第436回:2030年までに全モデルを電動化
VWグループが掲げた「ロードマップE」とは?
2017.09.14
エディターから一言
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フォルクスワーゲン(VW)グループが車両の電動化に拍車をかける。フランクフルトモーターショーの開幕直前に行われた前夜祭イベントで、VWグループのマティアス・ミュラーCEOが、e-モビリティー分野においてVWグループが世界でナンバーワンになると宣言。2016年6月に発表した「TOGETHER ストラテジー2025」の強化を発表した。その新たな戦略である「ロードマップE」とはどのようなものなのだろうか?
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“前夜祭”に異変あり
正式名称「フォルクスワーゲングループ・プレビューナイト」、通称“VWナイト”――VWを筆頭に、アウディ、ポルシェ、ランボルギーニ、ベントレーと、日本でもおなじみのさまざまな乗用車ブランド以下、グループに属するすべてのブランドを対象に、ショーに出展されるモデルたちを派手な演出と凝った舞台でショー開幕前に披露する場が、この“前夜祭”であった。
しかし、そんなイベントの趣も例の“ディーゼルスキャンダル”を境に一変。規模は大幅に縮小され、ブランドごとのCEOが登壇して行う長時間の個別プレゼンテーションも消滅。「この“前夜祭”であった」という過去形で表現したのは、そんな理由によるものだ。
一方で、趣向は変わったとはいえ、世界で行われる主要モーターショーを前に独自のイベントを行うこと自体は今でも変わりない。IAA、すなわちフランクフルトショー開幕前夜に開催された今回のVWナイトは、翌日からの展示会場でもあるフランクフルトコンベンションセンターの3号ホールが舞台となった。
前述の各ブランドに加え、セアトやシュコダなど日本ではなじみのないブランドも自身のブースを出展し、結果として“VWグループ大国”の様相を示すのが、フランクフルトモーターショー3号ホールでのいつもの光景だ。
もっとも、翌日からのショーで初公開されるモデルは、この前夜のタイミングではまだ何ひとつ展示されていなった。その点では、正式発表よりひと足先にさまざまな初披露車を目にすることができたかつてのやり方に比べて、“魅力半減”となった感は正直否めないところ。また、こうしてイベント会場がショー会場と同一とされたのも、終了後に徹夜で貴重なモデルを搬送する手間が省けるなど、コストカットという意味合いも大きかったに違いない。
e-モビリティー分野で世界ナンバーワンになる
プレスデー初日の前日、9月11日の定刻19時ピタリに始まったイベントでまず登壇したのは、VWグループ全体のPRトップであるハンス=ゲルト・ボーデ氏。直近ではポルシェの広報マン、さらにそれ以前はVWブランドの広報マンを務めた方で、実は筆者が個人的にもよく知る人物だ。そんなボーデ氏からマイクをハンドオーバーされたのは、やはり直近はポルシェのCEOで、現在ではVWグループ全体を率いるマティアス・ミュラー氏だった。
今年春に開催されたジュネーブモーターショーで初公開されたEV、「セドリック」に乗って登場したミュラー氏は、デジタルコネクトと自動運転が特徴のこのモデルを、「近々、テストドライブをしてもらえるはず」とあらためて紹介。同時に、「10年、15年先のことは誰にも分からないが、EVに変わっていかなければならない現実があるのは確かだ」とコメントしつつ、グループとしてすべての力を注ぎながら「われわれは2020年を目標に、世界一のEVを手がけるメーカーにならなければならない」と宣言した。
そうしたプロセスの具体例としてまず、「グループとして2025年までに、電動車両80モデルを発売。その中の約50モデルはピュアなEV」と発表。その後は、さらにそうした流れを加速させて、「2030年にはすべてのモデルに電動車両を設定するのが目標で、開発のロードマップに新たな歴史を刻むことになる」と付け加えた。
インテリアに注力
そんなミュラー氏による大胆な内容のスピーチ後、マイクを握ったのはアウディのCEOであるルパート・シュタートラー氏。そんな氏は、先のミュラー氏による内容を受け継ぐかたちで、「2025年までに3分の1を電動化し、それらは700~800kmの航続距離を目標とする」と、アウディの戦略をスピーチした。
ちなみに、プレミアムブランドであるアウディらしさを表現したEVとして紹介されたのが、インテリアをラウンジ風に表現したコンセプトカー「アイコン」。パワーユニットがもたらすフィーリングに差が生じにくくなることが必至のEVの場合、それ以外の分野でのブランドを差別化するためには、確かに今まで以上に難しいかじ取りが要求されることになるはずだ。
それにしても、VWグループ全体が本気で電動化へまい進していることをあらためて印象づけられたのが、今回のVWナイトでの印象。かつては数時間にも及んだプレゼンテーションは、わずか30分ほどで終了。会場を後にしてホテルに向けて歩いている最中、ふと脳裏に浮かんだのは“転んでもただでは起きない”という言葉だった……。
(文=河村康彦/写真=フォルクスワーゲン、アウディ/編集=竹下元太郎)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。