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BMW M5(4WD/8AT)

6代目は原点回帰 2017.12.25 試乗記 渡辺 敏史 30年を超える歴史を持つハイパフォーマンスセダン「BMW M5」が、6代目にモデルチェンジ。600psのV8ツインターボエンジンに、新採用の8段AT、そしてモデル史上初の4WDシステムと、話題満載の新型の実力を試した。

4WD化の背景に見る事情

M5はG30系の現行「5シリーズ」をベースに生まれたこのモデルで6代目。M社が主導的に手がけてきたプロダクションモデルの中では、ゼロベースで生まれた「M1」を除けば、「M3」と並んで最古参に近い存在となる。

かれこれ30年以上にわたるその歴史の中で、この新型はかつてなく大きな変貌を遂げたモデルとして記憶されることになるはずだ。が、ともすればそれは否定的な捉えられ方をされることになるかもしれない。

その最大の焦点となるのは、Mを冠するモデルの中でも最も高い純度が期待されるカテゴリーにあって、初めて「xDrive」すなわち四駆を採用したことだろう。これは止まらないエンジン出力の向上に対応する手だてでもあるし、米国を筆頭とする主要マーケットのユーザーの要望でもある。くしくも最大のライバルであるメルセデスAMGの「E63」ばかりか、感性的な性能を最も重んじるアルピナの「B5」さえ四駆を選択したとあれば、M5もFRに縛られる理由はないと判断したのだろう。が、そのドライブトレイン制御の選択肢の中には、ひそかに0:100の後輪駆動固定モードが盛り込まれていたりもするなど、原理主義的なユーザーへの配慮も抜かりはない。

高出力エンジンを搭載した「5シリーズ」のハイパフォーマンスモデルとして、1984年に誕生した「M5」。今回の新型は6代目のモデルにあたる。
高出力エンジンを搭載した「5シリーズ」のハイパフォーマンスモデルとして、1984年に誕生した「M5」。今回の新型は6代目のモデルにあたる。拡大
専用デザインにアレンジされたセンターディスプレイなど、各所に「M5」専用の装備が採用されたインテリア。装飾にはカーボンパターンのアルミニウムトリムが用いられている。
専用デザインにアレンジされたセンターディスプレイなど、各所に「M5」専用の装備が採用されたインテリア。装飾にはカーボンパターンのアルミニウムトリムが用いられている。拡大
専用デザインの前後バンパーや大きく張り出したフェンダー、「Mギル」と呼ばれるエアアウトレットなどにより、ひと目で標準車との見分けがつくエクステリア。軽量化のため、ボンネットやフロントサイドパネルにはアルミが、ルーフにはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)が用いられている。
専用デザインの前後バンパーや大きく張り出したフェンダー、「Mギル」と呼ばれるエアアウトレットなどにより、ひと目で標準車との見分けがつくエクステリア。軽量化のため、ボンネットやフロントサイドパネルにはアルミが、ルーフにはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)が用いられている。拡大
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二面性も大きな魅力のひとつ

エンジンは先代も搭載する4.4リッターのV8直噴ツインターボで、ターボチャージャーをVバンク間に収めるホットVレイアウトを採る。もちろん中身は最新世代へとバージョンアップされており、その出力は先代より40ps向上の600ps、トルクは70Nm向上の750Nmを発生。組み合わせられるトランスミッションは先代の7段デュアルクラッチ式からZFの8段ATをベースに専用の強化と調律を施した8段「Mステップトロニック」となる。いわゆるトルコン式ということでこれも軟化要素としてコアなユーザーには捉えられるかもしれないが、その総合力は3.4秒という0-100km/h加速のタイムに代表されるように、強烈としか言いようがない。最高速は例によってメルセデスとの紳士協定によるリミッターが働くが、それがなければ軽く300km/hオーバー、ことによると320km/h超というアルピナB5に限りなく近いところをマークしてくるかもしれない。こうなると、ライバルとしてベントレーの名も浮かんでくることになる。

