第441回:“ガレーヂ伊太利屋カラー”のアバルトが激走
日本人ドライバーがヨーロッパラリーに挑む
2017.09.22
エディターから一言
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ラリーの本場、ヨーロッパで行われるヨーロッパラリー選手権(ERC)。イタリアで開催されたその第7戦に、日本のラリーチームとラリードライバーが参戦! 懐かしい“ガレーヂ伊太利屋カラー”の「アバルト500」がローマを駆けた。
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あのカラーリングがイタリアで復活!
ERCの第7戦「RALLY DI ROMA CAPITALE」が、9月15日から17日にかけて、イタリア・ローマ近郊のフィウッジで開催された。
中世からの温泉地として知られ、イタリアではミネラルウオーターの産地としても有名なフィウッジで行われるこのラリー。今回、日本とはいささか縁遠そうなこのイベントを取材した理由は、日本のムゼオチンクエチェントレーシングチーム(mCrt)が参戦しているから。そして、往年のレースファンには懐かしい“ピンクのカラーリング”が久々に復活したからだ。
順を追って説明すると、mCrtは全日本ラリー選手権に「アバルト500R3T」で参戦しているチームである。RALLY DI ROMA CAPITALEに挑むのは昨年に続きこれが2度目。ドライバーを務めるのは、全日本ラリーにもmCrtから参戦している眞貝知志選手だ。眞貝は2007年から全日本ラリーに参戦しており、2009年には当時のJN2クラスを、2012年にはJN3クラスを制覇。2014年からはこのアバルト500R3Tでラリーに臨んでいる。
一方、今年のコ・ドライバーにはイタリア人のダニーロ・ファパーニ選手を起用。ファパーニは1997年に「スバル・インプレッサ」でイタリアチャンピオンを獲得。その後も数々のラリーに参戦し、2006年から2016年まではイタリア人ドライバー、シモーネ・カンペデッリと組んで世界ラリー選手権(WRC)やイタリア選手権で活躍してきた経験豊富なベテランである。
このファパーニの起用と並び、昨年の参戦から大きく変わった点が、チームを支援するパートナーにガレーヂ伊太利屋が加わったこと。それに伴い、マシンにピンクの“ガレーヂ伊太利屋カラー”が施されたことである。1970年代から1980年代にかけて、グラチャンやWECなど、各カテゴリーのレーシングカーを彩ったあのカラーリングだ。ルマン24時間レースに参戦した「ポルシェ962C」を思い出すようなファンの方なら、久しぶりにモータースポーツの世界に舞い戻った「伊太利屋」の文字が懐かしく感じられるの違いない。
地元イタリアのマシンを日本人が駆る
マシンについては先にも触れたとおり、全日本ラリー選手権と同じくアバルト500R3Tを使用。といっても全日本で使用しているマシンそのものではなく、現地イタリアでレンタルしたものだ。イタリアと日本では車両規則が異なり、全日本仕様のマシンでイタリアやヨーロッパのラリーにそのまま参戦することは不可能。また、ヨーロッパではラリー車のレンタルというのは至って普通のことで、ビジネスとしても成立している。
ちょうどいいので、ここでヨーロッパラリーなどで用いられる車両規定についても説明させていただく。文字数の都合もあるのでおおざっぱに言うと、WRCのトップカテゴリーであり、各メーカーが威信をかけて開発した「WRカー」で競われる「RC1」を頂点に、R5規定のマシンが走る「RC2」、R3規定で競われる「RC3」、2シーターの車両が走る「R-GT」などに分けられている。
中でも、ERCをはじめとした地域選手権のトップカテゴリーが、R5規定で競われるRC2クラスである。R5規定のマシンは、シュコダやシトロエン、ヒュンダイ、プジョー、フォードなどが提供しており、地域選手権だけではなく各国の国内選手権にも参戦が可能。世界のスタンダードともいえるカテゴリーだ。
