シボレー・カマロ コンバーチブル(FR/8AT)
こう見えて知性派 2018.01.12 試乗記 いよいよ日本に導入された大人の4シーターオープン「シボレー・カマロ コンバーチブル」。大幅に軽量化されたボディーと秀逸なシャシー、そしてモデル史上初となる4気筒ターボエンジンの組み合わせは、スミズミまで考え抜かれた知的な走りを実現していた。“兄貴分”にも負けないポテンシャルの持ち主
2017年11月に発売された6代目カマロの日本仕様は、ひとまず3車種でのスタートとなった。先日リポートしたV8クーペの「SS」に加えて、いかにも最新国際派っぽい2リッター4気筒ダウンサイジングターボが、クーペとコンバーチブルという2種の車型に搭載される。
ちなみに、米本国での最強カマロは6.2リッターV8スーパーチャージャー(GMでいうところの「LT4」ユニット)を搭載した「ZL1」で、これは日本未導入。もうひとつの日本未導入ユニットである3.6リッターV6を含めると、新型カマロに搭載されるエンジンは計4種あって、ギアボックスも大半のモデルで8段ATと6段MTの両方が選べる。
さらに、本国で最新となる2018年モデルでは、ZL1に調整式ダンパーやフルエアロキットを追加した「1LEエクストリームトラックパッケージ」も登場。同車は独ニュルブルクリンクでの公式タイムアタックも実施しており、そのタイムは7分16秒04(!)だった。
この記録は同じLT4を積む「シボレー・コルベットZ06」のそれとさほど変わらない。現行Z06のニュルタイムは公式発表されていないのだが、Z06は「2015年のコース改修直前に7分08秒台を出した」との情報が出回っているほか、昨年にはドイツのメディアが12秒台をたたいている。あのニュルで数秒差……なら、実質的にはほぼ同タイム(?)といっていい。
話がずいぶんと横道にそれてしまったが、今回の主役は、新型カマロの基準車ともいえる2リッターターボだ。このエンジンはすでに「キャデラックATS」や「CTS」でおなじみのアレだが、それはともかく、4気筒を積むのは今回がカマロ史上初だという。
ちなみに、カマロの宿敵である「フォード・マスタング」も現行型で2.3リッター4気筒エコブーストを積む。ただ、マスタングは以前にも4気筒を用意していた時期があり、当時の排気量も2.3リッター。マスタングでは4気筒は意外に歴史があるのだ。
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充実した装備は上級グレードと変わらない
新しい4気筒カマロには前記のようにクーペとコンバーチブルがあり、両車の装備内容はほぼ同等。今回の取材車はコンバーチブルだが、日本仕様のコンバーチブルは1種のみなので、商品名も単純に「カマロ コンバーチブル」である。しかし、同じ4気筒カマロでも、クーペはV8のSSと区別するために「LT RS」というグレードを名乗る。
これを米本国のラインナップに照らすと、ヘッドアップディスプレイや左右席独立調整オートエアコンに前席シートヒーター、リアパークアシストなどを装備する日本仕様のベースは、本国では4気筒/V6系の最上級グレードにあたる「2LT」だと判別できる。そのうえで、日本仕様では外装オプションの「RSパッケージ」やブレンボのフロントブレーキなどが追加されている。HIDヘッドランプ(LEDポジションランプ内蔵)や20インチの5スポークホイール、そしてグリルデザインなどが、RSパッケージ特有のディテールである。
クーペ同士だとV8(SS)より130万円安くなる4気筒カマロだが、コンバーチブルとクーペのSS比の価格差はおよそ40万円。SSはV8エンジン以外にも、可変ダンパーやLSD、ブレンボのリアブレーキ、ギアボックス/デフのオイルクーラーなどが追加されるから、「コンバーチブルは意外に安くない」というか「SSが安すぎる?」の感は少しある。
ただし、走りに関連するメカニズム以外の快適&ビジュアル装備に、4気筒とV8の差異はほとんどないのも事実。シートはどちらもレザー張りのスポーツタイプで前席はメモリー機能付きの電動調整式だし、BOSEの高級サウンドシステムも日本のカマロは全車標準装備である。また、シートヒーター&ベンチレーションに加えて、ステアリングヒーターまで標準装備される点は、このコンバーチブルでこそありがたい。
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大幅に向上した電動ソフトトップの機能性
新型カマロの開閉トップはもちろん電動式。特別な新機軸はないオーソドックスなソフトトップだが、機能性は全面的に進化している。
公称で“片道13秒”という開閉スピードこそ先代とあまり変わりないものの、最初(もしくは最後)の手動ロック操作が不要のフルオート式になったこと、時速30マイル(=50km/h弱)未満なら走行中でも開閉できるようになったこと、そしてクローズ時のキャビンデザインが先代比で飛躍的にスタイリッシュになったこと……などが新型カマロ コンバーチブルの美点である。さらに、畳まれたソフトトップが電動樹脂リッドの下に完全におさまるようになったのも、カマロとしては今回が初。多層構造のソフトトップそのものも、静粛性がより高められているという。
いずれにしても、ボタンを押すだけのフルオート式になって、しかも低速なら走りながらでも開閉動作が可能となったことから、新型カマロがオープンカーとして飛躍的に“開けやすい”クルマになったのは事実。これならわずかな信号待ちでも、ためらいなく開閉ボタンに手が伸ばせて、結果としてオープン走行比率が大きく向上するはずである。
カマロ コンバーチブルは“500万円台の4座フルオープンカー”というだけでなかなか貴重な存在である。「フォルクスワーゲン・ザ・ビートル カブリオレ」もいつの間にか姿を消して、日本でカマロより安価な新車で買える4座オープンカーは「MINIコンバーチブル」くらいしか残っていない。
