ホンダN-BOX 開発者インタビュー
これが「ホンダらしさ」です 2017.09.29 試乗記 本田技術研究所四輪R&DセンターLPL主任研究員
白土清成(しらと きよなり)さん
2017年夏にフルモデルチェンジした「ホンダN-BOX」は、外観は徹底したキープコンセプトとした一方で、エンジンやプラットフォームを刷新するなど、“見えないところ”で大きな進化を遂げている。その背景にはどんな思いが込められているのか? 開発責任者の白戸清成さんに話を伺った。
“偶数の悲劇”は繰り返さない
初代N-BOXがデビューしたのは2011年。当時、ホンダの軽自動車はどん底だったが、このモデルが起死回生の一手となった。スズキとダイハツが独占する形だった軽市場に殴り込みをかけ、瞬く間にトップの座を奪い取ったのだ。「N-BOX+」「N-ONE」「N-WGN」といった派生車種を次々と発表し、「N」シリーズは日本市場におけるホンダの根幹車種になった。モデル末期でも売れ続けたN-BOXを新しくするには、自信と勇気が必要である。
――シルエットは先代モデルとあまり変わりませんね。やはり、売れていたから変えるわけにはいかなかったんですか?
形に関しては、いろいろと試行錯誤したんですよ。ワンモーションデザインのモデルとか、N-ONEっぽい顔とかもつくったんですが、どうもしっくりこない。何しろ名前がBOXですから、チームみんなが、ちょっと違うよね、と感じたんです。N-BOXらしさをきっちり定めて、そこは変えちゃダメということになりました。ただ、中身は徹底的に変えています。
――キープコンセプトで失敗した経験がホンダにはありますよね……。
「シビック」のことですか(笑)。初代とか3代目とかの奇数モデルは売れるのに、コンセプトを守った偶数モデルでは苦戦しました。“偶数の悲劇”を繰り返すわけにはいきませんから、新しい価値を出さなきゃいけません。それで「助手席スーパースライドシート」を考えたり、先進装備を充実させたりしました。中途半端に変えたのでは、すぐに古くなってしまいます。変えられるタイミングでしっかり変えることが重要なんです。
――先進安全運転システム「ホンダセンシング」を全車に標準採用したのは思い切りのいい決断でしたね。
一部のグレードでレスオプションがあるんですが、ほとんどの方がホンダセンシングの付いたモデルを選ばれます。装着率は93%ですから、必要不可欠な装備だと認識されているのでしょう。
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ノーマルとカスタムの開発は同時進行
――高速道路で試したら、アダプティブクルーズコントロール(ACC)や車線維持支援システム(LKAS)はちゃんと使えました。前に「フリード」でも試したんですが、同じものですか?
ACCとLKASは基本的に同じですね。さらにオートハイビームと後方誤発進抑制機能も付けています。衝突安全性能も充実していて、JNCAPでは5つ星を獲得しました。
――2代目なのにプラットフォームを刷新するというのは、最近のクルマづくりの傾向からするとぜいたくですね。
実は、初代N-BOXの時も前のモデルのプラットフォームを使うという案があったんですよ。でも、「ダイハツ・タント」がスライドドアで出てくることがわかっていて、同じタイミングでヒンジドアを出しても勝てるわけがない。昔のプラットフォームだとスライドにするのが難しかったので、時間をもらってNシリーズ用のプラットフォームをつくるというふうに巻き直したんですね。当時は正直に言ってホンダの軽は売れてなかったので、売れてないものにそんなにお金をかけていいのかという声は当然出るんです。今でこそ、間違ってなかったと言えますけど。
――今回も、思い切って全部変えたわけですか。
守りに入ってつまらないモデルチェンジにしてしまうと、悪い結果になると思います。初代が売れたから、これだけ新しいものを盛り込むことができたわけでもあるんですけどね。
――形もよく見るとずいぶん変わっているんですね。しかも、ノーマルと「カスタム」では別のクルマに見えるぐらい違います。ノーマルをまずつくってからカスタムを仕上げるんですか?
いや、同時進行でつくることが大事なんです。ノーマルをベースにカスタムをつくると、どうしても取って付けた感が出てしまう。フロントの形を変えるとエンジンルームの中にも影響が出ます。中はギチギチに詰まっていますから、少し形が変わっただけでもレイアウトを変更しなくてはならない。カスタムにはシーケンシャルターン(流れるウインカー)を入れたかったので、初めからそれを考慮してデザインを進めました。
――N-BOX+はN-BOXの中に吸収されるようですが、N-ONE、N-WGN、「N-BOXスラッシュ」のデザインも一緒に進めていたんですか?
