メルセデス・ベンツS560ロング(4WD/9AT)/メルセデスAMG S63 4MATIC+ ロング(4WD/9AT)
王者のプライド 2017.08.31 試乗記 メルセデスのフラッグシップセダン「Sクラス」がマイナーチェンジ。スイス・チューリッヒで試乗した最新型の仕上がりは、あらゆる面において、トップモデルとしての完成度を実感させるものだった。最上級セダンの威厳を回復
先日、早くも日本上陸を果たした新型メルセデス・ベンツSクラス。フェイスリフトとしては異例ともいえる大規模な発表会が催されたが、それが単なるお色直しにとどまらず、実に6500カ所にも上る変更を施した意欲作だと聞けば、それもなるほどうなずけるところだ。
そうは言いつつ、まず気づくのは外観がより押し出しの強いものとなったことだろう。650m先まで照らすというウルトラハイビーム付きのマルチビームLEDヘッドライトには3本の光のトーチが組み込まれ、目ヂカラを強調している。やはり3本のツインルーバーを持つラジエーターグリル、そして開口部が拡大されて力強さを増したバンパーと相まって、堂々とした印象が強まった。一方で、新デザインのバンパー、クリスタルルックのLEDリアコンビネーションランプを得たリアビューは、分かる人には分かるという雰囲気だろうか。
率直に言って、これまでS/E/Cクラスのセダン3兄弟はあまりにも似過ぎていて、筆者などは今でもなお、見間違えるほどだ。実際、ユーザーからも差別化を強めてほしいという声があがっていたという。結果、どうだろう。これならSクラスの威厳、保たれるのではないだろうか。
インテリアは、2画面のディスプレイを連結させたワイドスクリーンコックピットを採用。そしてステアリングホイールの形状も新しくなった。スポークの親指に近い部分にはEクラスに続いて「タッチコントロールボタン」が設けられている。この辺りはEクラス以降の流れだが、メルセデスの熱心なファンほどショックに違いないのが、ディストロニックのスイッチが、直感的に使えて扱いやすかった従来のレバー式から、ちまたによくあるステアリングスイッチへと改められたことだ。似たようなスイッチがズラリと並ぶ場所に、わざわざ移すなんて……。
それを除けば雰囲気、仕立ては相変わらず文句なし。ホットマッサージ機能付きのシート、64色のアンビエントライト等々、おもてなし機能もズラリとそろう。
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異次元の乗り心地
走りに関する部分にも大幅に手が入れられている。主力モデルはエンジンが刷新され、従来の「S550」の後継となる「S560」と、「メルセデスAMG S63 4MATIC+」には、いずれも4リッターV型8気筒直噴ツインターボエンジンが新たに搭載された。基本設計は共通の両エンジン、前者は最高出力469ps、最大トルク700Nmで、「9G-TRONIC」と呼ばれる9段ATとの組み合わせ。後者はターボチャージャーが異なり、そして当然ながらマイスターによる手組みで、最高出力612ps、最大トルク900Nmを発生する。トルクコンバーターの代わりに電子制御多板クラッチを用いた「AMGスピードシフトMCT」9段トランスミッション、電子制御駆動力配分式のAWDがセットとなる。
S560のステアリングを握って、まず「Sクラスはこうじゃなくちゃ!」と思わず膝を打ったのが乗り心地だ。旋回中にロールと逆方向に車体をチルトさせてフラットな姿勢を保つダイナミックカーブ機能付きの「マジックボディコントロール(MBC)」を搭載する試乗車は、日常域ではサスペンションがとても柔らかくストロークする一方で、ロールはほとんどしないという、まさにMBCらしい異次元の、上質な乗り味を実現している。ランフラットではなくなったタイヤの恩恵も大きいのだろう。多忙なビジネスパーソンの疲れも、これなら癒やされそうだ。
エンジンは普段はそれほど強く主張してくるタイプではないが、欲しい時に欲しいだけのトルクを即座にもたらして、不満など一切感じさせない。それでいて、ほとんど必要な場面はないが、アクセルを深く踏み込めば、ボリューム控えめに快音を聞かせてくれもする。9段ATの変速マナーも完璧で、常にとろけるように滑らかに走ってくれるのである。
洗練された走りに驚く
メルセデスAMG S63 4MATIC+の乗り味は、それと比べれば当然引き締められている。しかしながらガチガチに硬いわけではなく、姿勢変化を抑え、よりシャープな反応を実現しながらも、当たりはしなやか。まるでボディー剛性まで高まったように感じられるのは、エアマティックサスペンションの調律が一段と進んだおかげだろうか。ステアリングフィールも濃密で、触れているだけで顔がほころんでくる自分に気づくほどだ。
従来の5.5リッターから排気量が大幅に小さくなったにも関わらず、日常域のドライバビリティーはさらに研ぎ澄まされている。低回転域からリニアに生み出されるトルクと、AMGスピードシフトMCTのダイレクトさが相まって、右足とタイヤが直接つながっているかのような一体感が得られるのである。
