第64回:水漏れもドラマチック
2017.10.24 カーマニア人間国宝への道まさかの水漏れ
赤い玉号こと「328GTS」に、新型のキダスペシャル製マフラーを装着し、その出来に150%マンゾク倶楽部。意気揚々と引き上げようとした時に目に入ったもの。それは、車体の下からポタポタポタポタと、かなりの勢いで漏れている液体だった。
触ってみると、サラサラしていて水っぽい。色も緑っぽいので、クーラントと見て間違いない。
水漏れも、「ポタッ、ポタッ」くらいならまぁ大丈夫かなって感じだが、「ポタポタポタポタ」だと、あまり走りたくない感じになる。そして今回の漏れ方は、あまり走りたくない部類のものだった。
岡田ピー「どっかホースが緩んだのかなぁ……。つってもそんなの、僕じゃ直せないし」
私「このまま自宅に戻っても、そっから動かせなくなりそうだし、このまま走るなら、せめて尾上ちゃんとこへ向かうのがよくない?」
岡田ピー「うーん、それしかないですねぇ」
ということで、我々は赤い玉号と激安オペル(岡田ピー自家用車)の2台で新小金井街道をひた走り、尾上サービスに向かうことにした。
距離は約30km。1.5リッターの水入りペットボトルを積み、なんとか持ってくれることを祈りつつの出発だ。
赤い玉号の運転は、自分でするのは怖いので、岡田ピーにまかせることにした。どーもスイマセン。
サウンドは素晴らしい
多摩地区の道路事情は劣悪だ。道路自体も貧しいが、信号制御が各駅停車。平均速度は20km/h程度にとどまる。冷却水が漏れてるフェラーリでこんなところを走るのは、拷問以外の何物でもない。つっても自分はその後方の激安オペルに乗っているのだが、後ろから見ているだけで実にツライ。
が、しばらく走ると、水漏れが確認できなくなった。
これはひょっとして、ラテン車特有の自然治癒ってヤツか!?
信号待ちのすきにオペルを降り、赤い玉号のオシリ間近で確認しても、漏れてな~い!
私「水漏れ止まったみたいだよ!」
岡田ピー「マ、マジすか!?」
水漏れが止まったのをいいことに、途中で運転を交代した。
うーん、このサウンド、素晴らしいなぁ! 特に素晴らしいのはサイレントモードだ。この適度な音量、一般道を走るのに実にちょうどいい。アイドリングではほとんどノーマルと変わらないのもステキ。
こんな落ち着いたことを思うようになったのも、私が年を取った証左ではありますが、光陰矢の如し。フェラーリに乗り始めてすでに24年もたつのですから、年相応に落ち着くのも仕方ないであります。
ただ、相変わらずハンドルはメチャ軽く、ステアリングインフォメーションはほぼ皆無。コーナリングは常に手探りなので、正直、そこらのファミリーカーについていくのもスリリングだ。
これで一件落着か!?
実はこの後赤い玉号は、懸案のアライメント調整を行うことになっていた。お願いするのは、アリアガレージ工場長の平澤雅信氏である。
平澤氏は、フェラーリファン話題の書『跳ね馬を2000台直したメカによる フェラーリ・メカニカル・バイブル』を出版された方である。謎に包まれたフェラーリのメカニズムの実態を、ここまで赤裸々に描いた書は初めてだ。
その著者インタビューを行った際、自分の328のステアリングが異常に軽い話をしたところ、「それじゃウチで」ということになったのでした。
しかし今はそれどころではない。なにしろ冷却水が漏れているのだ! いや、正確にいうと今は止まっているが、さっきはかなり漏れていた。アライメント調整なんつーゼイタクは後回しで、2台は尾上サービスへと急いだ。
多摩地区の一般道を尺取り虫のように走ること1時間強。赤い玉号はようやく目的地に到着した。
私「どう? 途中で自然に止まったんだけど」
尾上メカ「……ここだね。このホースの継ぎ目から漏れた跡がある。走ってる途中は、熱膨張で一時的に止まったんじゃないかな」
私「なるほど~! じゃホースバンド交換すれば直る?」
尾上メカ「だといいけどね」
尾上メカは、電動カッターで金属製のホースバンドをブッタ切って交換した。
これで一件落着かと思った時、彼が思わぬ声を上げたのであった。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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