スズキ・スペーシア ハイブリッドX(FF/CVT)/スペーシア カスタム ハイブリッドXSターボ(FF/CVT)
優しさの詰まったスーツケース 2018.01.29 試乗記 目指したのは「家族や仲間と楽しく使える軽ハイトワゴン」。2代目となる「スズキ・スペーシア」に試乗した。同じカテゴリーに“日本で一番売れているクルマ”という明確なライバルがいる状況で、スズキが投入した新型の出来栄えは?あのクルマに似せたくない?
スーツケースがモチーフだと聞いても意味がよくわからなかったのだが、実物を見て納得した。新型スペーシアは外から見ても中に座ってもスーツケースっぽい意匠が満載である。「家族や仲間と一緒にいろいろな場所に出掛け、大切な人との思い出をたくさん詰め込める」という思いを込めたのだという。愛着のあるスーツケースをクルマにするというアイデアはともかく、ボディーサイドにリブを配したことで、ポップで愛らしい印象になった。
意地悪な見方をすると、これは“あのクルマ”に似てしまうことを避けるための苦肉の策だったのかもしれない。2017年に日本で販売台数第1位に輝いた「ホンダN-BOX」のことである。カッチリとした角形でスペースを最優先したデザインが人気を呼び、2代目でもそのフォルムが受け継がれた。好調な販売を維持しているところを見ると、日本のユーザーはあの形が好きなのである。
新型のフロントガラスは初代スペーシアに比べて明確に立っている。フードを厚くして全体にベルトラインを上げ、大きさと力強さを強調するデザインだ。そうなると、どうしてもシルエットはN-BOXに似てしまう。角に丸みをつけるだけでは差別化が十分とは言えない。
軽自動車の枠の中では、側面に抑揚をつけるには限界がある。外側に何らかの出っ張りをつける余裕は残されていない。若手デザイナーがスーツケースを思いついたのは幸運だった。リモアやゼロハリのようなリブなら、線状にへこませればいい。剛性アップにも役立つ形状だから、一石二鳥である。
名刺入れも同じモチーフ
室内では、助手席側に備えられたインパネアッパーボックスがスーツケースを模した形になっている。スーツケースinスーツケースの入れ子状態である。ボックスを開けるとまたスーツケースがあるのならマトリョーシカだが、さすがにやり過ぎになる。
収納力は高く、上下2段のボックスに加えてドリンクホルダーも一体になっている。下段は引き出し式で、ボックスティッシュが入る大きさだ。先代はこの場所のほかにオーバーヘッドコンソールにもボックスティッシュ専用スペースがあったが、さすがに2つはいらないということで減らされたのだろう。
開発陣に話を聞いた時、デザイナーの持っていた名刺入れを見て感心した。小さなスーツケースの形だったのだ。ご丁寧にも、表面にはたくさんステッカーが貼られている。このモチーフを気に入っていたから、自分たちの持ち物にも応用したくなったのだろう。とてもいい出来だったのでどうやったら手に入れられるか聞いてみたが、関係者向けのアイテムなのだそうだ。ディーラーでスペーシアグッズとして販売すれば人気が出そうなのに、もったいない。
というわけで、スーツケース作戦はひとまず成功した。ただし、それはノーマルモデルに限った話である。デザインの異なる「カスタム」では、この意匠が埋没してしまうのだ。昨今の軽自動車では、ほぼ必ずテイストの異なる2種類のデザインが用意される。穏健で親しみやすいノーマル仕様と、迫力と強い押し出しを強調したカスタムだ。近年はカスタムのほうが販売台数で上回ることが多い。
ターボが選べるのはカスタムだけ
スペーシア カスタムも大型のメッキフロントグリルを採用していかつい顔つきを演出している。それはいいのだが、側面のスーツケース形状との組み合わせはどうもしっくりこないのだ。ボリューム感を見せようとすると、だんだん「N-BOXカスタム」に近づいてしまうのも困ったことである。他のモデルに比べてスペーシアのカスタム比率が低いのは、ベースデザインがノーマルモデル優先で考えられているからかもしれない。
搭載されるパワーユニットは、すべてマイルドハイブリッドである。低燃費を追求するとともに、モーター機能付き発電機(ISG)のアシストが得られる。発進後約10秒間はモーターのみの走行が可能で、加速時にもエンジンを助けるという。実際に走ってみて、モーターのありがたみを体感することは難しかった。パワーモードも試してみたが、強力な加速とまではいかなかった。マイルドハイブリッドの主戦場は燃費向上なのである。
モーターは同一だが、従来通りエンジンには自然吸気とターボがある。短時間の試乗なので、自然吸気エンジンでも特に不足を感じる場面はなかった。街乗りメインの買い物用であれば、十分な動力性能である。ただ、低速で走っていても、運転のしやすさではターボにはっきりとアドバンテージがある。アクセルを踏んだ時のレスポンスに差があり、自然吸気車に乗っているともどかしい気持ちになることがある。長距離を走る機会が多いのであれば、ターボを選んだほうがいいかもしれない。
ただし、ターボが用意されているのはカスタムだけである。スーツケースデザインを満喫しながらターボのパワーを楽しむことはできないのだ。かわいらしいものとスピードの両方が好きという人はどちらかを諦めるしかない。
先進安全機能はクロスビーと同じ