一方、mCrtがアバルト500R3Tとともに参戦するクラスは、文字通りR3規定で競われるRC3クラス。主なライバルは「シトロエンDS3 R3T」「トヨタGT86 CS-R3」となるのだが、DS3が1600ccターボ、GT86が2000cc自然吸気のエンジンを搭載するのに対し、アバルト500のエンジンは1400ccターボ。なおかつアバルト500はこのなかで最も古く、戦力不足は明らかといえる。
実際、“地元”イタリアで開催された今回のラリーでも、アバルト500R3Tの姿はほとんど見受けられなかった。それどころか、去年のこの大会では、mCrtが唯一のアバルト、唯一のイタリア車での参戦だったのだ。それを日本人ドライバーが駆るというのだから、いやが応にも注目度は高まる。「イタリア選手権なのに唯一のイタ車」ということから愛国心に火がついたか、ギャラリーの声援もひときわ大きかった。
ちなみに、今年はイタリアの若手育成プログラムからRC3クラスにもう1台のアバルト500R3Tが参戦。2年連続で「イタリアのラリーなのに……」という事態は避けられたようだ。
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最後まで何が起こるかわからない
ラリーは金曜夕方に、ローマ市内の観光名所「真実の口」のそばからスタートした。警察車両の先導により、市内の観光スポットをパレード……というにはあまりに速いペースで巡る。SS1はイタリア文明宮前の広場に特設された特設コースで行われ、眞貝・ダニーロ組はクラス2位で初日を終えた。
明けて土曜からはフィウッジ周辺の山間部がステージ。山あいの街をつなぐ道がそのままコースとなるため、街中ではバールや民家の目の前をラリー車が全開で走り抜けるという、日本ではおよそ想像もつかない光景が繰り広げられる。WRCでも街中を通るステージはあるが、ここまでの規模は見たことがない。いずれにせよ、イタリア人がコーヒーやワインを飲みながらラリーを観戦しているのだから、盛り上がらないはずがないだろう。
こうした市街地コースもあるかと思えば、SSの中には道が細くて路面はバンピー、片側は谷でアベレージスピードがやたらと高いといった、性格の全く異なるステージも待ち受けている。かように変化に富んだラリーだけに、トップ選手も含めてクラッシュが続出。そんな中で眞貝/ファパーニ組は着実にSSをこなしていった。
これが海外3戦目となる眞貝は、地元勢と比べて圧倒的に経験が少なく、昨年はその焦りからコースオフ。マシンを傷めてリタイアを喫した。今年も思い通りに走らせられない自分にいら立ちを見せるも、ベテランのファパーニが眞貝をうまくコントロール。とにかく焦らず無理せず、確実にステージをこなすことに集中させる。経験豊富なコ・ドライバーの仕事ぶりには、チーム代表も全幅の信頼を置いていた。
眞貝が「ドライバーとしては全く納得のいかない走り」と語りながらもクラス3位で迎えた最終日。マシンのセットアップとタイヤ選択は、確実な完走を目標としたものだった。とはいえ、走りきることができたならば、最後の最後に何かが起こるかもしれないのがラリーというスポーツ。そして実際、それが最終ステージで起こってしまった。クラストップを走行していたエマ・ファルコンのDS3が、エンジントラブルでリタイア。最終ステージを走りきった眞貝/ファパーニ組がクラス優勝を飾ったのだ。
勝利にうれしさを見せながらも、思い通りにドライブできなかったもどかしさと、あらためて実感したヨーロッパ人ドライバーとの実力差について語る眞貝。今後は、日本のラリーとは全く異なる道や環境に慣れ、日本をベースに海外ラリーに参戦することの難しさを、いかに克服するかが課題となるだろう。とはいえ、眞貝の次戦は全日本ラリーの最終戦、新城ラリーである。ラリーの本場でクラス優勝を果たした眞貝がどのような走りを見せるか、ぜひ注目したい。
(文と写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
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