その後席は見た目のとおり、大人だとアクロバット姿勢で拘束されてしまう超タイト空間ではある。ただ、178cmの筆者が背中を丸めて目いっぱい下を向く必要があるにしても、なんとか前向きに座ることができる時点で、たとえば「ポルシェ911カブリオレ」よりはよほど実用的ではある。
4気筒でも胸がすく加速を楽しめる
「カマロ史上、もっとも燃費に優れる」がキャッチコピーの4気筒ターボだが、最新ダウンサイジングエンジンゆえに“必要十分”どころか、正面から“スポーツカー”と呼んでもさしつかえないくらいには速い。
キャデラックATSやCTSと共通の「アルファアーキテクチャー」を活用した新型カマロは、先代より飛躍的に軽量化されたのも大きな売り。GMの広報資料によれば、車体骨格だけで先代比60.5kg、車両重量で90.7kg以上も軽くなっているという。ちなみに、新旧カマロ コンバーチブルの日本仕様を比較すると、エンジンのダウンサイジング(先代は3.6リッターV6)もあって、車両重量はじつに170kgも軽くなった。それでいて、エンジン性能は先代V6比較で最大トルクが23Nm(2.4kgm)アップしている。最高出力はダウンしているが、動力性能はだれがどうみても、けっこう明確に向上している。
新型カマロ コンバーチブルと似たようなスペックをもつ国産車には「トヨタ・クラウン」の3.5リッター車や、「日産スカイライン200GT-t」があるが、エンジントルクはこれら2台よりカマロ コンバーチブルのほうが強力である。つまり、さすがにのけぞるほどのキック力をもつSSにはおよばないものの、単独で乗るかぎり新型カマロ コンバーチブルはスカッと胸がすく程度には速いということだ。
8段ATもいかにも最新鋭の緻密でけなげな変速を繰り返し、乗り手の気持ちを先取るようにダウンシフトしてくれる。そのたびに軽快に吹け上がる2リッターターボは、2500rpmも回っていればドーンという蹴りを実感できるほどのパンチがあり、そのまま7000rpmまで一気に回り切る。そのときの息吹も、いかにもスポーツエンジンらしい快音である。
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スミズミまで考え尽くされている
新型カマロ コンバーチブルの乗り心地や操縦性は、なんというか“絶妙”である。オープンにすると巻き込む風量もそれなりに強まるが、現代のオープンカーとしては平均的。高速でも十分に実用的なレベルである。
トップの上げ下げにかかわらず、高速道を周囲よりちょっとだけ速いペースで流したり、箱根あたりの山坂道を限界性能の7~8割程度でクリアしたりすると、このクルマはドンピシャに気持ちよい。とにかくゆったり滑らかなサスペンションのストローク感、それゆえに手やお尻に濃厚に伝わってくる接地感、そして、ノーズが喜々としてターンしていく軽快な回頭性……は、公道用FR車のカガミのような仕上がりである。
アルミボンネットにリアトランク下のバッテリー配置、そしてバルクヘッドにメリ込むように搭載されたエンジンレイアウトもあって、新型カマロ コンバーチブルの車検証重量の前後配分は“50.6:49.4”となっている。これまた絶妙そのもののバランスだ。
冒頭のように、新型カマロの基本フィジカルはニュルで7分台前半をたたき出せる潜在能力をもつ。このコンバーチブルはそんな強力な基本フィジカルに、あえて小型軽量で控えめ性能なエンジンを積んで、ユルめの上屋とサスペンションを組み合わせたクルマといえる。
箱根のコーナーを青筋立てて曲がろうとすれば、さすがに前後の動きにわずかなズレがあることに気づくし、比較的大きめのコンプライアンス(この場合の意味は“法令順守”ではなく、サスペンションの前後左右の柔軟性のことだ)はいかにもアメ車らしい。しかし、それらが一体になった操作性はなぜかピタリと正確で、その気になれば軽々とオーバーステアに持ち込めるエンジントルクをもってしても後輪はジワッと路面に吸いつく。接地感はあくまでリアルかつ鮮明で、限界特性はねばり強い。
見た目はマッチョそのものだが、中身は理性のカタマリにして、スミズミにまで知性が行き届いている。いや本当に、市街地での乗り心地はとろけそうなくらいに心地よく、山坂道でのハンドリングは思わず笑みがこぼれるほどの信頼できる大人の味わいである。いやこれ、酸いも甘いもかみ分けた大人の皆さんが乗るべき、マジでいいクルマですよ。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
シボレー・カマロ コンバーチブル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4780×1900×1350mm
ホイールベース:2810mm
車重:1670kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:275ps(202kW)/5500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/3000-4000rpm
タイヤ:(前)245/40R20 95V/(後)245/40R20 95V(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック3)
燃費:25mpg(約10.6km/リッター、米国EPA値 複合モード)
価格:602万6400円/テスト車=613万9800円
オプション装備:ボディーカラースペシャルペイント<ハイパーブルーメタリック>(6万4800円)/フロアマット(4万8600円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2365km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:332.7km
使用燃料:46.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/13.4リッター/100km(約7.5km/リッター、車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。