ホンダ・モンキー50周年アニバーサリー(MR/4MT)
さらば路上のシーラカンス 2017.10.28 試乗記 数多くのファンに惜しまれつつ、半世紀におよぶ歴史に幕を閉じた「ホンダ・モンキー」。試乗を通してあらためてその魅力を探るとともに、1967年の誕生以来、今日に至るまで愛されてきたホンダの小さな名車に、惜別のメッセージを贈る。50年目の引退セレモニー
「あんまり小さいんで、バイクを撮ってるんだか人を撮ってるんだかわからなくなる」
そうこぼしたのは三浦カメラマン。確かに、人がまたがると埋もれて見えなくなるのだろう。
「めちゃくちゃ怖かったです」
これはwebCGの藤沢編集部員のセリフ。オートバイに乗り慣れない上に、普通の原付きよりさらにちっちゃいヤツで交通量の多い都会を走らされたら、そりゃビビるに違いない。
「だろう」とか「違いない」とか、そういう親身な想像がたやすくできるほどに、僕らはモンキーを知っている。何しろ1967年の発売だ。街で見かける機会が少なくなっても「きっとどこかで生き続けているのだろう」と、例えば人目につかない場所でひっそり暮らす、シーラカンスのように思ってきた。
ところが、生誕50周年に当たる今年(2017年)の8月。ついに生産中止となった。それを記念して――いや、記念しているのは生産中止ではなく生誕50周年のほうだけど――特別仕様車が次々にリリースされた。今回試乗したのは、2月末発売の「モンキー50周年アニバーサリー」。これに続いて、7月には500台限定の「モンキー50周年スペシャル」が登場している。この最後の年の盛り上げ方は、まるで人気アスリートの引退セレモニーだ。
もはや“原付き”は絶滅の運命?
モンキーが生産中止に追い込まれた最大の理由は、主に排ガスを軸にした規制強化だ。2016年10月から適用されたEU発のユーロ4と、それに準じる国内レギュレーションの平成28年排出ガス規制。そのいずれにも、モンキーは適応しない。というか、数多くの国産市販車もクリアできず生産中止を迎える。それがどれほどの数量なのか、各社のホームページで数えようかと思ったけれど、あまりに多くて諦めたほどの多さなのである。
とはいえ、メイド・イン・ジャパンの技術力をもってすれば幾多の規制を乗り越えられるはずだ。現に、モンキーはとうの昔にキャブレターを捨て、ホンダ式の電子制御燃料噴射装置PGM-FIに改めて延命を図ってきた。
しかし現実的には、より厳しくなった新規制に対応させるだけのコストを払ってまで、既存車種を生産し続ける意味はないのだろう。それよりは、一時的にラインナップが減ったとしても新規制をクリアする魅力的なニューモデルを開発したほうが得策ではないのか? 今回の規制による“リストラ”に怒りを覚えている二輪ファンには申し訳ないけれど、自分が経営者だったらその判断を疑わない。
ひとつ気がかりなのは、緩くなるはずがない現状以降の規制において、内燃機関の“原付き”は存続困難に陥るらしいことだ。元から排気量区分や免許制度的にドメスティックな存在だったが、それもグローバル化の波に洗い流される。そうしてモンキーは絶滅する。こう書くと秋の終わりの浜辺みたいな寂しさが募るが、それも宿命なのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
浅はかにも“保護施設”に期待してみる
そうかと思えば、2016年3月に開催されたバンコクモーターショーでは、現地名「MSX125」、日本名「グロム」をベースにした「モンキー コンセプト」が発表されていた。その排気量は125cc。ということは、何回りも大きくなって復活を果たすのか? もしそうなったら、少なくとも三浦カメラマンは人車一体感を高めた写真が撮れるに違いない。あるいは藤沢編集部員も路肩であおられる恐怖から救われるかもしれない。いいことずくめじゃないか。
いやいや、人間そんなに割り切れるものじゃない。原付きだからこそのモンキーという郷愁を捨て去るのは難しいだろう。
では、どうするか? どこかのお金持ちが広大な私有地を「モンキーセンター」にしてくれることに期待しよう。現状どれほどのモンキーが市場に残存しているか不明だが、その多くを買い込み、園内を自由に走れるようにする。もはや公道を走るにはパフォーマンス不足が否めないから、そういう利用の仕方が望ましい。
そもそも論で言えば、モンキーは1961年に東京都日野市でオープンした遊園地、多摩テック内の遊具だった「Z100」が元祖なのだ。だから再びクローズドの場所に戻すのは先祖返りとして正しい。生きた化石と呼ばれるシーラカンスを生体保存させるみたいに。
でも、多摩テックは2009年に閉園したんだよな。再びそもそも論を持ち出せば、どこかの金持ちに期待すること自体が浅はかだよなあ。なんて書くと、寂しさにむなしさが絡まって真冬の九十九里浜を見るような思いが募る。
さらばモンキー、路上のシーラカンス。最後に新車にまたがれてよかった。規制がどうあれ当分は公道走行を許されるはずだから、どこかで出会ったら、今度こそ他人任せにしない生体保存の約束を交わそう。
(文=田村十七男/写真=三浦孝明/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1365×600×850mm
ホイールベース:895mm
シート高:660mm
重量:68kg
エンジン:49cc空冷4ストローク単気筒OHC 2バルブ
最高出力:3.4ps(2.5kW)/8500rpm
最大トルク:3.4Nm(0.35kgm)/5000rpm
トランスミッション:4段MT
燃費:100.0km/リッター(国土交通省届出値 定地燃費値<30km/h>)
価格:35万2080円

田村 十七男
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。
















