この圧倒的なパフォーマンスを懐にしまっておく上で有効に機能してくれそうなのが、基準車である5シリーズと同等の多彩かつ精緻なADAS(先進運転支援システム)系装備だ。つまり新型M5では、急ぐ理由もない日々のドライブでは最先端のイージードライブも楽しめるという二面性も大きな売りとなっている。これまでピュアネスを重視して、こういった付加物の装着に消極的だったMにしては、これも大きな変貌ぶりと捉えられるだろう。

エンジンは従来モデルの4.4リッターV8ツインターボに改良を加えたもの。新開発のターボチャージャーや最大噴射圧を350barへ引き上げたインジェクターの採用などにより、燃焼効率を高め、スロットルレスポンスを向上させている。
エンジンは従来モデルの4.4リッターV8ツインターボに改良を加えたもの。新開発のターボチャージャーや最大噴射圧を350barへ引き上げたインジェクターの採用などにより、燃焼効率を高め、スロットルレスポンスを向上させている。拡大
トランスミッションはトルコン式の8段AT。変速プログラムには3つのモードが用意されており、最もスポーティーなモードでは複数のギアを飛び越えたシフトダウンが可能なほか、レブリミットに達しても自動でシフトアップしなくなる。
トランスミッションはトルコン式の8段AT。変速プログラムには3つのモードが用意されており、最もスポーティーなモードでは複数のギアを飛び越えたシフトダウンが可能なほか、レブリミットに達しても自動でシフトアップしなくなる。拡大
0-100km/h加速は3.4秒という動力性能を実現している新型「M5」。最高速についてはリミッターにより、標準仕様では250km/h、「Mドライバーズパッケージ」装着車では305km/hに抑えられている。
0-100km/h加速は3.4秒という動力性能を実現している新型「M5」。最高速についてはリミッターにより、標準仕様では250km/h、「Mドライバーズパッケージ」装着車では305km/hに抑えられている。拡大

従来モデルとは一線を画すドライブフィール

掲げられた性能数値はがっつりはじけてはいるものの、四駆、トルコンAT、ADAS……と、新型にまつわるこれらのトピックスは、先代よりさらにキレた走りを予感させるエレメントとはいえない。果たしてどんなクルマなんだ……とサーキットを走らせてみると、何よりその確かな応答性に驚かされた。コーナリングに電子制御LSDなどの差動および駆動配分からくる不自然なゲインは一切なく、かといって鼻先のマスを助長するような四駆的アンダーステアも感じさせず、連続するタイトターンもサラサラとニュートラルにクリアしていく。

駆動配分制御が4WDスポーツであれば、そこからアクセルを踏み込んでいくことで積極的にオーバーステアを駆使することができるが、その際の挙動にも唐突感はなく、サスペンションの設定が最もハードな「スポーツプラス」であっても、車体の姿勢変化がグリップ状況をきれいに伝えてくれるなど、その軽さと密度の絶妙なバランスぶりは、これまでのM5のイメージとは一線を画し、M3的な爽やかさに近い感覚を覚えるほどだ。前後異寸でありながらその幅差が10mmとほぼ変わらぬフットプリントを持つタイヤサイズの選定にも、このリニアさとすっきり感を両立したハンドリングの秘密が隠れているのだろう。

シャシーについては、ニュートラルなセルフステア特性を実現することを重視して各部をチューニング。ボディーと足まわりの連結剛性を高めるための補強も施している。
シャシーについては、ニュートラルなセルフステア特性を実現することを重視して各部をチューニング。ボディーと足まわりの連結剛性を高めるための補強も施している。拡大
新型「M5」には座面の深さやバックレスト幅などを調整できる「Mスポーツシート」に加え、オプションでバケットタイプの「Mマルチファンクションシート」も用意されている。
新型「M5」には座面の深さやバックレスト幅などを調整できる「Mスポーツシート」に加え、オプションでバケットタイプの「Mマルチファンクションシート」も用意されている。拡大
標準仕様のタイヤサイズは、前が275/40R19、後ろが285/40R19。テスト車にはオプションで用意される、20インチサイズのタイヤが装着されていた。
標準仕様のタイヤサイズは、前が275/40R19、後ろが285/40R19。テスト車にはオプションで用意される、20インチサイズのタイヤが装着されていた。拡大

