ベントレー・コンチネンタルGT(4WD/6AT)【試乗記】
得難い世界 2011.09.12 試乗記 ベントレー・コンチネンタルGT(4WD/6AT)……2524万7000円
新型「ベントレー・コンチネンタルGT」に試乗。伝統のブランドが放つ最新モデルは、どんな走りを見せるのか?
スポーツカーとは違う味
フルモデルチェンジした「ベントレー・コンチネンタルGT」。本国では2010年に発表、わが国には2011年2月に導入された。6リッター12気筒にフルタイム4WDという成り立ちは従来型から継承。改良点として、出力とトルクが増加し、トルク配分が従来の50対50から40対60へ、そして6段ATのシフト時間が半分になったことが挙げられる。
早く快適なクーペ、という「コンチネンタルGT」の根幹にあるコンセプトは、新型にも引き継がれている。「スーパーカーのような走りをしつつも、乗り心地や実用性を犠牲にはしていません」と、フォルクスワーゲン傘下でベントレーがスタートを切ったときからさきごろまでCEOを務め、ベントレーを成功に導いたドクター・フランツ=ヨゼフ・ペフゲンはかつて、発表にあたってこのクルマをひと言で表現した。
新型コンチネンタルGTに乗ると、ドクター・ペフゲンの言葉を実感する。グランドツアラーといっても、アストン・マーティンやポルシェのように限りなくスポーツカー寄りではない。比較的高い着座位置で、革とウッドとメタルに囲まれながら、高速移動が出来る――。優雅で快適という点において、ライバルから抜きんでているのが、新型コンチネンタルGTの真骨頂だ。
ますます傑作デザイン
新型コンチネンタルGTの大きな魅力が、スタイリングだ。従来のコンチネンタルも傑作だった。フロントマスクの存在感やフェンダーの張り出しなどで力強さを出しつつ、滑らかな面でエレガンスを感じさせる。「フロントグリルの格子の1枚1枚が異なったRを持っている!」と、かつてピニンファリーナのデザインディレクターが驚愕(きょうがく)していたのを思い出した。エクステリアデザインを手がけたのは、サンパウロ生まれで、ブラジルとイタリアふたつの国の国籍を持つラウル・ピレス。自動車史に残るデザインだ。そのピレスが新型のエクステリアもデザインした。
新型のスタイリングは、大成功をおさめた初代のイメージを踏襲した、いわゆるキープコンセプト型の変更だ。とはいっても、えらく手間がかかる工法を採用することで、ボディーパネルの面はさらに大胆かつ複雑になった。従来型のオーナーはおそらく、乗り換えのために食指を動かしているのではないだろうか。
インテリアも基本デザインはキープコンセプト。「ウイングドB」とは、頭文字のBに翼が映えたベントレーのシンボルの愛称だが、その翼のイメージをダッシュボードに採用したと説明される。運転席と助手席ともに同じようなふくらみをもたせて、ベントレーならではの世界をデザインを通して表現している。試乗車では、ピアノフィニッシュのような、光沢感の強いほとんど黒色のウッドパネルがそこにはめこまれ、革が貼られたバイナクルとともに、ほかのクルマにはない空間を味あわせてくれた。
シートに腰をおちつけ、プッシュボタン式のスターターを押すのが始動の儀式。エンジンに火が入ると同時に、アルミニウム製だろうか、セーフティベルトのガイドアームが後ろから延びてくる。ベルトを締め、比較的径の大きい革巻きハンドルを握ると、安心感とともに、米国人の好む「アドレナリンがわいてくる」という表現がよく合う、ドライブに対する期待感がぐーっとからだの中にわき上がる。
ゆったりと、速い
コンチネンタルGTは速い。71.4kgmの大トルクを1700回転から発生する12気筒ユニットのおかげで、2320kgという車重はみじんも感じさせないほどの瞬発力だ。さきにも触れたように新型は後輪へのトルク配分が増していることもあるのだろう。ハンドリングはよりナチュラルな感覚になり、「911」から乗り換えたひとでも、コンチネンタルGTの世界観を十分に楽しめるはずだ。
車体の重さもあり乗り心地は快適だ。ダンパーの減衰力がコンフォートからスポーツまで4段階にわたって変えられるので、それで調節するのも、このクルマのドライビングの楽しみといえる。個人的には通常の走行でも、びしっと締まった感じのスポーツが好きで、もっともコンフォート寄りにすると、ふわふわ感が強くなりすぎるように思った。マーケットによってはこれが好きなところもあるだろう。
ドライバーに挑戦してくるような、スポーツカー然としたところはなく、速く走らせることもゆったりと乗ることも、ドライバーの気分で選べる。コンチネンタルGTのハンドルを握っていて、2ドアの「アウディA8」のようにも思えてきた。新型「A8」の、あのゆったりと速い、みごとな出来と、新型コンチネンタルGTの感覚が、どことなく重なって感じられた。
コンチネンタルGTのよさはオールマイティな使い方ができるところで、コンチネンタルの名が表しているとおり、大陸をえんえん走るような、長い距離のドライブを疲労なく行うのに、とても適しているだろう。アクセルペダルを踏みこむと、「いい音」を聞かせるために設置されたレゾネーターの働きだろうか、低音の排気音が比較的大きく聞こえるようになるが、巡航時の静粛性は高い。かつ、フルタイム4WDシステムの恩恵で安逸。まっすぐもカーブもどちらも楽しませてくれるのが、新型コンチネンタルGTの魅力だ。
ステータス性も上々
さきごろフルオープン仕様の「GTC」のフルモデルチェンジを行うなど、ラインナップの刷新に努めているベントレー。変わらないのは、世界中の富裕層で構成される「美しい世界」の住人たちを対象にしていることで、変わっているのは、時代に即した価値を提供するというポリシーに基づいたクルマそのもの、といえるのでは。
コンチネンタルGTでも、従来型に「コンチネンタルGTスピード」や「コンチネンタル スーパースポーツ」という高性能版が設定されたように、今後、さらに個々人の嗜好(しこう)に応じて掘り下げたモデルが環境対応モデルを含めて登場するのは想像に難くない。そしてそれらのクルマが、世界中の「美しい人びと」のあいだでの共通言語のようになる。「あなたはコンチネンタルGTに乗っているということは、長い距離の移動が好きなスポーツカー好きね」といったぐあいに。そこが欧州車の強みで、日本車がなかなか到達できない領域だ。
モータージャーナリズムにおける大先輩の小林彰太郎氏が、まだベントレーを傘下に持っていたころのロールス・ロイスの社長と会ったときの話しを書いている。
社長が英国ではロールス・ロイスでなくベントレーを運転していると聞いて、「なぜ?」と小林氏が尋ねると、ロールス・ロイスでは(サービスを受けたとき)より多くのチップを払わないといけないからね、とそのひとは答える。ロールス・ロイスとたもとを分かってからのベントレーでは、おそらく同額のチップを要求されるだろう。
ひとから尊敬を集めるために自動車のみをその手段とするのは難しいけれど、もし自分にその自信があるなら、コンチネンタルGTを手にいれ、クルマを通して、みずからを語らせてはどうだろう。それこそ、高級車が高級車たるゆえんなのだから。
(文=小川フミオ/写真=高橋信宏)
