第1回:これぞ“輸入車の王者”の実力!
輸入車チョイ乗りリポート~鉄壁のドイツ編~
2018.02.16
JAIA輸入車試乗会2018
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輸入車の祭典「JAIA合同試乗会」の会場から、webCGメンバーが注目のモデルをご紹介! まずは圧巻の人気を誇るドイツ勢より、フォルクスワーゲンの「e-ゴルフ」と「アルテオン」、「アウディTT RS」「メルセデス・ベンツS560 4MATICロング」「ポルシェ911タルガ4 GTS」の走りをリポートする。
EVパワートレインに思ふ
フォルクスワーゲンe-ゴルフ……499万円
ボンネットを開けてビックリした。エンジンルーム――と呼ぶのが適切かどうかは分からないが、取りあえず今はそう呼びましょう――がスッカスカなのだ。オレンジ色のケーブルでつながれた金属製の箱が何個か積まれている、だけ。エンジン車だとあんなにみっちりモノが収まっていたのに、なるほど「電気自動車(EV)になったら部品点数が減って、下請けが路頭に迷う」と新聞屋さんが書き立てるわけだと得心がいった。そして、それを樹脂カバーで隠すそぶりもないe-ゴルフのありさまに、何事につけ隙がないフォルクスワーゲンにしては珍しいクルマだなと思った。
皆さんご存じの通り、e-ゴルフは「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のEVバージョンである。他のモデルだとエンジンだとかトランスミッションだとかが積まれているところに、最高出力136ps、最大トルク290Nmを発生する自社開発の駆動用モーターが積まれている。もうひとりの主役であるバッテリーはというと、センタートンネルとフロントシート下、そしてリアシート下に「土」の字形に収まっている。
この搭載レイアウトが功を奏しているのか、今回の試乗では西湘バイパスでの車線変更時の挙動が特に印象に残った。地面に4輪を張り付かせたまま、スパッ、ズバッとクルマが動く。一方でパワープラントはどうなんよ? と問われれば、恐縮ですが、記憶にありません(小佐野賢治ボイスでどうぞ)。そりゃあ確かに、ラグのないスタート加速や走行時の静けさなんかはエンジン車にはない特徴だけど、逆にいえば他のEVやシリーズハイブリッド車も持ち合わせているドライブフィールですしねえ……。
というわけで、e-ゴルフはフォルクスワーゲンならではの重厚感が味わえること、フォルクスワーゲンのEVであるということ自体をありがたがって乗るEVと見つけました。
セカイは“電動車”の普及へ向けて一気に舵を切ったらしいですが、内燃機関に見られるような「パワープラントによる商品の差別化」はまだまだ先なのか。あるいは、そういうことを期待すること自体が、もう時代遅れなのかもしれませんね。
(文=webCG ほった/写真=田村 弥)
しつけの良さが際立っている
フォルクスワーゲン・アルテオンRライン4MOTIONアドバンス……599万円
アルテオンといえば、フォルクスワーゲンのフラッグシップモデル。ブランドイメージ上、華美であることだけには価値を置いていない。オーソドックスなスタイルを持つことが使命の実用セダンだ。
まず、端正で清潔感のあるスタイルが目を引く。1.9mの全幅に1.4mの全高を与えることで、ワイド&ローなスタンスを強調、スポーティーなイメージにまとめられている。
フロントからリアに向かってちゅうちょなく伸びるキャラクターラインを含め、そのたたずまいは、クリーニング店から戻ってきたばかりのワイシャツのようにピシッとしていて、見ているだけですがすがしい気持ちになる。
走りだしてみると、すぐにその完成度の高さにシビれた。2リッター直4ターボエンジンと7段DSGとが紡ぎ出す、静かでなめらかな加速といい、“4MOTION”ならではの、キレのある足さばきやフラットな乗り心地といい、非の打ちどころがない。
しかも、“意のままに”という言葉が納得できるほど、まったく違和感がない。のど越しの良さにたとえたらいいだろうか。なんの引っ掛かりもなく、体にスッとなじむ感覚は、まるで水を飲むように自然だ。
こんなにイイとは!