もちろん、むちを入れた時の速さには文句をつける余地などない。しかもAWDのおかげで全開加速を試みようとも挙動は終始安定している。同じメルセデスAMGでも獰猛(どうもう)さむき出しのEクラスなどとはまた違った、洗練されたアスリート性能を満喫させてくれるのだ。
納得のマイナーチェンジ
安心してその走りを楽しめるよう、運転支援技術、先進安全装備もアップデートされている。例えば「アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック」と名付けられたACCには、高速道路上の渋滞中、車両停止後30秒以内であれば自動的に再スタートする機能が盛り込まれた。ウインカーレバーの操作で車線変更が可能なアクティブレーンチェンジアシスト、車両前方の状況を検知して、歩行者との接触を避けるためのステアリング操作による緊急回避の際に操舵力を軽減する緊急回避補助システム、自動車や歩行者、さらには前方で発生した渋滞まで検知して作動するアクティブブレーキアシストなど、ほかにもさまざまな機能が搭載されている。
また日本仕様ではMercedes me connectの名で、緊急時の24時間通報サービス、故障通報、コンシェルジュサービスに、スマートフォンを使っての車両操作、駐車を可能にするリモートパーキングアシストなども用意する。車両の前後移動だけでなく縦列、並列駐車まで車外から行うことができるのは初のことだ。
メルセデス・ベンツのフラッグシップには常に、自動車の可能性のすべてを具体化する存在であり続ける責務があると言ってもいい。走りや快適性といったクルマの基本中の基本である要素はもちろん、安全性や先進性といった分野においても、新しくなったメルセデス・ベンツSクラスは、見事にその期待に応えるものに仕上がっていた。
セグメントを代表する存在であり、シェアも文句なしにトップのSクラスが、登場からたった4年でここまで変える必要があるのか。ワールドプレミアに立ち会った4月の上海では、実はそんな思いもないわけではなかった。しかしながら今回の試乗で実感させられたのは、そんな前のめりな姿勢こそがSクラスを、常にそういう存在たらしめてきたのだということである。長年のユーザーにも、あるいは新興国の若きユーザーにも、両方に響いているのは、きっとそういう姿勢なのだろう。
では日本のユーザーには果たしてどんな風に受け入れられるか。好調が伝えられる「BMW 7シリーズ」に「ポルシェ・パナメーラ」、さらには間もなく登場する新型「レクサスLS」、「アウディA8」等々、強力なライバルが周囲を取り囲む中での王者Sクラスの戦いぶり、興味深く見守りたい。
(文=島下泰久/写真=ダイムラー/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツS560ロング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5255×1899×1494mm
ホイールベース:3165mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:469ps(345kW)/5250-5500rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/2000-4000rpm
タイヤ:(前)245/50R18/(後)245/50R18
燃費:--km/リッター(JC08モード)
価格:1646万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
※数値は日本仕様車のもの
テスト車の年式:2017年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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メルセデスAMG S63 4MATIC+ ロング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5305×1915×1500mm
ホイールベース:3165mm
車重:2230kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:612ps(450kW)/5500-6000rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/2750-4500rpm
タイヤ:(前)255/40R20/(後)285/35R20
燃費:8.8km/リッター(JC08モード)
価格:2491万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
※数値は日本仕様車のもの
テスト車の年式:2017年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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