メルセデス・ベンツGLA180(FF/7AT)
カッコだけと侮るなかれ 2017.07.06 試乗記 メルセデスのコンパクトSUV「GLA」がマイナーチェンジを受けた。その内容はいわゆるフェイスリフトに過ぎない。しかし、試乗を通じて感じたのは、“見た目”優先ではなく、むしろ高い実用性を備えたユーティリティーカーに仕上がっているということだった。クロスオーバーにしては手が込んでいる
セダン、ハッチバック系のメルセデスには、「Sクラス」を頂点として、「Eクラス」「Cクラス」「Bクラス」「Aクラス」というヒエラルキーがある。SUVでも「Gクラス」を筆頭とするヒエラルキーがあるのはご存じのとおりで、別格のGクラスを除けば、「GLS」「GLE」「GLC」、そして今回のGLAという具合に“GL”にクラスを表すアルファベットを組み合わせられるようになったおかげで、その上下関係がわかりやすくなった。
基本設計をAクラスから受け継ぐGLAは、メルセデスのなかでは最もコンパクトなSUVということになる。ただ、他のGLファミリーと明らかに異なるのは、兄貴たちがまごう方なきSUVであるのに対し、このSUVは少し軽めの、いわゆるクロスオーバーという存在であることだ。
クロスオーバーの場合、ベースモデルの地上高を少し上げて、前後バンパーをそれっぽいデザインにするというパターンが一般的だが、このGLAはもう少し手が込んでいる。ベースとなるAクラスの面影がないほどエクステリアデザインは一変しているし、リアオーバーハングも延長されて、ミニワゴンのようなスタイルに変身しているのだ。流行のコンパクトSUV市場を攻略するには、“Aクラスクロスオーバー”ではなく、GLの名にふさわしいキャラクターが必要だったのだろう。
そんなGLAにはメルセデスの期待や意気込みが感じ取れるのだが、このGLAがデビューから3年あまりを経てマイナーチェンジを受けた。先ごろ日本でも販売がスタートしたということで、早速引っ張り出すことにした。
より押し出しの強いデザインに
今回試乗したのはエントリーグレードの「GLA180」。GLAのラインナップでは唯一のFF仕様だ。
GLAを運転するのはデビュー直後の試乗会以来だから、およそ3年ぶりということになる。久しぶりのGLAは、“パンチドグリル”と呼ばれる、穴のあいたラジエーターグリルや、大型のベゼルで強調されたフォグランプなどが効いているのだろう、これまで以上に派手というか、押しの強い印象になった。SUVの機能性よりも、まずは見た目という人には、うれしい変更だ。
一方、インテリアデザインは、Aクラスと基本的には共通の見慣れたものだが、オプション装備満載の試乗車は、アルミのインテリアトリムや人工皮革のシートなどを用いたことで、ひとクラス上のモデルのように感じられる。標準では6スピーカーのオーディオが、harman/kardonの12スピーカーに変更されているのも、音楽好きには響くポイントだろう。
センタークラスターやその上にあるモニターなどのデザインに変更はないが、この部分をドライバーに向けてデザインしているクルマが多い昨今、そうしないGLAのデザインには多少違和感があった。違和感といえば、重箱の隅をつつくようでなんだが、メーターに表示される日本語フォントがあまり美しくなく、せっかくの雰囲気に水をさしているのが残念。世のメルセデスオーナーは、こんな細かいことはあまり気にしないのだろうか?
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
洗練された乗り心地
それはさておき、早速走りだすと、その乗り心地の良さに驚かされる。オンロード向けのSUVやクロスオーバーでは、高い車高により起こるピッチングやロールを抑えようと足まわりを固めた結果、乗り心地にしわ寄せがくることが珍しくない。これを解消するために、エアサスペンションや電子制御ダンパーを用いるクルマもあるが、このGLA180にはいずれもないだけに、揺れが大きいのか、硬い乗り心地なのか心配だった。
ところが予想はいい意味で裏切られ、GLA180はボディーの揺れをうまく抑え込み、落ち着いた動きを見せながら、硬さを感じさせない快適な乗り心地を実現していたのだ。その印象は、一般道はもちろんのこと、高速道路を100km/h程度で巡航する場面でも変わらず、そのバランスの良さが際立っていた。
122psと200Nmを発生する1.6リッター直列4気筒ターボエンジンは、アクセルペダルを浅く踏む場面ではエンジンがあまり反応しないというメルセデスの伝統に戸惑うこともあったが、もちろんその性能に不満はない。7段のデュアルクラッチトランスミッションもスムーズで快適である。
使い勝手の良さが魅力
Aクラスをベースとしながら、リアオーバーハングを伸ばしたGLAだけに、使い勝手の点ではAクラスを上回る。例えば、Aクラスのラゲッジスペースは341リッターとやや狭いのが弱点であった。その点、GLAはリアオーバーハングがAクラスよりも125mm長いだけに、ラゲッジスペースは421リッターと余裕がある。しかも、テールゲートは電動で、リアの開口部が広いことから、荷物の積み降ろしも断然楽に行えるのだ。
後席は、大人が乗ってもレッグルーム、ヘッドルームともに十分な広さが確保されている。Cピラーが太いため、後席に座ったときに少し圧迫感があるのと、運転席から斜め後ろを見たときの視界が妨げられるのが気になったが、もちろん購入をあきらめるほどの欠点ではない。
クロスオーバーとして存在感のあるデザインが魅力的なGLAであるが、実はAクラスのミニワゴン的存在として、余裕ある室内スペースや使い勝手の良さは見逃せない部分。Cセグメントのハッチバックとして冷静に見ても、機能的でバランスよく仕上がっているだけに、Aクラスではちょっと狭いというファミリーには、オススメのモデルといえる。
(文=生方 聡/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLA180
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4430×1805×1510mm
ホイールベース:2700mm
車重:1510kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:122ps(90kW)/5000rpm
最大トルク:200Nm(20.4kgm)/4000rpm
タイヤ:(前)235/50R18 97V/(後)235/50R18 97V(ダンロップSP SPORTMAXX GT)
燃費:16.4km/リッター(JC08モード)
価格:398万円/テスト車=515万1440円
オプション装備:レーダーセーフティパッケージ<ブラインドスポットアシスト+ディスタンスパイロット・ディストロニック+レーンキーピングアシスト+PRE-SAFE>(19万9000円)/ベーシックパッケージ<レザーARTICOシート+レザーARTICOドアパネル+クライメートコントロール+バナジウムシルバーペイント 18インチ5スポークアルミホイール+シルバールーフレール+シルバーバンパー+ブロックデザインアルミニウムインテリアトリム>+プレミアムパッケージ<メモリー付きフルパワーシート[前席]+電動ランバーサポート[前席]+アームレスト[後席]+トランクスルー機能+リバースポジション機能付きドアミラー[助手席側]+サングラスケース+12V電源ソケット[ラゲッジルーム]+アンダーシートボックス+シートバックポケット+カップホルダー[後席]+アンビエントライト[マルチカラー、ウエルカムファンクション機能付き]+harman/kardonロジック7サラウンドサウンドシステム+パノラミックスライディングルーフ[挟み込み防止機能付き]>(71万円 ※ベーシックパッケージを含む金額) ※以下、販売店オプション AMGフロアマットプレミアム(5万7240円)/COMANDシステムナビゲーションフルセット(20万5200円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:3169km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:405.0km
使用燃料:29.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.8km/リッター(満タン法)/13.3km/リッター(車載燃費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。