フェラーリ488GTB(MR/7AT)
大人のミドエンジンフェラーリ 2017.09.22 試乗記 ターボエンジンを搭載する新時代のV8ミドシップフェラーリ、「488GTB」に試乗。今やピークパワーが670psに達した跳ね馬の自慢は、ここ一番の速さだけではなかった。日常をさらりとスマートにこなす、大人な振る舞いをも身につけていた。4.5自然吸気から3.9ターボへ
夜、webCG編集部のTさんが488GTBを届けてくれた。どんな音がするんだろうと楽しみにしていたのに、家にいてもそれらしい音は聴こえなかった。「ターボですから」。Tさんがそう言った。
4568mmの全長は5ナンバーサイズだが、幅はざっと2mに近い。拙宅の狭い駐車場に入れるのは、気を使う。リアカメラはあるが、計器盤のモニターは小さい。なによりも広角レンズが地上高20cmの低い位置に付いているため、すごいスピードで流れる地面ばかり映る。目がついていかない。さすがフェラーリ! ってことか。
知り合いに488GTBオーナーがひとりいる。その人は庭に買い集めた仏像をディスプレイすることが趣味で、488GTBのほかには「ベントレー・フライングスパー」と「モーガン」と「トヨタ・センチュリー」と「アルファード」をお持ちだ。フェラーリは本来そういうところで暮らすクルマである。
2年前、フィオラーノで開かれた488GTBの発表試乗会に参加しているTさんから、簡単なコックピットドリルを受ける。V8ミドシップフェラーリとして、前作「458」との最大の違いは、エンジンが自然吸気4.5リッターからツインターボの3.9リッターに変わったことである。
しかし、走行モードを替えるマネッティーノをはじめ、ステアリングやセンターパネルにある操作類のレイアウトや使い勝手は変わっていない。日本人の耳にイタリア語の響きはすごくかっこよく、ときに意味ありげに響くが、マネッティーノ“manettino”とは「手元スイッチ」くらいの意味である。
静かに速い
翌朝、早出でスタートする。身構えて、赤いスターターを押すと、冷間スタートの一発目は意外におとなしかった。最近では、「BMW M4 GTS」あたりのほうがはるかに“爆音”だった。
マネッティーノは“スポーツ”。これがいわばノーマルで、その下は“ウエット”しかない。走りだしても静かである。おかげで、起き抜けにスーパーカーかァ……という気の重さがだいぶ緩和される。フェラーリとしては匍匐(ほふく)前進みたいなタウンスピードで走っていても、筋骨隆々たるシャシーの存在感や路面の近さやらで目が覚める。
高速道路に入る。運転支援システムを試さなきゃ、なんてことを考えなくていいのがうれしい。3.9リッターV8ツインターボの最高出力は670ps。458よりも100ps増えた。最大トルクは540Nmから一気に760Nmへアップした。しかしダウンサイジングターボ化で、CO2排出量は307g/kmから260g/kmに減っている。驚くべき技術力と情熱だ。
ETCゲートから加速する。フェラーリ発表の0-100km/hは3秒フラット。市販のV8モデルとしては、フィオラーノテストコースのラップレコードキングらしい。速いのは当然である。
しかもデュアルクラッチ自動MTの2ペダルだから、重いクラッチペダルを踏み、シフトゲートのガイドプレートにレバーをガチガチぶつけながら加速した昔と違って、右足ひとつでその高性能を引き出すことができる。カーボンパドルで扱うDCTは7段だが、レブリミットの8000rpm手前まで回すと、2速で103km/hまで伸びる。電光石火のDCTが1回変速するだけでゼロヒャクは完了する。
でも、高速道路で順法運転に努めている限り、やはり静かである。回転のツブツブがはっきりしていた458より、平熱が低い感じだ。大人のミドエンジンフェラーリである。
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ゆっくり流しても楽しい
アナログタコメーターの左右に液晶モニターがある。左画面の近くにある“TURBO”というボタンを押すと、ターボの情報が出る。過給圧をBAR(バール)で示すのは一般的だが、ターボの「レスポンス」や「効率」もパーセンタイルの回転グラフで表示される。どういうふうに使ったらいいのか、日常生活には関係ないようだった。
ステアリングホイールの頂上部には、エンジン回転のパイロットランプが隠れている。5800rpmで赤いLEDがひとつ光り、徐々に増えて、7000rpmで5個が全点灯する。この赤い閃光(せんこう)を見るようになったら、ちょっともう冷静ではいられなくなる。『ハートに火をつけて』だ。
マネッティーノを“レース”モードにすると、すべてのゲインが上がり、488GTBは脇をギュッと締めたファイティングポーズをとる。しかし、けっして荒っぽくはならない。あらゆる反応が敏感になるだけだ。普段使いできるレースモードである。
行きつけの峠道に、このパワーとこの車幅は“ありすぎ”だったが、ゆっくり流していても、楽しかった。そこがドライブゲームと違うところだ。ワインディングロードでは、極上仕立てのレーシングカーである。
フェラーリとはなんぞや?