かつての姿を取り戻した

絶対的なスタビリティーよりも操舵応答の気持ち良さを重視するなら、ステアリングフィールの清涼感が高まる後輪駆動モードをあえて選ぶ手もあるが、公道のワインディングロードでそれを試してみても、そうやすやすとパワーがタイヤから発散されることはなかった。何せ600psゆえ過信は禁物だが、後輪側のメカニカルグリップは相当なところが確保されているようだ。

そして公道でのM5は、唐突感のないスロットルやブレーキの初期応答、トルコンATの滑らかさなど、街中で静かに緩やかに走らせるうえでストレスのたまらないマナーをしっかり身につけてもいる。中でも特筆すべきは乗り心地の良さで、これは直近で乗った「540i Mスポーツ」あたりと比べても遜色がないほどに洗練されているといっていいだろう。

思えば、M5は年ごとに増えゆくライバルの中で、腕力志向の突出したスポーティネスを個性としてプレゼンスを保ってきた。そのピークはE39やE60の時代だったかもしれない。が、それ以前のE28やE34の時代は、速さよりも気持ち良さを立ててスポーティネスを表現し、それを一定のラグジュアリー性と両立していた。新しいM5は、身の毛もよだつ火力を備えつつ、その立ち位置を先祖返りさせたということになるのかもしれない。ともあれ、そのダイナミックレンジの広さはかつて経験したことがないものだ。

(文=渡辺敏史/写真=BMW/編集=堀田剛資)

「M xDrive」と呼ばれる4WD機構の駆動力制御は、基本的に後輪が主体。状況に応じて駆動トルクの一部をフロントアクスルへと振り分ける仕組みで、完全な後輪駆動モードも用意されている。
「M xDrive」と呼ばれる4WD機構の駆動力制御は、基本的に後輪が主体。状況に応じて駆動トルクの一部をフロントアクスルへと振り分ける仕組みで、完全な後輪駆動モードも用意されている。拡大
4WD機構やDSC、エンジン、トランスミッション、ダンパー、ステアリングの制御は、ドライバーの好みに応じてセッティングが可能。ステアリングホイールに備わるスイッチによって、任意の組み合わせを瞬時に呼び出すことができる。
4WD機構やDSC、エンジン、トランスミッション、ダンパー、ステアリングの制御は、ドライバーの好みに応じてセッティングが可能。ステアリングホイールに備わるスイッチによって、任意の組み合わせを瞬時に呼び出すことができる。拡大
ボディーカラーは、「M5」専用色の「マリーナ・ベイ・ブルー・メタリック」や、マットカラーの「フローズン・ダーク・シルバー」など、豊富にラインナップされている。
ボディーカラーは、「M5」専用色の「マリーナ・ベイ・ブルー・メタリック」や、マットカラーの「フローズン・ダーク・シルバー」など、豊富にラインナップされている。拡大

テスト車のデータ

BMW M5

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4965×1903×1473mm
ホイールベース:2982mm
車重:1855kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:600ps(441kW)/5600-6700rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/1800-5600rpm
タイヤ:(前)275/35ZR20/(後)285/35ZR20(ピレリPゼロ)
燃費:10.5リッター/100km(約9.5km/リッター、欧州複合モード)
価格:1703万円/テスト車=--円
オプション装備:--
(価格を除き、数値はいずれも欧州仕様車のもの)

テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
 

BMW M5
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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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