ニューモデルには最新の先進安全機能が装備されることになっている。軽自動車でも、それはまったく同じ。「スズキセーフティサポート」の6つの機能が使えるようになった。「デュアルセンサーブレーキサポート」は。単眼カメラとレーダーの2つのセンサーで前方を監視するシステムである。危険を感知するとブザー音とメーター表示で注意を促し、衝突被害を軽減するためにブレーキをアシストしたり自動でブレーキをかけたりする。
新たに採用されたのはコンチネンタル製のセンサーで、「クロスビー」にも同じものが使われている。2つのモデルのプレス資料を見ると、解説ページにはほぼ同じことが書かれていた。安全技術には小型車と軽自動車の区別などない。N-BOXが「ホンダセンシング」を標準装備したことで、軽自動車だからという言い訳は、もう通用しなくなった。
N-BOXが採用したアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)の搭載が見送られたのは残念だが、スペーシアは後方の安全のために新機能を採用した。後退時ブレーキサポートと後方誤発進抑制機能である。ヘッドアップディスプレイ(HUD)装着車では、標識認識機能も使える。HUDは「ワゴンR」でも採用されていたが、スペーシアではフロントガラスに直接投影する方式に変更された。もう一つの目新しい機能が全方位モニターの3Dビュー。室外視点と室内視点で自車の周囲の状況を確認できる。
快適機能では、スリムサーキュレーターが地味に役立ちそうだ。ダッシュボードのエアコン吹き出し口からの風を、天井に取り付けられたスリットからの高速気流で後方に流す装置である。スペースが広いことで空調が行き渡りにくいから必要になった技術だ。いいアイデアだが、少々音が大きいのが難点である。
2013年に初代スペーシアに試乗した時は、燃費の話から書き始めた。当時は最もホットなトピックだったからだ。燃費競争は一段落し、今は先進安全装備に注目が集まっている。トレンドは時代によって変わるが、スーパーハイトワゴンの最大の特徴は、今も広い室内空間と使い勝手の良さだろう。新型スペーシアの荷室には、開口部の下端に自転車積み下ろしをサポートするガイドが付けられた。自転車で塾に行った子どもを迎えに行くお母さんには、こういうさり気ない便利さが一番響くのかもしれない。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
スズキ・スペーシア ハイブリッドX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1800mm
ホイールベース:2460mm
車重:880kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6500rpm
最大トルク:60Nm(6.1kgm)/4000rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:28.2km/リッター(JC08モード)
価格:146万8800円/テスト車=191万4894円
オプション装備:全方位モニター用カメラパッケージ(7万7760円)/2トーンルーフパッケージ(6万4800円)/アップグレードパッケージ(7万5600円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン アンティグレー>(2万0142円)/スタンダードメモリーワイドナビ<パナソニック>(14万4018円)/ETC車載器<ビルトインタイプ>(2万1816円)/USBソケット(2754円)/USB接続ケーブル(4644円)/ドライブレコーダー(3万4560円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:558km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
スズキ・スペーシア カスタム ハイブリッドXSターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1785mm
ホイールベース:2460mm
車重:900kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:98Nm(10.0kgm)/3000rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:25.6km/リッター(JC08モード)
価格:178万7400円/テスト車=213万4134円
オプション装備:全方位モニター用カメラパッケージ(7万5600円)/ブラック2トーンルーフ(4万3200円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン サキソニー>(2万0142円)/スタンダードメモリーワイドナビ<パナソニック>(14万4018円)/ETC車載器<ビルトインタイプ>(2万1816円)/USBソケット(2754円)/USB接続ケーブル(4644円)/ドライブレコーダー(3万4560円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:468km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。