リアフェンダーの大きなエアインテークは、「308GTB」へのリスペクトを表現したとプレスリリースに記されている。うずくまったような上屋や、ルーフの曲線の具合なのか、もっと古い「ディーノ」も想起させる。広い車庫に収めるオーナーには、488GTBも「オレのかわいいフェラーリ」に見えるのかもしれない。
峠道を走り、空き地にクルマを寄せてメモ書きをしていたら、向こうの集落から30代くらいの男性が歩いてきた。クルマに近づいたところで「写真撮っていいですか」と丁寧に声をかけられる。スマホで撮り終えると、また戻っていった。エーッ、途中じゃなくて、わざわざ来たのか。
高速道路の本線を走っていたら、追い越しレーンを飛ばしてきた「メルセデスEクラス」が急減速して、後ろに入った。ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)の装備が一般的になり、前走車に追従して走るクルマが増えている。フェラーリをロックオンすると、ちょっとトクした気分になりそうだ。
488GTBに乗っていて、あらためて思った。フェラーリとは、フェラーリであること、である。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸/編集=竹下元太郎/撮影協力=ホテルキーフォレスト北杜)
テスト車のデータ
フェラーリ488GTB
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4568×1952×1213mm
ホイールベース:2650mm
車重:1475kg(空車重量)
駆動方式:MR
エンジン:3.9リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:670ps(492kW)/8000rpm
最大トルク:760Nm(77.5kgm)/3000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:11.4リッター/100km(約8.8km/リッター ECE+EUDC複合サイクル)
価格:3070万円/テスト車=4256万2000円
オプション装備:ボディーカラー<スペシャルカラー:Rosso Corsa Met>(111万9000円)/内装色<Nero>(0円)/Apple CarPlay(37万8000円)/トロリーセット(98万3000円)/カラード・ブレーキ・キャリパー<アルミニウム>(13万7000円)/カーボンファイバー製リア・エアダクト(37万8000円)/カーボンファイバー製サイド・エアスプリッター(33万3000円)/カーボンファイバー製エンジンカバー(0円)/カーボンファイバー製リアディフューザー(86万2000円)/カーボンファイバー製アンダードアカバー(77万2000円)/カーボンファイバー製フロントバンパー保護フィルム(24万2000円)/カーボンファイバー製ドライビングゾーン(68万1000円)/カーボンファイバー製センターブリッジ(25万8000円)/カーボンファイバー製ドアパネル(62万円)/カーボンファイバー製シルキック(18万2000円)/カーボンファイバー製アッパートンネルリム(36万3000円)/カーボンファイバー製ダッシュボードインサート(60万5000円)/ロワー・ダッシュボードのカラード・レザー仕上げ<Rosso Ferrari>(12万1000円)/ヘッドレストの跳ね馬刺しゅう<Rosso>(11万4000円)/チタニウム製エキゾーストパイプ(22万7000円)/カーボンファイバー製フロントスポイラー(68万1000円)/スクーデリア・フェラーリ・フェンダー・エンブレム(16万7000円)/フロント&リア・パーキングカメラ(54万5000円)/フロント&リア・パーキングセンサー(0円)/20インチ・クロームドペイント鍛造ホイール(56万円)/カラー・レブカウンター<イエロー>(8万8000円)/ゴールドレイク・レーシングシート(81万7000円)/Hi-Fiオーディオ(56万円)/カラードステッチ<Rosso>(6万9000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:4426km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:383.0km
使用燃料:56.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.8km/リッター(満タン法)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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