【F1 2017 続報】第17戦アメリカGP「タイトルにまた一歩近づく」
2017.10.23 自動車ニュース![]() |
2017年10月22日、アメリカはテキサス州オースティンのサーキット・オブ・ジ・アメリカズで行われたF1世界選手権第17戦アメリカGP。フェラーリの相次ぐ「自滅」により大差がついたチャンピオン争いは、タイトル獲得まで秒読みとなったルイス・ハミルトンが得意とするアメリカにやってきた。
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残り4戦、埋めがたいギャップ
2017年シーズンもアメリカ、メキシコ、ブラジルのアメリカ大陸シリーズと、最終戦アブダビGPの4戦を残すのみとなった。
開幕戦オーストラリアGPでセバスチャン・ベッテルが劇的な勝利を飾ってから続いてきたフェラーリとメルセデス、そしてベッテルとルイス・ハミルトンの2強対決は、8月の夏休みを境に様相がガラリと変わってしまった。
7月末の第11戦ハンガリーGPまでの戦績を振り返ると、初戦からドライバーズランキング首位を守ってきたベッテルが4勝、ハミルトンも4勝と互角。高速シルバーストーンでの第10戦イギリスGPでハミルトンが圧勝したかと思えば、続くツイスティーなハンガリーでの戦いではベッテルが勝利と一進一退が続き、2人のポイント差は付かず離れずの14点で8月の夏休みに突入した。
しかし秋が深まるとそんな熱戦もすっかり冷え込み、前戦日本GPを終えるとハミルトンが59点ものリードを築きワンサイドゲームと化した。第14戦シンガポールGPでのスタート直後の衝突、第15戦マレーシアGPと、続く日本GPでのメカニカルトラブルと、フェラーリが自滅を重ねていったアジアにおける3戦でベッテルが獲得したポイントはマレーシアでの4位=12点だけ。一方のハミルトンは2勝+2位=68点も追加し、両者の間には埋めがたいギャップができあがった。
レッドブルで4年連続チャンピオンとなったベッテルは、過去2回、圧倒的に不利な状況から逆転して年間王者になったことがある。ランキング3位で迎えた2010年最終戦ではフェルナンド・アロンソらを下し初戴冠。2012年の最終戦ではレース中に最後尾に落ちるも挽回、ここでもアロンソを負かし3度目の栄冠を手にした(当時アロンソが在籍していたのがフェラーリだったということは、なかなか興味深い事実である)。
逆転の名手ベッテルといえども、残り4戦をすべて勝っても100点しか獲得できない状況で59点をひっくり返すことは極めて困難と言わざるを得ない。シーズン後半にきて絶好調、今季これまでの勝率50%を誇るハミルトンが相手となればなおさらである。
2012年からテキサスのサーキット・オブ・ジ・アメリカズ(通称COTA)で開かれているアメリカGPで過去最多の4勝を挙げているのがハミルトンだ。今年もハミルトンが優勝し、ベッテルが6位以下で終われば、ハミルトンは4度目のタイトルを手中に収めることができる状況だった。さらにメルセデスはコンストラクターズチャンピオンにも王手をかけていた。
「品質管理の問題」など、フェラーリを指揮するセルジオ・マルキオンネ会長兼CEOのチーム批判ともとれる歯に衣(きぬ)着せぬ発言は、特にイタリアメディアの格好の餌となる。メディアはチームを追い詰め、チームは犯人探しに躍起になる……そんな歴史を繰り返してきた最古参チーム、そしてそのエースドライバーに残された道は、外の騒ぎに惑わされず、1戦1戦で最良の結果を出すことしかない。来シーズンを見据えたチームの立て直しのためにも、アメリカGPではミスは許されなかった。
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ハミルトン、フリー走行から予選まで全セッション最速
2015年にはここCOTAでチャンピオンを決めたこともあるハミルトンが、3回のフリー走行に加えて予選Q1、Q2とすべてでトップタイムを記録。トップ10グリッドを決めるQ3でも盤石の安定した速さを堅持し、今季11回目、通算72回目のポール獲得に成功した。
この週末、メルセデスの陰に隠れがちだったフェラーリも予選では奮起し、ベッテルが最後のアタックで0.239秒差の2位。バルテリ・ボッタスは3位となり、メルセデスのフロントロー独占はならなかった。レッドブルのダニエル・リカルド4位、まったくの同タイムでフェラーリのキミ・ライコネンは5位だった。
