプ」が入り、ヘッドレストにはポルシェクレストがエンボス加工されている。拡大

MT仕様が復活

MTの方が30kgも軽いから――すでにカレラシリーズにはPDKが設定されていた当初、「どうしてGT3にはそれを搭載しないのか?」と尋ねた当方の質問に対して、担当エンジニア氏は確かにそのように答えてくれた。

一方、991前期型のGT3でトランスミッションがPDKのみとされた当時、やはり担当のエンジニア氏は今度は「変速速度が圧倒的に速く、サーキットのラップタイム向上に大きなメリットがあるため」と、こちらも至極まっとうなコメントを返してくれた。

こうして、一度はGT3の歴史からついえたかに思えたMTが、最新モデルでは復活。“無償オプション”ながら、日本にも「秋以降に生産開始の予定」と注釈が付きつつ導入されることとなった。

今回、スペインで開催された国際試乗会の場であらためてその再設定の真意を問うと、今度は「独自のドライビングプレジャー提供のため」という答えが返ってきた。端的に言えばそれは、従来型に対する「どうしてMTの設定がないのか?」という、半ば不満に近い問い掛けに対する回答と解釈するしかない。

一部には優柔不断と受け取られるかもしれないが、このあたりが先にも述べた「長い時間をユーザーとともに成長してきたのが911というモデル」と紹介する、まさにひとつのゆえんでもある。

いずれにしても、MTとPDKの双方を用意することが、最新=991後期型GT3の、大きな特徴のひとつであることは疑いない。

こちら「レーシングイエロー」の試乗車は6段MT仕様。同仕様の車重は1413kgと、PDK仕様より17kg軽い。
こちら「レーシングイエロー」の試乗車は6段MT仕様。同仕様の車重は1413kgと、PDK仕様より17kg軽い。拡大
6段MTは“無償オプション”として設定されている。オートブリッピング機能が備わる。
6段MTは“無償オプション”として設定されている。オートブリッピング機能が備わる。拡大
フルバケットシートを後ろから見る。カーボン仕上げの地肌がレーシーな雰囲気を演出する。
フルバケットシートを後ろから見る。カーボン仕上げの地肌がレーシーな雰囲気を演出する。拡大
ホイールはセンターロック式。PDKとMTの両試乗車には、オプションの「ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ(PCCB)」が装着されていた。
ホイールはセンターロック式。PDKとMTの両試乗車には、オプションの「ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ(PCCB)」が装着されていた。拡大

一段と硬派に

「『カレラS』よりも25mmのマイナス」と説明される低く構えたシャシーに、低く長く前方へと伸びたチンスポイラー。両端開口部にエアブレードが追加され、上部にエアアウトレットを備えるフロントバンパーに、ウイング部分が従来型比で20mm高い位置に設定された派手なリアスポイラー等々……と、目の前に現れた最新のモデルは、相変わらず「これぞGT3!」と言いたくなる猛々(たけだけ)しいルックスの持ち主。

ちなみに、モデルチェンジのたびにわずかずつその造形を変化させて来た空力デバイスには、今回も「抵抗を増さずにより大きなダウンフォースを稼ぎ出す」という目的に沿ってのリファインを実行。同時に軽量化も徹底され、例えばポリウレタンを主体に軽量素材で構成されるリアエプロン部分は、「従来型比で20%の重量ダウンを実現」と報告されている。

ところで、911シリーズの中にあってGT3を“特別な存在”と位置付けるため、常に重要な要素となってきたエンジンは、今回も特筆部分が満載。というのも、その最高出力と最大トルク値は「GT3 RS」や「R」用と同スペックでありつつも、その内容はさらにレーシーで「GT3カップや『RSR』という純レーシングモデル用と共通」といわれるものであるからだ。

クランクシャフトやコンロッドのベアリングが強化され、バルブトレインからは油圧ラッシュアジャスターが廃されたその心臓の狙いどころは、いわばさらなるパワーと効率の追求。もちろん、それが史上最強にして最速を誇るGT3の、第一の原動力となっていることは言うまでもないだろう。

PDK仕様(写真)の動力性能は0-100km/h加速が3.4秒で最高速は318km/h。
PDK仕様(写真)の動力性能は0-100km/h加速が3.4秒で最高速は318km/h。拡大
派手なリアウイングは「911 GT3」のアイコン的な装備。ウイングの位置が従来モデルより20mm高められている。
派手なリアウイングは「911 GT3」のアイコン的な装備。ウイングの位置が従来モデルより20mm高められている。拡大
「911 GT3カップ」譲りとうたわれる3996ccの水平対向6気筒自然吸気ユニットは500psと460Nmを生み出す。エンジンフードを開けても従来同様、エンジン本体を見ることはできない。
「911 GT3カップ」譲りとうたわれる3996ccの水平対向6気筒自然吸気ユニットは500psと460Nmを生み出す。エンジンフードを開けても従来同様、エンジン本体を見ることはできない。拡大
新型にも後輪操舵機構が備わり、50km/h未満では前輪とは逆位相に、80km/h以上では同位相にステアされる。操舵角は最大1.5度(各方向とも)。
新型にも後輪操舵機構が備わり、50km/h未満では前輪とは逆位相に、80km/h以上では同位相にステアされる。操舵角は最大1.5度(各方向とも)。拡大

