第466回:ボルボの“神話”はここで磨かれる
スウェーデン・イエテボリの本社を訪問する
2017.12.28
エディターから一言
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創業以来、一貫して自動車の安全性の向上に尽力してきたボルボ。同社のセーフティーの基礎にはどのような考え方があるのだろうか。最近ボルボのもうひとつの特長となりつつあるデザイン分野と併せ、スウェーデン・イエテボリの本社で“ふたつの神話”の磨き方を聞いた。
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安全の肝は事故調査
スウェーデンを代表する乗用車メーカー、ボルボ・カーズの本拠地は、この国第2の都市イエテボリにある。スペインで行われた新型車「XC40」の国際試乗会後、この地でボルボの2つのアピールポイント、セーフティーとデザインについて説明を受けた。
セーフティーのプレゼンテーションを担当したのは、セーフティーセンターでシニアテクニカルアドバイザーを担当するヤン・イヴァソン氏。30年間安全を見続けてきたベテランで、今から10年前、「2020年までにボルボの新車で事故による死傷者を出さない」というメッセージを出した方でもある。
イヴァソン氏によれば、ボルボのセーフティーの肝となっているのは事故調査だという。調査結果をコンピューターで解析し、結果をもとにプロトタイプを作り、これをベースにして量産車を開発する。この作業を繰り返すことで進化をしていくと語っていた。
そのためにボルボは自前の事故調査隊を持っており、保険会社や医師などとも連携している。社員が乗る車両の一部にはモニター機器も搭載している。活動はスウェーデンが中心だが、重大事故であれば日本にもこの調査隊を送り込むそうだ。
セーフティーセンターには展示室もあり、側面衝突に遭った旧型「S60」が置いてあった。驚くことにボルボは、同じ事故状況を再現することで構造や作動をチェック。当事者にも衝突実験の現場を見てもらっている。
ここで得られたデータは数百項目に分けて分析し、ビッグデータを構築している。どういう時に事故が起こるか、新しい安全技術は効果を発揮しているかなどを知ることができる。こうした蓄積が、決して大きくはない自動車会社をセーフティーの分野で世界一としたのだろう。
セーフティーを3段階に分けて考える
ボルボはセーフティーを3段階に分けて考えている。まず普段の運転では、速度超過や車間距離不足など、ドライバーの余裕がない状況を減らすべく、アダプティブクルーズコントロールなどを導入するとともに、必要に応じて注意を促す。ドライバーが拒否反応を示すような手法は好ましくないので、スムーズに受け入れてくれるシステムを考えているそうだ。
次に危険が差し迫った場合。こちらは「シティ・セーフティ」の名で知られている、ボルボが日本で初めて導入した衝突被害軽減ブレーキが代表となる。スウェーデンと隣国ノルウェーでは、前のクルマが凍結でスリップしたことを伝える実験も行っているという。こちらについても、ドライバーが違和感なく受け入れる手法を考えている。
そして最後に、衝突したときに人体の損傷を減らす技術となる。ボルボが世界で最初に実用化した3点式シートベルトはここに含まれる。日本仕様にはまだ導入していないが、エマージェンシーコールもこの項目に該当する。
ちなみにスウェーデンでは、死亡重傷事故の原因として最も多いのは道路外への逸脱だという。長く厳しい冬がある国ならではだ。次いで正面衝突、側面衝突の順になっている。いずれも解決が難しいテーマだが、ボルボは問題解決のために研究開発を続けている。
道路外への転落事故では垂直方向の衝撃も大きいことから、無人運転車両でオフロードのクラッシュテストを行い、衝撃を和らげるシートなどを開発している。正面衝突では車両だけでなく大型動物とのアクシデントも想定して対策。「シティ・セーフティ」は現行「90シリーズ」から第2世代となり、カメラの位置を変えるなどして性能向上を図っているという。
もちろん衝突安全性の基本として、スウェーデンの高張力鋼板を使った強固なキャビンと、つぶれやすい構造にした前後のクラッシャブルゾーンは忘れてはいけない。クラッシャブルゾーンをほとんど取れない側面は、センターピラーに超高張力のボロンスチールを使用している。
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新プラットフォームがデザインを変えた
続くデザインでは、「XC60」に込められた造形の工夫について、エクステリア、インテリアの各担当者から説明を受けた。
エクステリア担当のスティーヴ・ポッター氏がまず挙げたのは、プラットフォームの一新だった。
従来のボルボはフォードグループに属していた2010年以前に開発したプラットフォームを使っており、デザイン面での制約が大きかった。これが専用設計となったことで、車体前部のオーバーハングが短く、前輪とキャビンが離れた、スポーティーでプレステージ性の高いプロポーションが実現できたそうだ。
同じプラットフォームは「XC90」にも用いている。しかしXC60はひとまわり小柄なことに加え、サイドウィンドウ後端のキックアップを明確にし、ボディーサイド下側に抉(えぐ)りを入れ、フェンダーにプレスラインを追加するなどして、車格にふさわしい躍動感を高めている。
フロントマスクも差別化を図っている。新世代ボルボのアイデンティティーであるヘッドランプ中央のトールハンマー型デイタイムランニングランプをグリルまで伸ばし、トールハンマーの高さでグリルに折れ線を付けている。これによりXC90より躍動感のある雰囲気を打ち出している。
リアゲートもXC90より立体的な造形となっており、ダイナミックさを強調。そのうえで伝統の縦長ランプは下端を水平に伸ばすことで、XC90に比べて幅の狭い車体に広がり感をプラスすることに成功している。
インテリアのここに注目
ニクラス・パルム氏が解説したインテリアデザインは、まずインパネに特徴がある。上のラインはほぼ水平なのに対し、下は上下にメリハリをつけることでセンターパネルやエアコンルーバーなどのディテールをきれいに見せることにこだわったとのこと。一方のドアトリムはひとつのラインをカーブさせることで一体感を出している。
クオリティーではメタルやウッド、レザーなど本物の素材にこだわったこと。樹脂を使う場合もメタルコートを施すことで、触れた際にひんやりした感じをもたらすようにしている。
助手席側にスウェーデンの国旗を付けたシルバーのモールは単なる飾りではなく、モールの上に張られたウッドと下側の樹脂とでは、熱による膨張率が異なる。この違いを吸収するという機能も持たせているそうだ。
シートは前後とも90シリーズと共通とすることで座り心地にこだわった。このうち後席はベースの部分はXC90用、シートは「V90」用とすることで、隙間にタブレットなどが入るスペースを設けている。細かい部分まで考え抜かれた空間なのだ。
新世代ボルボはディスプレイの使いやすさも定評がある。縦長なので地図が見やすいだけでなく、メニューの表示が明快で、スイッチが整理されていることも目につく。この部分はインフォテインメント部門と共同で進めたとのこと。これがシンプルかつクリーンな見た目に結実している。
ちなみにボルボでは新世代の「90/60/40シリーズ」について、革靴/スエードのシューズ/スニーカーをイメージしている。たしかに直前に乗ったXC40は、ボディーサイドやフェンダーのキャラクターラインがさらに明確で、2トーンカラーとともに躍動感を演出していた。北欧生まれだから美しいのではない。美しさへのこだわりが魅力的な車を生み出しているのだと痛感した。
(文=森口将之/写真=森口将之、ボルボ・カーズ/編集=竹下元太郎)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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