マックス・フェルスタッペンのレッドブルは6番手タイムながらパワーユニット交換で16番グリッドに降格。代わってフォースインディアのエステバン・オコンが6番グリッドにつけた。このレースからルノーをドライブすることになったカルロス・サインツJr.はチーム加入早々に7番グリッドと好位置を獲得。その後ろにマクラーレンのフェルナンド・アロンソ、フォースインディアのセルジオ・ペレスが続き、トップ10最後のグリッドにはウィリアムズのフェリッペ・マッサがつけた。
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スタートでベッテルがトップに
晴れ渡った空の下、56周の決勝レースがスタート。急坂を駆け上がって左に曲がる、COTAの特徴的なターン1にトップで入ったのは、蹴り出しの良かったベッテルだった。ポールシッターのハミルトンは2位、3位はボッタス、4位リカルド、そして5位にはオコンが上がったものの、程なくしてライコネンがそのポジションを取り戻した。
赤いマシンが先頭を走るという、シーズン後半になってなかなか見られなかった状況は、しかし長続きしなかった。6周目、ハミルトンが満を持してヘアピンのインに飛び込み首位を奪い返すと、前方がクリアになったメルセデスはじわじわと差を広げはじめ、10周を過ぎる頃には3秒、15周で4秒リードすることになった。
ペースが伸び悩んでいた3位ボッタスの後ろにリカルドが迫るも、やがてレッドブルが遅れはじめた。リカルドは13周目にウルトラソフトタイヤからスーパーソフトに履き替え、ファステストラップを更新し挽回を図っていたのだが、3周後にマシントラブルでストップ、戦列を去ることになった。
17周目、フェラーリはベッテルをピットに呼び、ウルトラソフトからソフトタイヤに交換。20周目にハミルトンがピットストップを済ますと両車の差は1秒台に縮まっていたものの、ハミルトンは再びリードを広げはじめるのであった。
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最終ラップでフェルスタッペン3位、しかし……
最初のタイヤ交換が一巡しての上位の顔ぶれは、1位ハミルトン、2位ベッテル、3位ボッタス、4位ライコネン、5位フェルスタッペン。トップのハミルトンは5秒以上のタイムをキープし、その後方のベッテルからフェルスタッペンまでの間隔は詰まり気味になった。
この膠着(こうちゃく)を破ったのはレッドブルだった。38周目にフェルスタッペンを再びピットへと呼び、速いスーパーソフトタイヤを装着して5位のままコースに復帰させた。そして翌周、この動きに2位のベッテルもならい、4位から局面の打開を図った。
42周目、ライコネンが同郷のボッタスを抜き2位へ上がると、3位に落ちたボッタスにベッテルがひたひたと迫った。10秒の差は残り10周で5秒を切り、やがてDRS圏内の1秒内に接近。残り5周でついにベッテルは3位の座を仕留めた。すかさずフェラーリはライコネンに「後ろはベッテルだ」と無線で伝え、その意味を理解したライコネンは、ターン1でチームメイトに2位のポジションを譲った。
ゴール目前、ベッテル、ライコネンのフェラーリ2-3フィニッシュに待ったをかけたのが元気いっぱいのフェルスタッペンだった。周回を重ねたソフトタイヤを履く3位ライコネンに、フレッシュなスーパーソフトを武器にしたフェルスタッペンが食らいつく。ファイナルラップに「あと1チャンスだぞ」と無線でけしかけられた20歳のフライング・ダッチは、ストレートエンドで抜けずとも諦めず、コーナーでライコネンをオーバーテイクすることに成功。大歓声の中、3番手でチェッカードフラッグを受けた。しかしこの追い抜きの際、フェルスタッペンがコースをはみ出て有利なライン取りをしたとスチュワードが判定。レッドブルにはレース後に5秒加算のペナルティーが科され、ポディウムにはライコネンが上がることとなった。
こうした後方の喧騒(けんそう)も何処(どこ)吹く風、ハミルトンは2位ベッテルに10秒ものマージンを築いて完勝した。レース序盤、ベッテルから首位を取り返した時を振り返り、「ベッテルがブロックしてこなかったことに驚いた」と淡々と語るハミルトン。一方のベッテルは「われわれにはスピードがなかった」と負けを認めるコメントを残した。
どことなく予定調和的な雰囲気も、2人のポイント差を見れば理解できるというもの。ハミルトンはポイントリードを59点から66点に拡大。タイトルは次戦以降におあずけとなったが、栄冠にまた一歩近づいたことには違いがないのだ。
ここアメリカで4年連続となるコンストラクターズタイトルを手中に収めたメルセデスのトロフィーケースに、もうひとつ杯が加わるのも時間の問題である。
次戦メキシコGPは、1週間後の10月29日に決勝が行われる。
(文=bg)