ポルシェ・パナメーラ ターボ(4WD/8AT)
さりげなく技術満載 2017.07.19 試乗記 ポルシェの4ドアサルーン「パナメーラ」が、新プラットフォームや新エンジンなど、数多くの新技術を引っさげて2代目へと進化。低環境負荷と高い動力性能を両立したとされる新型の魅力を、箱根のワインディングロードで探った。ジェントルで高効率なターボエンジン
ポルシェのV8ターボで忘れられないのはやはり初代「カイエン ターボ」である。4.5リッターのV8ツインターボ(450ps、620Nm)を積んだ、ポルシェ初のSUVの怒涛(どとう)のパワーと、猛然と荒々しく加速する走りっぷりに驚いたものだが、同時に思わず二度見するほど芳しくない燃費にもびっくりした。高速道路をおとなしく走った区間を含めても平均燃費は4km/リッターちょっとだったと思う。ところが、今やあんな後ろめたさを感じる必要はない。それどころかもう胸を張って自慢してもいいぐらいだ。パナメーラ ターボは現在ポルシェで最も高性能なセダンにもかかわらず(まだデリバリーされていない「ターボS E-ハイブリッド」はシステムトータルで680psと850Nmとさらに強力)、高速道路の流れに乗ってごく普通に走っているとオンボードコンピューターの燃費計の数字が10km/リッター、11km/リッターと面白いように伸びてゆく。
新たに採用された8段PDKのトップギアで100km/h巡航している時のエンジン回転数はわずか1200rpmほどにすぎないが、そのうえ気づくと回転計の針がアイドリング位置に落ちている。そう、目を離すとたちまちクラッチを切ってコースティングするのだ。さらには低負荷時にV8のうちの4気筒を休止させるシステムも備わっているという。そのオン/オフはまったく感じることができないし、コースティングからの復帰も極めて静かにスムーズに行われる。ごく普通に走る限り、ニュルブルクリンク旧コースを7分38秒というとんでもないラップタイムで走ったことが信じられないほどジェントルだ。丁寧に灰汁(あく)を取り去ったスープのように、荒々しさや野性味が取り除かれてすっきり洗練された、だがいっぽうで踏めば途轍(とてつ)もなく速い4ドアサルーンが新型パナメーラ ターボである。
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スーパースポーツ並みのダッシュ力
2代目に生まれ変わったパナメーラ ターボはエンジンもプラットフォームもインターフェイスも一新された。新しい4リッターV8直噴ツインターボは、従来の4.8リッターツインターボからダウンサイジング、いやいやポルシェはライトサイジングと言うらしいが、排気量は一気に小さくなったものの、従来型以上の高性能と高効率を両立させたエンジンである。4リッターのV8ツインターボではあるが、アウディの「RS」系や「ベントレー・コンチネンタルGT」に積まれているエンジンとは異なり、ポルシェが開発したユニットだが今後はグループ内の他の高性能モデルにも使用されると見られている。2基のターボが両バンクの間に配置された流行の形式で、スペックは550ps(404kW)/5750-6000rpmと770Nm/1960-4500rpm(従来型パナメーラ ターボは520psと700Nm)とパワーアップしただけでなく、前述のように効率も大幅に向上している。
アルミ素材などを多用したボディーと新しいMSBプラットフォームを採用したとはいえ、全長5m超の4ドア4座の4WDサルーンゆえに車重は2040㎏(車検証記載値)と2tを超える。それにもかかわらず、0-100km/h加速がわずか3.8秒、ほとんどの顧客が装着するであろう「スポーツクロノパッケージ」付きでローンチコントロールを作動させれば3.6秒という数値はずばぬけており、まさしくスーパースポーツカーと比べても遜色ないレベルだ。最高速は306km/hという。一度だけローンチコントロールを試してみたところ、路面がうっすらぬれていたせいか、ほんのわずかのホイールスピンとともに猛然と、だがまったく荒々しさを見せずに加速した。しかもまったくテクニック要らずでこのパフォーマンスを発揮できるというのがすごい。
違和感のない最新技術
試乗車は50km/h以下で前輪と逆位相に、それ以上では同位相に切れるオプションのリアアクスルステアリングを装備していたが、その作動具合にはまったく違和感がなく、知らなければ意外に小回りが利くな、と思う程度だろう。各輪3個のエアチャンバーに可変ダンパーを備えるエアサスペンションは当たりが柔らかく(タイヤはオプションの21インチ!)、常にしなやかに滑らかにボディーをフラットに保ってくれる。それでいながら、あいにくの雨にぬれた箱根の山道であえて飛ばしてみても、まるで不安感なくスイスイと狙った通りのラインで走ることができた。従来モデルに比べてむき出しの高性能をアピールすることを控え、洗練度を前面に押し出しているようだが、その実像は最新技術を満載した高性能セダンである。あまりにもイージーにさらりと走れるせいで、誤解してしまう人がいるのではないかと、かえって心配になるほどだ。