至福のトップエンド

かくも硬派そのものと思える最新のGT3で、まずは一般公道でスタートしての第一印象は、実は意外にも「GT3史上で紛れもなく最上の、乗り味の質感の高さ」というものだった。

時に“しなやか”というフレーズさえ使いたくなる脚の動きは、これまでの各GT3とはちょっと異質な感覚。盛大にキャビンへと届くロードノイズを無視すれば、それは普段の街乗りやロングツーリングすら、快適にこなせそうなテイストなのだ。

1.4t台前半の重量に4リッターエンジンゆえ、アイドリング状態ですら太いトルクを実感。デュアルマス・フライホイールが組み合わされたがゆえに「ガラガラいわない」MT仕様でも、低速域メインでの街乗りでストレスを感じたりすることは皆無だった。

一方で、サーキットへと乗り入れれば「待ってました!」とばかり快哉(かいさい)を叫びたくなるのがGT3のGT3たるところでもある。

MTであろうがPDKであろうが、前出エンジンが秘めたポテンシャルをフルに解放すれば、そこで得られるのは至福の時。回転数が高まるほどにシャープさを増し、迫力のサウンドとともに一気にレブリミットの9000rpmを目指すシーンでは、この心臓が確かにレーシングユニット由来であることをいや応なく教えられる。

俊敏な回頭感は、相対的にフロント荷重が軽いRRレイアウトの持ち主ならでは。一方で、少々ラフなステアリング操作に対しても思いのほか寛容にリアが踏ん張り続けてくれるのは、例のリア・ステアリングシステムの黒子としての働きも含まれているに違いない。

試乗会の現場では秘匿だったニュルブルクリンク北コースでのラップタイムは、イベント終了数日後に「7分12秒7」と発表された。もちろん、そんな数字がこのモデルのすべてを語るわけではない。が、同時にそれが、歴代GT3の中にあっての最新モデルの立ち位置を示す極めて有用な数字であることも、また事実だろう。

果たして、この先まだ進化の余地はあるのか!? そんな疑念を毎度軽々と打ち破ってくるのが、ポルシェの作品なのである。

(文=河村康彦/写真=ポルシェ/編集=竹下元太郎)

ステアリングのアシストは電動。ステアリングギアは可変式でレシオは17.15~13.12とされる(PDKとMTの両仕様とも)。
ステアリングのアシストは電動。ステアリングギアは可変式でレシオは17.15~13.12とされる(PDKとMTの両仕様とも)。拡大
PDK仕様とMT仕様では、リアデフのLSDの仕組みが異なる。PDKでは電子制御式となるのに対し、MTでは機械式が装着される。そのロック率はアクセルオン側が30%で、同オフ側が37%。
PDK仕様とMT仕様では、リアデフのLSDの仕組みが異なる。PDKでは電子制御式となるのに対し、MTでは機械式が装着される。そのロック率はアクセルオン側が30%で、同オフ側が37%。拡大
リアホイールハウスは「911カレラ」と比べて44mm拡大されている。ボディーのワイドさが際立つ。
リアホイールハウスは「911カレラ」と比べて44mm拡大されている。ボディーのワイドさが際立つ。拡大
MT仕様の動力性能は0-100km/h加速が3.9秒で最高速は320km/hと発表されている。
MT仕様の動力性能は0-100km/h加速が3.9秒で最高速は320km/hと発表されている。拡大
ポルシェ ジャパンは2017年4月6日から新型の予約注文を受け付けている。日本仕様のハンドル位置は左のみで、価格は2115万円(PDK仕様)。6段MTはオプション設定となり、今秋以降に生産開始の予定。
ポルシェ ジャパンは2017年4月6日から新型の予約注文を受け付けている。日本仕様のハンドル位置は左のみで、価格は2115万円(PDK仕様)。6段MTはオプション設定となり、今秋以降に生産開始の予定。拡大
ポルシェ911 GT3(PDK仕様)
ポルシェ911 GT3(PDK仕様)拡大
 
ポルシェ911 GT3(RR/7AT)/911 GT3(RR/6MT)【海外試乗記】の画像拡大

テスト車のデータ

ポルシェ911 GT3(PDK仕様)

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4562×1852×1271mm
ホイールベース:2457mm
車重:1430kg(DIN)
駆動方式:RR
エンジン:4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:500ps(368kW)/8250rpm
最大トルク:460Nm(46.9kgm)/6000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20/(後)305/30ZR20
燃費:12.7リッター/100km(約7.9km/リッター 欧州複合サイクル)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--

テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードおよびトラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

ポルシェ911 GT3(MT仕様)
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ポルシェ911 GT3(MT仕様)

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4562×1852×1271mm
ホイールベース:2457mm
車重:1413kg(DIN)
駆動方式:RR
エンジン:4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:500ps(368kW)/8250rpm
最大トルク:460Nm(46.9kgm)/6000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20/(後)305/30ZR20
燃費:12.9リッター/100km(約7.8km/リッター 欧州複合サイクル)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--

テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードおよびトラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦

河村 康彦

フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。

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