第457回:江戸・明治の町並み残る内子に幻のレストランが出現!
「DINING OUT UCHIKO with LEXUS」でアメージング体験
2017.11.15
エディターから一言
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食を通じて地方の持つ魅力を再発見する野外イベント「DINING OUT(ダイニングアウト)」の第12弾が2017年10月28~29日に愛媛県の内子町で開催された。2日間だけ現れた幻のレストランに記者が参加、その様子をリポートする。
江戸・明治のにぎわいを今に伝える町
内子という町をご存じだろうか。
愛媛県のほぼ中央部に位置し、県庁所在地の松山からは約40km、クルマで約40分の場所にある。町の中心部を小田川が流れる緑ゆたかな町だ。
江戸から明治にかけては、木蝋(もくろう)生産の中心地として栄えた。中でも、八日市・護国地区は当時の面影が色濃く残る場所。鏝絵(こてえ)や懸魚(げぎょ)、鬼瓦をあしらった、重要文化財の本芳我家(ほんはがけ)住宅を中心に、しっくい塗り籠やなまこ壁を特徴とした、瓦屋根の建物が立ち並んでいる。
本芳我家住宅と同様、重要文化財で、町のシンボルともいえるのが内子座だ。大正5年(1916年)に、商家のだんな衆によって建てられた劇場で、木造2階建ての瓦葺(ぶ)き入り母屋作り、回り舞台や花道、升席などを整えている。現在の建物は昭和60年に復元されたもので、創建から100年たった今もなお現役の芝居小屋として営業を続けている。
足を踏み入れると、タイムスリップしたような感覚に陥った。博物館として保管されているのではなく、今も現役で活躍しているからこそ感じられる、建物の息遣いが伝わってくる。
今回のダイニングアウトは、そんな華やかなりし過去を今に伝える町、内子が舞台。町並み保存地区のメインストリートを2日間封鎖しての開催となった。
爽やかな柑橘の風吹き抜けるコース料理
開催2日目となった2017年10月29日、数日前に南の海上で発生した台風22号が四国地方から近畿地方へと進路を変えながら北上していた。東京も朝から雨。羽田空港では、予定していた便の行き先が松山空港から大阪・伊丹空港に変更される可能性もある、というアナウンスが流れた。
もしかしたら、たどり着けないかもしれない。
そんな不安と隣り合わせで始まった、今回のダイニングアウト。だが、幸運なことに飛行機は無事松山空港に着陸し、イベントが始まる頃には、澄み切った夜空に、半月が煌々(こうこう)と照らすまでになっていた。1日目はテントを張って雨の中開催したと聞いていたが、2日目は、直前にテントを撤収してのスタートだ。
参加日によって、まったく違った雰囲気を味わえるのも、幻の野外レストラン・ダイニングアウトならではの醍醐味(だいごみ)。
料理を担当するのは高田裕介シェフ。大阪のフレンチレストラン「ラ・シーム」のオーナーシェフだ。
今回の料理をひとことで表現するならば、爽やかな柑橘(かんきつ)の風吹き抜けるコース料理。特産物である柑橘類をほのかに香らせながら、シェフ自身の持つ生来の温かさや繊細さを感じさせる料理がテーブルに並んだ。その一皿ひとさらは、お世辞ではなくどれをとっても、「おかわりしたい!」と思うほどおいしかった。
とりわけ、一品目は内子ならではのサプライズに富んでいた。
プレートには、くびれが特徴的な柑橘類の葉がこんもり。そして、水に浮かべられた丸いろうそくが一つ。
ん? コレはなに?
葉をよけて、箸で確かめる。どうやら、緑色をした、ねばりけのあるあえ物のようだ。
説明によれば、料理を覆っていたのは、じゃばらと呼ばれる柑橘類の葉。隠れていたのは、軽く昆布締めしたマダイに甘辛唐辛子と刻んだオクラをあえたものだという。オクラのネバネバとマダイのクニュッとした食感がいい。
一方、ろうそくは……というと、中にドレッシングが入っているという。火が消えたあと、少し温かくなったろうを剥がしてみると、中からゼリー状のドレッシングがプルンと出てきた。これを崩してタイのあえ物と一緒にいただく。すると、柚子にも似たじゃばらの爽やかな香りと酸味が口の中に広がった。
なんとも内子らしい演出!