荷室も広いオーソドックスな実用車でありながら、シートに座ると、スッと背筋が伸びるような品の良さが漂う。個性を消し、ドライバーの意図をくむことに徹しているようでありながら、その姿勢がむしろ個性になっている。しつけの良さ”、がアルテオンの魅力なのかも。
(文=スーザン史子/写真=峰 昌宏)
“ハレ”の日と“ケ”の日、人生に悩む
アウディTT RSクーペ……989万円
TT RSを眼前にすると、まず小さいなと思った。ボディーの全長は4190mm。近いサイズのクルマを探したら、「日産ノート」よりも6cm長いだけだった。
そのボディーに最高出力400ps、最大トルク480Nmの2.5リッター直5エンジンが詰め込まれているのだから痛快だ。アクセルを踏み込めば、「ギュイン!」と形容したくなるような加速を楽しめる。そのレスポンスも極めて速く、とてもバランスのいいピストンが、シリンダーの中を行ったり来たりしているような感じがする。まさに精密機械だ。
足まわりはとてもハードだが、固定式のリアスポイラーまで装備するこのクルマの乗り心地がフワフワだったら逆に変だろう。ちょい乗りの身としては、目地段差をガツンガツンと乗り越えながらのドライブは楽しかった。大したスピードを出さなくても、そして自分の運転スキルでも、スポーティーに走らせている感じがするのだからたまらない。
値段のことは別にして、こういったクルマに試乗するといつも欲しいなあと思ってしまう。とはいえ、筆者は一児の父。TT RSと過ごす人生を妄想した後には、これから子どもが大きくなっていくのに、このリアシートでは厳しいよなあと、急に現実に引き戻される。
目指すは夢の2台持ち? ミニバンかSUV、そしてTT RSがあれば、豊かなカーライフを送れることは間違いないと思うが、TT RSに乗る日が“ハレ”で、ミニバンに乗る日が“ケ”になってしまうのもまた確かだと思う。
(文=webCG 藤沢/写真=峰 昌宏)
端々に宿る王者の風格
メルセデス・ベンツS560 4MATICロング……1699万円
Sクラスには、思わず後ずさりしてしまうほどの“大物オーラ”が漂う。全長5.3×全幅1.9×全高1.5m、総額1700万円の御大を前にすると、「すいません、失礼いたします」と、こちらが頭を下げてしまいそうになる。コモノなので……。
運転席に座り、まず目に飛び込んできたのが、インパネの3分の2ほどを占める、幅広のコックピットディスプレイ。エンジンを始動させると、ブラックアウトされたディスプレイに、メーターや地図がくっきりと浮かび上がる。ダッシュボードにステアリングやスイッチ類が残ることで、まだ完全自動運転への道半ばであることを理解するものの、凹凸のないフラットなガラス面を主役にしたインパネは、シンプルかつ先進的で、そう遠くない未来にステアリングがなくなる、そんな自動車の行く末を感じさせてくれる。
469ps/700Nmを発生する新型のV8直噴ツインターボエンジンや、AMG 4MATICを備えたS560ロングの走りにも“大物オーラ”は宿っていた。車重2.2tにもなるボディーを水平に保ちながら軽々と進んでいる感覚は、まるで大きな鯨が、静かな海面を音もなく泳いでいくイメージと重なる。しかも、乗り心地は、真綿に包まれているかのようにソフトなのだ。
後席の乗り心地も格別。とりわけヘッドレストは、フッカフカのクッションで、身を預けたら即、眠りに落ちてしまいそう。ま、そんなご身分になれそうにはないけれど。
ゆるゆる走っても、思い切りアクセルを踏み込んでも、落ち着いた物腰は変わらない。とことん軽快でまったく体に負荷を感じさせない。しかも車内は静寂そのもの。これぞ王者の走り、ですね。
(文=スーザン史子/写真=峰 昌宏)
懐の深い走りに驚いた
ポルシェ911タルガ4 GTS……2154万円
業界歴の浅い筆者にとって、初めてのポルシェ911体験となった。「GTS」のつくスペシャルなモデルだが、比較すべき“素”の911のドライブ経験がないので、初めてなりの印象を。
リアに搭載される3リッターターボエンジンの性能は、最高出力450ps、最大トルク550Nm。絶対的にはすごい数字だと思うが、もっとパワーのあるクルマはたくさんあるし、取材を通じてそういったクルマを運転したこともある。そういうわけで、(とても生意気ですが)911のすごさって何なの? というちょっと疑いの目を持ちつつの試乗となったのだった。
しかしそんな疑いは、試乗コースである西湘バイパスに乗るとすぐに氷解した。ポルシェ911のすごさは、スペックシートを見ただけでは分からない“余裕”にありました。
例えば、前を行くクルマを追い抜こうと考えて右足に力を込めると、すぐさまグッと加速する。この現象自体は当たり前のことなのだが、シフトダウンを伴わないことに驚く。なんというかとても力強い、懐の深さのようなものを感じたのだった。この程度の加速でギアチェンジなんかしてられないよ、とでも言わんばかりの。
現在、読売ジャイアンツに所属する杉内俊哉投手は、投球前にグラブと左手をポンと合わせ、まるで軽めのキャッチボールでもするようなモーションから快速球を投げ込むが、実はプロ入り当初は全身を使ったダイナミックなフォームのパワーピッチャーだった。しかし、ホークス時代、当時の王監督に「いつも目いっぱいに投げる投手っていうのは、実はそんなに怖くない」というような指導を受け、ボールをリリースする瞬間だけ力を入れる、現在の投球フォームに改造したらしい。勝負どころでしか本気を出さない……、911タルガ4 GTSにも同じ姿勢を感じたのだった。
そしてこのタルガトップの美しいこと。開閉はボタンひとつで可能で、ルーフ部分はきっちりとリアガラスの中に収納される。速くてカッコイイ……、クルマのひとつの理想形だと思うけど、2154万円という価格もなかなかパンチが効いていますね。
(文=webCG 藤沢/写真=峰 昌宏)

スーザン史子
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