さすがにデザインは無理ですが、企画は同時にやっています。ただ、スラッシュは……設定しない予定なんです。あのインテリアのセンスはほかのモデルに取り込んでいこうと思っています。
一般ユーザーは「リッター20kmなら全然オッケー」
――先代モデルもそうでしたが、燃費スペックの競争には加わらないというスタンスのように見えます。
地方に行って20代前半の女性ユーザーに話を聞いたんです。ちょっと驚いたんですが、そもそも自分のクルマの燃費なんて知らない。軽だから、リッター20kmは超えているよね、というざっくりした感じなんです。20kmなら全然オッケー、というのが一般ユーザーの感覚でしょう。
――自然吸気(NA)だとついベタ踏みにしてしまうので、フルスロットルにする機会の少ないターボのほうがむしろ燃費が良くなったりしませんか?
一般のお客さまは、さすがにNAとターボで燃費が逆転することはないと思いますよ。ただ、今回はターボの燃費がすごく伸びたんですね。実用燃費としてはかなり差が詰まっていますから、高速道路メインならばターボのほうが低燃費になるケースもあるかもしれません。
――エンジンはNAとターボ、エクステリアデザインはノーマルとカスタム、シートがベンチとスーパースライド。この組み合わせだけでも8通りあって、ボディーカラーは2トーンまであって選択に迷ってしまいそうです。
ほかに「北欧スタイルセレクション」などもご用意してあります(笑)。選択肢は多いほうがいいですから。N-BOXの場合はターボが上級バージョンという位置づけで、15万円ほど高いんですが上級装備はもれなく付いてきます。デザインに関しては、北関東ではやはりカスタムに人気がありますね。逆に目立ちたくないというお客さまはノーマルを選ばれますので、地域差はあるようです。
――白土さんのパーソナルチョイスはどういう仕様になりますか?
うーん……。ノーマルとカスタムと両方いいところがあるんですけど、私はノーマルのNAでスーパースライドシート。色はやっぱり訴求色の「モーニングミストブルー・メタリック」がいいですかね。それがN-BOXの世界観に合うでしょうね。
少子化問題に立ち向かうクルマ
――シビックが久々に日本で販売されるということで、ホンダらしいクルマが戻ってくると話題になっています。現実にはミニバンのホンダ、軽のホンダという状況ですが……。
両立するの? と皆さんおっしゃいますが、私にすればどちらも移動する喜びというのは変わらないと思うんですね。どういう手法で移動するかが違うだけで。N-BOXは室内が広く、家族で楽しく過ごしながら移動するクルマ。シビックには楽しく走る喜びがあります。
――ホンダらしさは走りだけにあるのではないと。
ホンダの社風は根が真面目というか、コンセプトに忠実なんですよ。世界一の走りを目指すと言われたら、値段の高いチタンを使ってでも究極を追求する。N-BOXにしても、「次世代ファミリーカーのスタンダードを狙う」というテーマを決めたらとことんこだわってつくるわけです。トップダウンではなく、自主独立で現場発のクルマづくりをするのがホンダらしさだと思います。会社が決めた戦略に乗って開発するわけではないので、プラットフォームをつくっても次にすぐ変えちゃったりするようなことが起きる。今回も、それに近いですね(笑)。
――技術説明会で、ターゲットはママさんユーザーだという話をされていましたね。「子育てママを楽に、楽しく」というのは、少子化問題に立ち向かうというメッセージでしょうか?
本当に、それですよ! このままで日本は大丈夫なのかと、心配になりますよね。
――スーパースライドシートの説明で、シートを後ろにずらせば助手席から後席の子供の世話ができて、子供を寝かしつけたら席を前に戻してパパとママが仲良く、というお話もありました。もう1人子供をつくるのを後押しするという意図があるんですか?
そういう狙いもあります(笑)。席がもう1つ空いてますから。
――ホンダにはかつて「恋愛仕様。」をうたった「S-MX」がありました。「フリード+」には後席と荷室をつないでセミダブルベッドとして使う機能がありますね。子育て支援のクルマをつくるのがホンダの伝統、ホンダらしさのような……。
言われてみれば、そうかもしれません(笑)。
根が真面目だから、コンセプトに忠実につくってしまう。N-BOXは、ホンダらしさが詰まったクルマなのだ。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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