ポルシェ911カレラGTS(RR/7AT)【試乗記】
911はなぜ老けない? 2011.08.15 試乗記 ポルシェ911カレラGTS(RR/7AT)……1626万1000円
3.8リッター水平対向6気筒エンジンに特別なチューンを施し、ワイドボディを与えたハイパフォーマンスモデル「カレラGTS」のクーペモデルに試乗し、その若々しさの秘訣を考えた。
軽自動車より短いホイールベース
40歳を過ぎてからの同窓会では、かつてのクラスメートがはっきり2種類に分かれる。ひとつは、思い出すのに苦労する変わり果てた姿のグループ。そしてもうひとつが、30年振りに会っても全然変わらないヤングなグループ。
「ポルシェ911」シリーズは後者だ。1963年のフランクフルトショーに登場してから48年、アラフィーとなった今でもみずみずしい。
現行911シリーズのラインナップにおけるNA(自然吸気)後輪駆動モデルの最高性能版、「カレラGTS」を目の前にして、しばし腕組み。なぜこのクルマは、見飽きたり古臭いと思うことがないのか。ホント不思議だ。
もちろんデザイン的にも優れているのだろうけれど、911シリーズがエバーグリーンなたたずまいを維持している秘訣(ひけつ)はそれだけではないような気がする。
ずーっと考え続けて、数年前にザ・ローリング・ストーンズのライブ映画『シャイン・ア・ライト』(マーティン・スコセッシ監督)を観ながらハッと気付いた。ストーンズのメンバーは、太らないから老けない。911も、ぜい肉が付かないから年を取らないのではないか。
カレラGTSは後輪駆動の「911カレラ」としては唯一、「カレラ4」と同じ44mmワイドなボディをまとう。リアのトレッドも「カレラS」に比べて32mm広がっている。
遡れば、1960年代から全長は27cmほど伸びているけれど、現行モデルのホイールベースは「ホンダ・フィット」の2500mmよりはるかに短い2350mm。もっと言えば、これは最近の軽自動車より短い。
ぎゅっと引き締まった筋肉質のボディが、若々しさの秘訣のひとつだ。
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「青空」から「夏空」へ
標準装備のスポーツシートに腰掛けて、911の恒例にのっとって左手でキーを回してエンジン始動。これまた911の恒例にのっとり、控え目な音量ながらずっしりした手応えの排気音が耳に届く。
この3.8リッター水平対向6気筒ユニット、「GTS」という車名からついレーシィな切れ味を想像してしまうけれど、市街地で乗るぶんにはカレラSとの違いがわからない。ただし、それが不満だと言っているわけじゃない。適度な重みのあるものを正確に回転させる快感や、アクセルペダルへのわずかな入力を瞬時に加速Gに反映するソリッドなフィーリングといった911の美点は当然ながらそのままだし、パワーに不満がないのは言わずもがな。
カレラGTSが本領を発揮してドライバーが「うほっ!」とヒザを叩くのは、タコメーターの針が4500-5000rpmから上の領域に入ってからだ。針が上昇するスピードに勢いが加わり、一気呵成(かせい)に7400rpmのレブリミットまで駆け上がる。スポーツエグゾーストシステムが響かせる乾いた音が鼓膜とハートを震わせる。低い回転域ではややバラつく回転フィールも、高回転域ではびしっと意思統一される。
「曇り空」→「薄日がさす空」→「青空」と、ドラマチックに表情を変えるのが911シリーズのエンジンの魅力だと思っているけれど、GTSクーペの場合はただの「青空」ではなく「夏空」だ。音もフィーリングも加速も、スカッと突き抜けている。
DFI(ダイレクト・フューエル・インジェクション)エンジンの最高出力は408ps。「911カレラS」(385ps)と「911GT3」(435ps)の中間に位置する。ただし、GT3が964型の空冷ブロックを用いるのに対して、GTSはカレラSと同じく新しい水冷ブロックとなる。そして、主に吸気系をチューンすることでさらなるパワーとシャープなフィーリングを獲得した。
マニュアルトランスミッションをかんかんシフトしながら味わってみたいエンジンだけど、日本仕様は7段PDKのみと組み合わせられる。
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あと味すっきり、淡麗辛口
試乗車はオプションの「スポーツクロノパッケージ」装着車。ワインディングロードでセンターコンソールのスポーツモードスイッチを「SPORT」モードにすると、ステアリングホイールのスポーク部分にも「SPORT」の文字が浮かび上がる。
エンジンのレスポンスがはっきりと鋭くなったのを確認後、今度はもう一段スパルタンな「SPORT PLUS」モードを選ぶ。驚くことに、もうこれ以上はないだろうと思っていたエンジンの肌触りが、さらに鋭利になる。アクセルペダルを踏み込む足裏にちょこっと力を込めただけで、弾けるように反応する。
「SPORT PLUS」モードではダンパーも臨戦態勢に入り、乗り心地はびしっと引き締まる。クイックな身のこなしの代償に、路面からのショックをダイレクトに伝えるようになる。
それが不快にも不安にも感じないのは、4つのタイヤが常に正しく地面と接しているからだろう。ビシッという突き上げは伝えるけれど、ドタバタととっちらかるようなことはない。辛口だけど後味すっきり。
カレラGTSに乗ってみての感想は、「性能が上がった」というより、「より研ぎ澄まされた」というもの。拡大ではなく純化で、よりダイレクトな手応えを得るためにエンジンにもトランスミッションにもサスペンションにも新しい技術が注ぎ込まれる。
普通は性能が上がると人間からの距離が離れがちだけれど、ポルシェ911の場合は人間に近づいてくる。偉くなってもエバらない。
冒頭で、ボディが太らないことが911が老けない理由だと書いたけれど、性能的にはエバらないことが年を取らない理由だと思う。
太らない、エバらない。これが911が老けない秘訣と見た。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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