第5回:これぞ紳士の国の乗り物
輸入車チョイ乗りリポート~イギリス編~(その2)
2018.03.16
JAIA輸入車試乗会2018
![]() |
みんな大好き英国車の試乗リポートも、いよいよ後半戦! JAIA特集のトリを飾る今回は、「ジャガーFタイプ」「ランドローバー・ディスカバリー」、紳士のスポーツカー「アストンマーティンDB11 V8」、そして最新の「ロールス・ロイス・ファントム」を紹介する。
このクルマだけの世界がある
ジャガーFタイプ R-DYNAMICクーペ……873万円
Fタイプのボディーに直4エンジンである。どうしてジャガーはこんな“おもしろいクルマ”を作ったのだろうか。もしかして、ターゲットはポルシェ? と思いながらFタイプと「718ケイマン」の数字を比べてみた。
Fタイプに搭載される2リッター直4スーパーチャージャー付きエンジンのパワーとトルクは300psと400Nm。それに対して、718ケイマンの2リッターのフラット4ターボは300psと380Nm。車両価格だと、Fタイプのベーシックモデルが806万円、今回試乗した「R-DYNAMICクーペ」が873万円であるのに対して、718ケイマンはベーシックモデルが707万4000円で、パワフルな「S」モデルが901万4000円だ。実に微妙な争いである。
さて、Fタイプ R-DYNAMICクーペのエンジンをかけてみる。2リッター直4は、他のV6やV8のようにひと吠(ほ)えするものの、その迫力と音量がかわいらしい。“子ジャガー”という感じだ。スロットルオフすると、背後でパラパラとアフターファイアのような演出もあってなかなかな雰囲気だが、加速力は、当たり前ではあるものの、V6やV8の“親ジャガー”ほどではなかった。
エンジンの中速域でパンチ力に欠き、もどかしさがつきまとうのはちょっと気になったところだ。たとえば現状で1660kgある車重を1500kg以下まで徹底的に削(そ)ぎ落として、空力的に磨きに磨いたライトウェイト&ロードラッグクーペに仕立てたら、相当かっこいいだろう。
このクルマの面白さは、ずばりシャシーにあると思う。鼻先が軽くなって、フットワークにキレが出た。Fタイプというクルマの健脚ぶりを純粋に楽しみたいのなら、積極的に選ぶ価値はある。いや、この仕様でないと味わえない世界だ。
(文=webCG 竹下/写真=田村 弥)
安心してオススメできる
ランドローバー・ディスカバリーHSEラグジュアリー……921万7000円
結論から申し上げますと、ランドローバー・ディスカバリーは良いクルマでした。「○○な人なら」とか、「○○さえ気にならなければ」とかいった条件ナシに、万人にオススメできるSUVといえるでしょう。……金額的に、ブルジョア限定ですけどね。
走りだして最初に感じたのは、記者のような不感症の凡愚にすら「ああこれは」と感じられるほどの、乗り心地の良さ。サスペンションはストロークが大きく、ゆったり、しっとりと動くのだが、もちろんちゃんと節度もあって、「ヘコ」「スコ」「カク」っとなることがない。タイヤも路面に対するアタリが柔らかで、同乗していたカメラマン田村氏を「なんというか、転がり方がいいですね」とうならせていた。
ちなみにこのタイヤ、銘柄は「グッドイヤー・イーグルF1」。イーグルF1というと“アメリカ版ポテンザ”“アメリカ版アドバン”的なイメージだったので、ちょっと意外である。銘柄と並んで重要なタイヤサイズは275/45R21。45という偏平率はまあ珍しくもないが、なにせ幅275というデカさだけにタイヤの“厚み”は結構なもの。この辺もきっと、乗り心地のよさに影響しているのでしょう。
このアシと2.4tの重量級ボディーでもって、ディスカバリーはとにかくスムーズに、外乱なぞどこ吹く風の、泰然自若の体で走る。
これと並んで特筆すべきがエンジンで、試乗車に積まれていた3リッターV6ディーゼルターボの力強さは、ガソリンはもちろん、ちまたの4気筒ディーゼルとも一線を画すもの。「排気量に勝るチューニングなし」というのは、過給機が付いても燃料が違っても変わらない真理である。さらにいうと、このエンジン音がイイのよ。負荷をかけたときの「ゴアァ~!」という息づかいには、スポーツカーとはまた違うSUVならではの力強さがあって、クルマのキャラクターとも非常にマッチしていた。
あらためて、ディスカバリーは良いクルマでした。「お値段約800万円~な高額商品にしてはイバリが利いてない」なんて向きもいるかもしれないが、メッキギラギラのドヤ顔系SUVなんて掃いて捨てるほどいるんだし、ディスカバリーはこれでいいの。能あるタカはなんとやらですよ。
(文=webCG ほった/写真=田村 弥)
往年の味が戻ってきた
アストンマーティンDB11 V8……2278万1177円
力強さ、速さ、美しさ。アストンマーティンを形容する言葉はいろいろ思いつく。しかしDB11 V8に乗ってまず頭に浮かんだのが「優雅」の2文字。約30分間の試乗を終えて、降りるときにも同じく「優雅」という後味が残った。
DB11はその居住まいが優雅だ。カタログに記されたスリーサイズは4750×1950×1290mmというものだが、実際に見ると幅の広さが印象的だ。緩やかな弧を描くルーフラインは伸びやかに後方へと流れ、短いデッキを経て、リアエンドに達すると、鋭角的にキュッと内側に折れる。ただ優雅なだけでなく、締めるところは締め、絞るところは絞って、抑揚に富んだデザインである。
