第58回:ACCの麻薬的快楽
2017.09.12 カーマニア人間国宝への道ACCはまるでマリファナだ
255万円で買った激安“エリート特急”こと我が「BMW 320d」。今のところ大当たりです!
あくまで今のところ、つまり大きな故障の発生がない段階での話ですが、ボディーも内装も走りも新車と大差なし! なにせ3年落ち2.4万kmだからアタリマエと言えばそれまでだけど、値段が新車の6割引きなんだから笑いが止まらない。まさに大勝利の高笑い!
中でも私が最も感動したのは、自家用車としては初体験のACC(アダプティブクルーズコントロール)だ。
もちろん借り物では数えきれないほど体験しております。ACC初体験は、20年ほど前の「トヨタ・プログレ」でした。
あの頃は私も血気盛ん、なんぴとたりともオラの前を走らせねぇ! ぐらいの勢いでしたが、プログレのACCをセットし、東名の一番左車線を淡々と走ったら、闘争心もスピードへの情熱もすべて消え去り、その癒やし感に陶然としつつ、70km/hで走るトラックにカルガモのごとく追従し続けました。そんな自分に心底驚きました……。
あれはダウナー系の麻薬。マリファナですね。フェラーリはアッパー系の麻薬。ヘロインです。ヘロインは24年間欠かしませんでしたが、マリファナを我が物にしたのはこれが初めて。愛車と借り物とじゃ実感の濃さが違います。
さすがアウトバーン育ち
エリート特急のACCのすばらしさは、主に2つの要素からなる。
ひとつは、制御の緻密さ。3年前のクルマなので最新モデルに比べたら劣るけど、それでも前車を感知して減速する時のスムーズなブレーキングは、今でも十分合格圏内にある。
渋滞追従中の停止直前だけは、ブレーキの最後の「抜き」が大きすぎ、停止寸前に再度少し動いて止まるのでハラハラさせられるが、それはパッドの減りなどブレーキ本体側の消耗が原因かも? わかりませんが。
もちろん、追従中にRのきついカーブに差し掛かると、カメラやレーダーの視界から前車が消えてガッと加速してしまうとか、車間距離がミニマムな割り込みにはほぼ対応できないといった弱点もあるが、それは大抵のACCがそうだし、3年前のクルマとしては本当に十分な性能である。
もうひとつの美点は、国産車に比べ、ACCの設定上限速度が高いことだ。210km/hまでセットできるのですから! さすがアウトバーン育ち! エリートっぽいなぁ~。
もちろん210にはセットしませんよ。一度だけものは試しと、前車追従中(制限速度内)に設定速度を210km/hまでビビビッとアップして「おおー!」とひとり感嘆の声を上げたけど、実際にはそんなの使えません。
“エリート特急”のACCは大勝利!
エリート特急のACCをじーっと観察していると、前車を検知するのは100m+α手前あたりから。
ミリ派レーダーの感知能力は200mが限界ともいわれるが。そのあたりに詳しい交通コメンテーターの西村直人氏に聞いてみた。
「現在ミリ波レーダーによく使われている24/25GHzや76/77GHzは、出力制限もあって200mが限界ですね。加えて200m手前から見えていても、誤作動を防ぐためマージンを取って最大150mくらいにしています。それはボッシュもコンチもデンソーもほぼ同じです」
なるほど。見えたと思っても錯覚ってこともあるもんね!
「アウトバーンでACCを200km/hにセットしたと仮定すると、1秒間に55m進みますよね。その2秒分、110m手前から感知すればよし、というのが彼らの認識なんです」(西村氏)
さすがドイツ的エリート発想。ところで、200km/hで走ってて前に100km/hのクルマが現れたら、ACCじゃ止まれないよね?
「止まれません(笑)。僕は実際「Sクラス」のシミュレーターで体験しましたが、まさにそのシチュエーションで普通にぶつかりました。なにせACCのブレーキは減速Gの制限もありますしね。その場合も最後には自動ブレーキが作動してフルブレーキングしますが、それでも止まれません。速度差は50km/hまでが限界といわれてます」
つまり日本では、210km/hにセットするなんて自殺行為だし、新型「カムリ」の180km/hも使えるわけない。ただ、多くの国産車みたいに115km/hが上限だと、追い越し車線の流れに後れを取ってしまうのが現実。近々日本でも高速道路の最高速度が120km/hに引き上げられることもあるし(新東名などごく一部区間)、130km/hまでセットできればなぁと常々思っておりました。
エリート特急のACCは、それはらくらくクリアしておりますし、機能および作動のスムーズさ、正確性など、80点はつけられる! 涙が出るよ!
そこにディーゼルの太いトルクやBMWらしいスタビリティー、現行「3シリーズ」のしなやかな乗り心地が加わって、まるで特急列車に乗ってるみたいなのだ! 新幹線には負けるけど、最高速度130km/hの在来線特急並み!
「エリート特急」という命名には、そんな意味が込められているのですよ。ダッハハハ~!
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな 2025.9.22 清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?
-
第318回:種の多様性 2025.9.8 清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。