第440回:「止める力」がさらに長く続く
ミシュランの新しいスタッドレスタイヤ「X-ICE3+」を試す
2017.09.21
エディターから一言
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ミシュランが去る6月に発表したスタッドレスタイヤの新製品「X-ICE3+(エックスアイス・スリープラス)」の特徴は、従来にも増して強化された氷上ブレーキ性能にあるという。その実力はどれほどのものなのか。北海道は士別市のテストコースに向かった。
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違いはMチップにあり
夏の暑さはどこへやら、北海道は大雪山連峰の旭岳では、紅葉がもう(9月の4週目に)ピークに達しているそうである。なんだか今ひとつシャキッとしなかった今年の夏は、いよいよ本当に終わってしまった、ということのようだ。
そしてもうあと1カ月もすれば、北海道の各地から初雪が報告されるだろう。いよいよスタッドレスタイヤの季節の到来である。今年も各メーカーとも強力な新製品を用意して商戦に備えているようだが、ミシュランはX-ICE3+でそれを迎え撃つ構えだ。
X-ICE3+は、従来製品の「X-ICE3」の総合性能を維持しながら、氷上性能を向上させた新製品という位置付けである。両製品はトレッドパターンが一緒であるなど、見た目こそ大きな違いはない。しかし、タイヤの基本性能を決めるコンパウンド(タイヤのトレッド部に使われる複合ゴムのこと)が異なっている。
今回新たに採用された「表面再生ゴム」の中には、「Mチップ」と呼ばれる、白い粒状の物質が詰まっている。そしてタイヤの摩耗が進むとこのMチップが溶け出して、タイヤの表面に無数の穴が現れる。この穴が氷の表面にある水分を除去し、氷への密着を促すという仕組みだ。
ミシュランのスタッドレスタイヤは従来のX-ICE3からサイプ(溝)が深く、40%摩耗時でもトレッド面が“同じ顔”であることがうたわれていた。これはすなわち、スタッドレスタイヤに必要とされる雪柱せん断効果(雪を踏み固めて蹴り出す力)、エッジ効果(雪や氷をひっかく力)、接地面効果(路面に密着する力)が40%摩耗時でもほぼキープされているおかげで、氷上ブレーキ性能の低下が抑えられているという意味だ。
新製品のX-ICE3+ではこの特長に加えて、タイヤの表面に穴を再生し続けるMチップを新たに採用したため、氷上ブレーキ性能がさらに長期にわたって続くというわけである。従来のX-ICE3と比較して、新品時で4.5%、摩耗時(1万kmの実車走行で摩耗させた状態)で11.5%改善されているとのことである。
アイスブレーキ性能を強化
このX-ICE3+の研究開発は、フランスではなく群馬県太田市にある、ミシュランの太田R&Dサイトが担当した。また、開発に伴うテストは、今回試乗会が行われた北海道の士別市で行われてきた。つまり、X-ICE3+はミシュランの日本のチームが作り上げた、日本の天候と路面に合ったスタッドレスタイヤであるのが自慢だ。
ミシュランによれば、日本において、新品時のスタッドレスタイヤに一番求められているのは氷上ブレーキ性能であるという。同社が2016年に実施したアンケートでは、80%の人がそう答えたそうだ。それに加えて、2、3年使用した後のスタッドレスタイヤに求める性能の第一もまた氷上ブレーキ性能で、73%がそう答えたそうだ。とにもかくにもアイスブレーキングなのである。
次に、今使っているスタッドレスタイヤから新しいものに交換するきっかけとしては、年数が経過したため(37%)、残り溝が減ったため(35%)、怖い思いをしたから(28%)、などという声が上がっているそうだ。X-ICE3+は、こういった調査結果を受けて開発された製品であり、「アイスで止まる安心感。永く効き続ける信頼感。」というキャッチフレーズを掲げている。
というわけで、まずは氷上ブレーキング性能の結果から報告していこう。士別のテストコース(交通科学総合研究所)にある屋内氷盤路で、「フォルクスワーゲン・ゴルフ6」にX-ICE3+の新品と、1万km走行後の摩耗品を履かせて制動テストを行った。これは20-0km/hの制動距離(車速20km/hから全制動を行い、完全停止するまで)を計測するもの。結果は、新品装着時が6.7m(4回の平均値)、摩耗品装着時が9.4m(2回の平均値)だった。
この士別のテストではX-ICE3+の計測だけにとどまり、X-ICE3との比較は行われなかった。しかし、おそらく多くの人が関心を持つのは新旧製品の制動距離の違いだろうから、後にミシュランが東京のアイススケート場で行った氷上ブレーキテスト結果を併記しておきたい。こちらのテスト車両は「トヨタ・プリウス」で、15-0km/hの制動距離が計測された。結果は、新品装着時の制動距離はX-ICE3+が7.4mで、X-ICE3は8.5m。1万km走行後の摩耗品の制動距離は順に14.6m、16.2mだった。いずれも新製品が従来品をしのぐ結果を示しており、新品同士では13%、摩耗品同士では10%ほどの改善が見られた。
操る楽しさを重視するドライバーへ
士別のテストコースでは、新品のX-ICE3+を履いた「ゴルフ7」で氷雪路でのハンドリングやブレーキングを試すこともできた。ここで印象的だったのは、氷上ブレーキ性能の確かさもさることながら、走る、曲がる、止まるといったクルマの基本動作をしっかり支えるタイヤだ、ということだった。
トレッドパターンを従来製品から引き継ぐX-ICE3+には、X-ICE3に投入されている技術がそっくり継承されている。その技術とは、効果的な除水や強力なグリップなどを実現する「トリプル・エフェクト・ブロック」や、広い接地面を確保しながら接地面圧を路面に均等にかける「マックスタッチ」、あるいはサイプの向きを縦・横・斜めと変化させて多方向にエッジ効果を発揮する「バリアブルアングルサイプ」などである。
ステアリングの中立付近の路面フィールは手元にしっかりフィードバックされ、操舵に対する応答性はシャープすぎず、甘すぎず、ごく自然だ。また、グリップにしても、前後左右の両方向とも、圧雪路ではもちろん氷盤路でも予想以上に確保されている。氷上で意図的にフロントに荷重を移してテールアウトの姿勢を誘っても、その過程は穏やかな動きに終始して、横方向にだらしなく流れていくこともない。“地面をよくかむ”タイヤだ。コントロールのしやすさがとても印象的である。
氷盤路では「日産リーフ」(旧型)でX-ICE3+を試すこともできたが、構造的にガソリン車より重心の低い電気自動車だと、X-ICE3+の基本性能の高さがさらに際立った。操舵に対する追従性は内燃機関車にも増して忠実で、操る面白さを感じたほどだ。また、モーターの起動トルクの大きさゆえに、発進時はトラクションコントロールが過剰に介入してくるかと構えてはいたものの、それも思いのほか小さく、逆に制動時は狙ったポイントより一呼吸、手前で止まるイメージだった。タイヤの基本性能の高さがリーフの運動性能を引き出した形だろうか。
コントロール性の良さはサイドウォールが担うタイヤのケース剛性や、トレッド部のブロック剛性に大きく依存する。路面に接して溶けるまでは、Mチップはコンパウンドの中で硬さを保って剛性維持に寄与するそうで、新素材の効能は、どうやら操る楽しさにも関係しているようだ。
X-ICE3+は、氷の上での安心感に加えて、バランスの良さ、ひいては運転する楽しさをも重視するドライバーにお薦めしたいスタッドレスタイヤである。
(文=webCG 竹下元太郎/写真=ミシュラン)
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竹下 元太郎
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