日産リーフG(FF)
いまのところ圧勝 2018.01.04 試乗記 発売以来、好調なセールスが伝えられる新型「日産リーフ」。充電の手間や航続距離など、さまざまな課題もあるEVの中で、多くの支持を集めるのはなぜか。クローズドコースと一般道で試乗し、その価値について考えた。ケチがついても元気
無資格検査問題のあおりを食って、新型リーフの登場がかすんでしまった。7年ぶりのフルチェンジなのに。自動車メディア向けに予定されていた10月アタマの試乗会も中止され、日本カー・オブ・ザ・イヤーも辞退。辞退してなきゃ取れたんじゃないだろうか。私とは関係ない話ですが。
ただ、新型リーフの受注はそれなりに順調で、12月下旬時点で1万台を超えているとのこと。ちなみに2016年のリーフの年間国内販売台数(旧型)は約1万5000台。つまり、逆風が吹いた割に出足は悪くない。
で、いったん中止されたリーフの試乗会があらためて開催されるというので、御殿場のカートコースまで行ってきました。日産がカートコースを会場に選んだのは、「e-Pedalを体感してもらうため」とのこと。正直、街中の方がリアルに体感できるけど、これも日産の挽回への意欲の表れでしょう。私としては、すでに街中での試乗は済ませていたので、郊外路やクローズドコースを走れるいい機会になりました。
走るも止まるもアクセルだけ
で、走りについて端的に結論を申し上げますと、とてもいいです。旧型リーフより、すべてが少しずついい。正常進化ってやつですね。
「ノートe-POWER」で大好評の強力回生ブレーキはさらに強化され、e-Pedalに進化、アクセルオフによる減速は最大0.2Gに(ノートe-POWERは0.15G)! e-PedalをONにしておけば、街中での走行では、もはやブレーキを踏む必要はほとんどない。シリーズハイブリッドであるe-POWERとの微妙な差別化に成功しております。
しかも新型リーフのe-Pedalは、アクセルオフで自動的にブレーキもかかり、停止を維持できる! 信号待ちはもちろん、下り坂でも! e-Pedalは、カートコースでも好感触。私は以前、ノートe-POWERで筑波サーキットを走ったことがありますが、さすがにブレーキを踏む必要がありました。ところが新型リーフは、サーキットでもかなりブレーキ要らず(注:全開走行ではムリです)。
ただ、すいた郊外路では、減速Gが強すぎてさすがにわずらわしい。慣れれば問題ないとも言えるけれど、e-Pedalを解除した方がはるかにリラックスして走れるし、電費も伸びそうだ。高速巡航も同様だろう。
つまり、「e-Pedalは使いよう」。走行シーンに合わせてオン/オフを切り替えたい。となると切り替えボタンがステアリング上に欲しい! と思ったのですが、それはカーマニアだから思うことで、一般の方はそこまで求めないかもしれません。
回生力がもたらす幸せ
実を言うと、リーフが国内で抱える最大の問題は、タイヤ空気圧の管理なのだそうです。というのも、リーフはガソリンスタンドに行かない! ディーラーに来てくれればいいけど、義務付けられているのは12カ月点検のみ。それも罰則がないからパスする人もいる。
となると、最大3年間、タイヤ空気圧が放置される! 販売店関係者いわく、リーフユーザーは一般ドライバー(≒非カーマニア)が大部分で、タイヤの空気圧まで気が回らない方が少なからずいらっしゃるとのこと。愛車のタイヤのことなんぞ考えたこともない方に、ステアリング上にe-Pedalスイッチを付けたところで、「なんじゃこりゃ?」で終わるだけかもしれない。
しかしそれでも私は付けるべきだと進言したい。だって、こういう強い回生ブレーキだって、喜ぶのはカーマニアだけで、一般ドライバーは拒絶反応を示すんじゃないかと思っていたので。e-Pedalスイッチも、今みたいにセンターコンソールにあると、一生触らないで終わる気もするけど、ステアリング上にあれば、意外と喜んで使ってくれるかもしれない。
いずれにせよ、われわれカーマニアにとって、新型リーフのバカ加速とバカ減速、じゃなかったe-Pedal切り替えによる走りの大きな変化は、間違いなくヨロコビです。まるで別のクルマになるようなものだから。回生の強さは、やろうと思えばもっと細かく設定できるはずで、それをやってるEVもあるけれど、10段とかあると、カーマニアでも使いきれない。オン/オフのみというのは、客層を考えても妥当でしょう。
やっぱり課題は航続距離
ところで、冬のEVにとってシートヒーターは必需品。通常のヒーターを使うと電費が2~3割も悪化するけど、シートヒーターだけなら、数%くらいで済むので。北海道のディーラーによると、電費だけでなく、凍死(?)防止のために必須アイテムだそうです。あったかい地方で近所のお買い物程度なら、ヒーターガンガンで構わないが、それでもちょっと遠出するとなると、航続距離延長のために、シートヒーターはぜひ欲しい。ファミリー用なら後席にだって絶対欲しいよね。
リーフは、寒冷地仕様を選ぶと後席シートヒーター(正確には、座面を温めるクッションヒーター)が自動的に付いてくる。寒冷地仕様は、別に寒冷地でなくとも選択できるとのこと。ほかのオプションを我慢してでも、リーフ買うなら寒冷地仕様がイイですね。
新型リーフはとてもよくできたクルマで、航続距離以外、特に大きな課題はない。つまるところ、EV最大の課題は航続距離なわけですから。デザインのインパクトがいまひとつとも言えますが、旧型と並べてみれば、確実にモダナイズされている。インテリアも含め未来から来たみたいなインパクトはないけど、決して悪くはない。問題はひたすら航続距離だ。
JC08モードでの航続距離は400km。ただし北米基準では240km。これが正味だろう。片道120km。余裕を見ると110kmってとこか。急速充電で継ぎ足し継ぎ足し走ればどこまでも走れるけれど、相変わらずリーフで1000km以上遠くへ行こうなんて考えるのは、ある種の冒険家だ。
電池の劣化も心理的負担になる。夏場、急速充電を繰り返すと、それこそ急速に劣化を早めてしまう「はず」。そこは正直、買ってみなければわかりませんが、今どき買ってみなきゃわかんないクルマなんてそんなにないよね?