0-100km/h加速をわずか4秒でこなす4リッターV8ターボエンジンは、確かにとてもパワフルだ。スロットルペダルをそれほど深く踏み込まなくても、西湘バイパスの流れにあっという間に乗れてしまう。もっともそんな“一発芸”は、このクルマの真骨頂ではない。試乗路の西湘バイパスの最高速度は70km/h。トップギアの8速には(メーター読みで)70km/h台後半にならないと入らないので、DB11にとっては微妙な速度域といえる。しかしいざ入ればエンジンは1000rpm程度で回っているにすぎず、その存在はほとんど感じられない。誤解を恐れずに言うなら、日常的な乗り方においてエンジンはむしろ脇役なのだ。遮音も優れており、乗り心地もしなやか。スーパーカーというより、ラグジュアリーセダンのステアリングを握っているような錯覚に陥る瞬間がある。
DB11は基本的にはシャープで軽いフットワークを備えたスーパースポーツカーだが、昔のアストンマーティン、具体的には「DB7」以前のモデルが持っていた、グランツーリスモ的なおおらかさが、ちょっと戻ってきたような気がする。
(文=webCG 竹下/写真=田村 弥)
ドアを閉めれば別世界
ロールス・ロイス・ファントム エクステンデッドホイールベース……6540万円
2018年のJAIA輸入車試乗会で、この「ファントム」だけ発着場所が別だった。超のつく高級車だからか、テストドライブが“後席試乗”に限られたからか、理由はさまざまあるだろうけど、「大きすぎて普通の駐車スペースに止められない」というのも、理由のひとつに違いない。ボディーサイズは全長×全幅×全高=5990×2020×1646mmで、ホイールベースは3770mm。実際目の前にすると、しばし言葉を失う存在感だ。
室内も、当然のように広い。勧められるまま後席におさまると、ひざから前席までは60cm(実測)もある。筆者は小柄だが、体が大きなひとだって余裕で足が組めるだろう。
気持ちのいいレザーの触感。上質なクロームの輝き。そして頭上には、星空を模したライティングが施されている。月並みながら「別世界」というしかないが、このファントムがほかのクルマと明らかに違うのは、静かさだ。まわりに多くのひとがいて、傍らの幹線道路をびゅんびゅんクルマが走っているのに、その音はまったく聞こえない。走りだせば車体が動いていることはわかるけれど、やっぱり静か。静か過ぎて、かえって同乗者と会話がないと息苦しい……なんて感想は、意地悪に聞こえるだろうか。
実際のオーナー像をインポーターに聞いてみれば、8割が会社の経営者で、残り2割のうち、多くはいわゆる著名人だそう。ロールス・ロイス車からの乗り換えが多いというので、買い替えの際に比較検討されるとしたらどんなクルマか伺うと、「別荘、あるいはアート」との答え。そもそも自動車がライバルになることはないらしい。
前述のとおり、今回はステアリングを握ることは許されなかったけれど、オーナーの多くは、積極的に運転もされるという。たしかに2750kgの車重を物ともしない走りっぷりを体感すると、ファントムならではのファン・トゥ・ドライブがあるのかも、と期待が高まる。「大きくても(ボディーの)見切りはいいし、後輪操舵も付いているから取り回しは楽ですよ」とは、この日のショーファーの方の弁。次はぜひ、運転させてください!
(文=webCG 関/写真=峰 昌宏)

webCG 編集部
1962年創刊の自動車専門誌『CAR GRAPHIC』のインターネットサイトとして、1998年6月にオープンした『webCG』。ニューモデル情報はもちろん、プロフェッショナルによる試乗記やクルマにまつわる読み物など、クルマ好きに向けて日々情報を発信中です。
-
第4回:これぞ紳士の国の乗り物
輸入車チョイ乗りリポート~イギリス編~(その1) 2018.3.12 出展ブランドの多さもあってか、今年のJAIA取材で最も試乗台数が多かったのが“みんな大好き”英国のクルマである。まずはMINIの「クラブマン」と「クロスオーバー」、「ロータス・エリーゼ」「レンジローバー イヴォーク コンバーチブル」の魅力をリポートする。 -
第3回:バラエティー豊かなモデルが集結!
輸入車チョイ乗りリポート~アメリカ編~ 2018.3.2 魅力いろいろ、クルマもいろいろ。JAIA輸入車試乗会より、グローバルSUVの「ジープ・コンパス」やマッスルカーの「シボレー・カマロ」、大型SUVの「キャデラック・エスカレード」に電気自動車「テスラ・モデルX」と、個性豊かなアメリカ車の魅力を紹介! -
第2回:ハンドルを握ればそこはヨーロッパ!
輸入車チョイ乗りリポート~ラテン&北欧編~ 2018.2.23 JAIA合同試乗会の会場から、お手ごろ価格なのに楽しさ満点の「ルノー・トゥインゴGT」や「シトロエンC3」、北欧プロダクトの香りただよう「ボルボV40 D4」、イタリアの名門が放つ「アルファ・ロメオ・ジュリア」「マセラティ・ギブリ」の魅力をリポートする。 -
第1回:これぞ“輸入車の王者”の実力!
輸入車チョイ乗りリポート~鉄壁のドイツ編~ 2018.2.16 JAIA合同試乗会の会場から、webCGメンバーが注目のモデルをご紹介! まずは圧巻の人気を誇るドイツ勢より、フォルクスワーゲンの「e-ゴルフ」と「アルテオン」、「アウディTT RS」「メルセデス・ベンツSクラス」「ポルシェ911タルガ4 GTS」の走りをリポート。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。