アウディSQ5(4WD/8AT)
内燃機関は死なない 2017.07.01 試乗記 2017年はじめにデビューしたばかりの新型「アウディQ5」に、早くも高性能版の「SQ5」が登場。高効率化とハイパワー化という“二律背反”をアウディはどのようにして克服したのか? 同社の取り組みを紹介するワークショップの内容とともに報告する。エンジン技術を磨くことの意義
米カリフォルニア州を筆頭にいくつかの州でZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)規制が拡大適用されるのが2018年。そこから2021年の欧州95g/km規制に向けて、自動車メーカーはいよいよ松竹梅入り乱れてCO2排出量削減のガチバトルに突入する。特に欧州95g/kmの厳しさは、販売する車両の全量平均が「アクア」や「プリウス」並みに達しなければならないわけで、これはもうパワートレインの電動化は不可欠ということだ。さらに直近では中国、そしてインドがBEV(Battery Electric Vehicle=電気自動車)普及への野心的な目標を掲げており、普及にまつわる市場の期待はPHEV(プラグインハイブリッド車)の大波をも超えるところに達しつつある。
そんな最中にアウディが開いたワークショップのテーマがコンバッション(=燃焼)、つまり内燃機技術の展望と聞けば時流とのズレを感じる向きも多いだろう。が、アウディは方や電動化も手がけながら、方や周辺技術の進化や最適なエネルギーミックスの変化も見据えつつ、現実的なビジョンを描いている。
いわく、米国の97g/km規制導入が予定される2025年の時点でも、自社の販売全数においてBEVは3分の1以下、残り3分2近くは何らかのかたちで内燃機関を用いていることだろうと。その内燃機関に、環境性能向上のための技術を投じていく余地はまだたくさんあると。
多岐にわたる省燃費化のアプローチ
乗車感から先進性の伝わりやすいBEVにも、充電時間と航続距離の相関関係、電池寿命と生産およびリサイクル性、そして何由来の電気をいつどこから調達するかなど、CO2を取り巻く問題は山積している。そしてPHEVも現状の計測方法で表記されるほどのCO2削減の実効性は望めない。強硬に正誤を問うているのはファイナンス絡みの方面であって、技術の側はユーザビリティーも踏まえて清濁併せのみながら、いかに着々と目標値をクリアしていくかが求められている。と、そのために既成の内燃機関をさらに磨き上げるというのは至極正論ではないだろうか。
間もなく正式発表される新型「A8」には、アウディの高効率化のひとつの答えとして、ベルト接続のオルタネーターを用いた48Vマイルドハイブリッドが採用される予定だという。それをすでに「A4」でも採用されているアウディ版ミラーサイクルともいえる「Bサイクル」を用いた内燃機関と組み合わせ、ベースモデルからの燃費向上を図る。さらには昨年発表されたサスペンションの摺動(しゅうどう)を回生エネルギーに変換しながら電気的な減衰コントロールを行う「eROT」という独自の新技術も搭載されるもようだ。ともあれ新型A8では、高効率化のためならあらゆる手段を尽くすというアウディの姿勢が明示されることになるだろう。
そんなワークショップのいちプログラムとして用意されたのが新型SQ5の試乗だ。搭載されるエンジンはすでに日本でも販売されている「S4」や「S5」と同じ、3リッターV6直噴ツインスクロールターボ。先代のSQ5は3リッターV6直噴スーパーチャージャーだったが、新型はターボ化に加えてBサイクルの採用により圧縮比を高め、1割前後の高出力化・高トルク化が図られた。一方でCO2排出量は欧州複合モードで189g/kmと、先代に対して26g/kmの削減に成功している。平たく言えば従来の3リッターディーゼルにほど近いトルク特性やCO2排出量を達成しつつ、ガソリンターボならではのハイパワーを両立したモデルということになるだろうか。
ディーゼルとガソリンのいいとこ取り
1370rpmでピークに達するというその額面通り、新型SQ5は発進時から力強いトルク感をもってスイスイと車速を乗せていく。タウンライドでの使用回転域は2500rpm以下で十分事足りているという印象だ。また、ロードノイズや風切り音も目立たないこの速度域では、複雑なヘッド周りからのメカニカルノイズなどが気になりそうだが、普段乗りからスポーツモデルであることを気にさせない程度の静粛性は確保されている。ゾッとするほどの速さを冷徹に突き詰めるRS系に対して、程よく気持ちいいスポーティー感がS系のウリという、そのすみ分けは新しいSQ5をみるに相変わらずのようだ。
日本での高速巡航の速度域を想定しながら車載計でその燃費を追ってみると、おおむね8リッター/100km、つまり12km/リッター超えあたりをコンスタントにマークしていた。同等のパフォーマンスを持つディーゼルに比肩するとは言わずともその差は大きく縮まり、乗り方によってはほど近い効率が期待できる、それほどにガソリンエンジンは進化を遂げたということがよくわかる。しかもこちらはしかるべきシーンでアクセルを踏み込めば6000rpmオーバーのレッドゾーン付近まで垂れることなくスキッと吹け上がるなど、フィーリングやサウンド面での利するところがあるわけだ。
先に登場していたS4やS5では、パワートレインだけでなくフットワークにおいてもDセグメント離れした上質感に驚かされたが、電子制御可変ダンパーを標準とするこのSQ5も乗り心地の面では、オプションの21インチタイヤを履いていたにもかかわらず、その期待を裏切らないしっとりとしたライドフィールを備えていた。一方でコーナリングでは重心高を感じさせずテンポよく鼻先の向きを変える、その軽快感はオンロードのスポーティネスを重視して後軸寄りの駆動配分に再設定されたクワトロシステムに加えて、エンジン本体の軽量化も奏功しているのだろう。
技術でもって“二律背反”に挑む
走ればクラスを超えた動的質感の高さを日常域からしっかり感じさせ、踏めば十分以上のパワーを粒立ち滑らかに放つ、その高精細なパフォーマンスをあくまで基準車然としたアピアランスの中に収めたモデル。趣味性でクルマを語れば全方位性が売りになることは稀(まれ)かもしれないが、S系モデルのバランス感覚はちょっとずぬけたところにあって、クルマ好きを大いにうならせてきた。そしてこのSQ5も、間違いなくそういう類いの一台に仕上がっている。
低CO2すなわち低燃費で高出力というのは典型的な二律相反であり、それを克服することがまさにアウディの社是である「技術による先進」であり、世界の自動車メーカーもそこに向かってまい進してきた。
その目標のために、今や電動化を筆頭に多くの跳躍的な手段が実践もしくは検討されている。が、それら手段の土台になるのはコンベンショナルな車両設計技術であり、そこに改善できる余地を見いだせるなら地道ながらも向かわなければならないというのは至って正論だ。一見イメージ重視のプレミアム路線にみえるアウディが油臭い内燃機関をまだまだ見切っていないという事実は、彼らの技術に向き合う真摯(しんし)さを表しているのではないだろうか。
(文=渡辺敏史/写真=アウディ/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
アウディSQ5
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4671×1893×1635mm
ホイールベース:2824mm
車重:1870kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:354ps(260kW)/5400-6400rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1370-4500rpm
タイヤ:(前)255/45R20 101W/(後)255/45R20 101W
燃費:8.3リッター/100km(約12.0km/リッター 欧州複合モード)
価格:6万4100ユーロ(約801万2500円)/テスト車=--円
オプション装備:--
※価格はドイツのもの
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。