極めて競争力のあるEV
ロングドライブに関しては、航続距離594kmの「テスラ・モデルS 100D」(電池容量100kWh)だって、事情は大差ない。全国に7000基あるチャデモじゃ、充電速度がまったく足りないから、どんだけ電池がデカくても、道中での満充電は非常に難しい。
40kWhの新型リーフですら、チャデモで8割充電するのに40分かかる。制限時間を10分オーバーだ。こうなるともう、EVがポピュラーになるためには、全固体電池などの次世代電池&次世代充電器の登場を待った方がいいという結論になる。リーフに限らず、EVは「待ち」ではないか?
ただ、現状に限れば、世界中で販売されているピュアEVの中で、新型リーフは非常に高い競争力を持っている。それは間違いない。世界の巨人・フォルクスワーゲンがリリースした「e-ゴルフ」は、最高出力でも航続距離でも、新型リーフに負けている。それでいて値段は100万円以上高い。リーフの圧勝だ!
最大の敵と思われていた「テスラ・モデル3」は、“生産地獄”で納車の見通しがまったく立たない。これまたリーフの大勝利であります! こうなると、航続距離383kmを誇るという「シボレー・ボルト」の存在が気になるが、日産は現状の技術の枠内で非常にがんばってくれた。生産台数を含めて考えれば、リーフはまだ世界をリードしている! と言えるだろう。
(文=清水草一/写真=菊池貴之/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
日産リーフG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4480×1790×1540mm
ホイールベース:2700mm
車重:1510kg
駆動方式:FF
モーター:交流同期電動機
最高出力:150ps(110kW)/3283-9795rpm
最大トルク:320Nm(32.6kgm)/0-3283rpm
タイヤ:(前)215/50R17 91V/(後)215/50R17 91V(ダンロップ・エナセーブEC300)
一充電最大走行可能距離:400km(JC08モード)
交流電力量消費率:120Wh/km(JC08モード)
価格:399万0600円/テスト車=447万5514円
オプション装備:サンライトイエロー+スーパーブラック2トーン<特別塗装色>(7万0200円)/寒冷地仕様<後席クッションヒーター+後席ヒーター吹き出し口+不凍液濃度アップ[50%]>+本革シート+BOSE Energy Efficient Seriesサウンドシステム&7スピーカー(24万3000円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー(3万9054円)/デュアルカーペット<フロアカーペット[消臭機能付き]、ブラック+ラバーマット>寒冷地仕様車用(3万3800円)/トノカバー(1万9800円)/LEDフォグランプ(6万8962円)/ウィンドウはっ水12カ月<フロントウィンドウ1面+フロントドアガラス2面 はっ水処理>(1万0098円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:5440km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

谷口 信輝
レーシングドライバー。1971年広島生まれ。高校時代からバイクに夢中になり、18歳でミニバイクレース日本一に。その後、ドリフトと出会い、四輪に転身。2001年(30歳)に本格的にレース活動を開始した。D1グランプリでは初開催の2001年にシリーズチャンピオンを獲得し、その後も表彰台の常連として活躍。国内最高峰レースの全日本GT選手権(現SUPER GT)には2002年から参戦しており、2011年、SUPER GT(GT300クラス)のシリーズチャンピオンに輝いた。2014年と2017年にも王座獲得。またワンメイクレースの86/BRZ Raceにおいては、2014年、2015年、2018年、2019年のプロフェッショナルシリーズ王者となっている。
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