特産品であるじゃばらの葉や木蝋にちなんだ驚きのプレゼンテーションには、高田シェフの遊び心が詰まっていた。
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内子の持つインテリジェンスとは
内子という町をご存じだろうか。
そう冒頭に問いかけたが、私自身、内子を訪れたのは今回が初めてだ。しかも、その地名すら初めて耳にするものだった。
ところが、訪れてみて「こんなに素晴らしい場所がまだ日本にもあるんだ」とハッとさせられた。
もちろん、整然と続く美しい町並みそのものに胸を打たれた部分もある。江戸後期の建物でありながら、ここまで見事に保存するには、かなり手をかけていることが容易に推察できるからだ。が、それだけではない。
保存に踏み切るまでの道のりはきっと平たんではなかったはずだ。古い町並みを残し、そこで暮らし続けるには、住民たちの我慢と引き換えの部分も多い。暮らしやすさを優先して、まったく新しい形のものに建て替えるという選択肢だってあっただろう。
それでも、内子の人たちは、古いものを大切にしながら生きていくと決めた。その決意にインテリジェンスを感じる。保存のために立ち上がった人たちの心意気に頭が下がるのだ。
会場となった本町通り沿いには内子中学校がある。準備中の会場を訪れると、ちょうど生徒たちの下校時間と重なった。
制服姿の列のあちこちから「こんにちは~!」というあいさつが聞こえ、こちらも慌てて笑顔で応えた。内子の子どもたちにとっては、観光客へのあいさつが習慣になっているようだ。
ひとりの女子生徒が声を掛けてきた。町の印象を聞かれ、「ステキなところですね」と答えると、「私たちはいつも見てる風景だから、なんとも思わないんですよ。やっぱり都会の雰囲気に憧れますね」と笑った。
彼女にとってこの町並みは、なんの変哲もない日常の風景かもしれない。でも、いつしかこの町で暮らしたことを誇りに思えるときが来るのではないか。
日本には知られざる“内子”がたくさんある
翌日、「レクサスGS」で空港へ向かう道すがら、松山の中心街にある「秋山兄弟生誕地」を訪れた。秋山兄弟とは、俳人・正岡子規とともに、司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』のモデルとなった兄・秋山好古(よしふる)と弟・眞之(さねゆき)のことだ。好古は日清・日露戦争で活躍し、のちに陸軍大将となった人物、眞之は日露戦争で連合艦隊先任参謀として作戦を立案。日本海海戦でバルチック艦隊を撃滅して日本の危機を救い、のちに海軍中将となった人物である。子規とは松山中学校以来の親友だった。
小説に触れたときから不思議に思っていたことがある。なぜ、愛媛ではこのように秀でた人物をそろって輩出できたのか。何かこの土地ならではの特別な教えや心がけがあったのではないか。そんな疑問を年配の女性説明員の方に投げかけると、こんな答えが返ってきた。
「それは愛媛だけに限ったことではなく、そういう場所は日本のどこにでもあったのだろうと思います。秋山兄弟が知られるようになったのも、司馬先生が子規について調べているうちに、たまたま彼らとの関係性を知り、スポットライトを当てたからと言われています」
“日本のどこにでもある”
多分に謙遜を含んでいるとは思いつつも、目からウロコが落ちる思いがした。
再び話を内子に戻そう。
中学生が道行く観光客にあいさつをする、そんなささいな習慣が都会暮らしに慣れた人間にとってはとても新鮮に映った。町のカフェでは、銀髪のオーナーが腰を90度に曲げ、客の去り際に丁寧にお辞儀をする。竹細工を扱う店では、職人が忙しく手を動かしながらも、竹の性質の話などをしながら、笑顔で対応する……。
町の魅力を保ち続けるには、ただ古いものを修復して残せばいい、というものではない。そこで生きる人たちの、日ごろ身につけた礼儀正しさや寛容さ、つまり、人びとの持つインテリジェンスがあってこそ、その町の魅力につながっていくと思うのだ。内子には、そんな美点が詰まっていた。
日本にはまだその魅力をよく知られていない、“内子”がたくさんあるはず。
ダイニングアウトであらためて日本の底力に気づかされた。
(文=スーザン史子)

スーザン史子
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