もっとも、これだけ最新技術全部載せなのに、なぜかアダプティブクルーズコントロールといった安全運転支援システムが標準装備されないのは不思議だ。いかにポルシェとはいえ、パナメーラは「911」や「ボクスター」とは違ってビジネスエクスプレスとしても使われるのだから、そろそろ見直すべきだろう。パナメーラ ターボは車両本体価格で2327万円、「リアアクスルステア」やスポーツクロノパッケージなどのオプションを加えるとほとんど2600万円にも達する高価格車なのである。
インパネの操作性には疑問あり
伝統の5眼メーターの真ん中、回転計だけはアナログだが、その両側は実はデジタルディスプレイで円形を表示しており、右側には地図画面を映し出すこともできる。センターコンソール上部の12.3インチモニターに加え、エアコンなどのコントロールスイッチもセレクターの周りに広がる、スマホのようなタッチパネルの中に収められたが、正直使いやすいとは思えない。新型「ゴルフ」といい、ポルシェといい、欧州ではスマホ風がはやりなのかは知らないが、同じ色調とグラフィックで細かく並んだ各種アイコンは判別しにくいし、ミスタッチを誘う。そもそも指を近づけた場所に視線をはっきり動かさなければならないのは、自動車のインターフェイスとしては好ましくないと思う。そのために音声コントロールがあるわけだが、これまた満足に反応してくれないのでイライラが募る。
今や相手は他の車のカーナビではなく、Siriやグーグルである。直接スマホに語りかければ、あれだけ物分かりがいいのに対して、車載のものの認識率は格段に落ちる。どうせ一度ではうまくいかないと分かっている機能をわざわざ使うのは、そういうことに興味があるか、暇を持て余している人かのどちらかだろう。とはいえ、はっきりとした不満はそのぐらいのもの。すっきり上品で透き通った乗り心地と、あきれるほどのパフォーマンスを両立させた完成度の高さは疑う余地がない。ここからさらに強力なバージョンが追加されることを考えると空恐ろしい気持ちもするのである。
(文=高平高輝/写真=小河原認/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ポルシェ・パナメーラ ターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5049×1937×1427mm
ホイールベース:2950mm
車重:2040kg(車検証記載値)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:550ps(404kW)/5750-6000rpm
最大トルク:770Nm(78.5kgm)/1960-4500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21 103Y XL/(後)315/30ZR21 105Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:9.4-9.3リッター/100km(約10.6-10.8km/リッター、欧州複合モード)
価格:2327万円/テスト車=2595万1000円
オプション装備:ボディーカラー<ロジウムシルバーメタリック>(0円)/インテリアカラー<ブラック/ルクソールベージュ>(13万円)/リアアクスルステアリング<パワーステアリングプラスを含む>(32万5000円)/スポーツクロノパッケージ(38万2000円)/21インチ 911ターボデザインホイール(59万7000円)/ポルシェ クエスト ホイールセンターキャップ(3万円)/ブルメスター@ハイエンド3Dサラウンドシステム(96万8000円)/TVチューナー(24万9000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:7596km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:291.8km
使用燃料:45.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.5km/リッター(満タン法)/6.5km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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