第489回:電動化と内燃機関の“両刀”で勝負!
フォルクスワーゲンに聞くこれからのパワートレイン戦略
2018.03.15
エディターから一言
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2018年3月6日、第88回ジュネーブ国際モーターショーが開幕した。フォルクスワーゲン(以下、VW)グループ全体としてより一層の電動化を推し進めていく戦略が打ち出されたが、一方で日本では先月、ディーゼルエンジンを搭載する「TDI」モデルの導入が開始されている。これから電動化と内燃機関をどうバランスさせていくのか。現地で、VW乗用車ブランド取締役会会長のDr. ヘルベルト・ディースに話を聞いた。
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変化を見せ始めたディーゼルを取り巻く潮流
VWグループは、2017年のフランクフルトショーで電動化戦略「ロードマップE」を発表している。これは、2030年にはグループの全ラインナップに電動パワートレイン搭載車を設定するというものだ。そして今回のジュネーブショーでは、各ブランドからその具体例が提示され始めた。VWブランドとしては、過去に公開してきた3種類の電動車、すなわち「I.D.コンセプト」であるコンパクトハッチバックの「I.D.」、SUVの「I.D. CROZZ」、MPVの「I.D. BUZZ」に続く第4弾モデルとして、グランドツアラーの「I.D. VIZZION」を披露するなど、電動化にかける思いは本気なのだと伝わってくる内容だった。
一方で、この電動化の流れを加速したのは、間違いなく2015年の“ディーゼルゲート”だろう。あれから約2年半が経過した今も、すべての問題が解決したわけではない。また2018年2月には、ドイツの連邦行政裁判所がシュトゥットガルトなど都市部でのディーゼル車の走行を禁止する判決を出したという報道もあり、同グループではポルシェがディーゼル車の製造中止を決定。トヨタも欧州でのディーゼル乗用車の販売から撤退する方針を発表している。
ただし、ポルシェはそもそもディーゼル車の販売比率が高くなく、VWグループ内でも新型EV「ミッションE」などで電動化を打ち出していく急先鋒(せんぽう)を担う戦略に沿った動きだ。トヨタも、ディーゼルよりハイブリッドに注力してきた経緯があり、小型車などで電動化を推進していくのは当然の流れだろう。ちなみに、大トルクの必要な「ランドクルーザー」や「ハイラックス」などではディーゼル車の販売が継続されるというから、“撤退”という報道はいささか早急だろう。
まずこうしたディーゼルへの動向を受けて、VWとしての戦略変更はないのか、Dr.ディースに尋ねてみた。
ディーゼル=悪役ではない
「いまディーゼルはすべてが悪者のように報道されがちですが、もう少し根本的な話をさせてください。例えば問題となっているシュトゥットガルトの市街地は、盆地に高層ビルが密集していてガス(窒素酸化物=NOx)がたまりやすい地形になっています。そしておよそ2年前は一年のうち800時間も排ガス濃度が規制値を超えていました。しかし昨年は35時間、今年は今のところ3時間です。明らかにNOxは減少傾向にあります。ドイツ全体でも昨年は90の都市で基準値オーバーが見られましたが、今年はあと20都市に対策を施せば基準値をクリアできる見通しがたっています」
現在、ドイツ国内を走るディーゼル乗用車は約1500万台。そのうちの約650万台が、ユーロ1~4の古い規制のみクリアしたモデルという。また公共交通のバスやトラックなども、平均寿命の13年前後にさしかかった車両が多く、過渡期にある。
「いまのユーロ6に準拠したクルマを供給すれば、この1年から1年半くらいでNOxの問題は間違いなくクリアできます。ユーロ5の車両に関してはソフトウエアのアップデートでNOxの放出量を30%減少することが可能です。もっと古い車両に関しては、VWが下取りをして環境インセンティブを出すようにしています。それによって新しいクルマに代替していただく。すでに約16万台を下取りしました。もちろん戦略として電動化は進めていきますが、いますぐディーゼルを全廃しなければならないという話ではないのです」
さらに、Dr.ディースは力強くよどみなく、ディーゼルの必要性を説く。
「われわれはディーゼルエンジン車を大量に作っていますし、ディーゼルが全廃になるとビジネスとして困るから必要だと言っているのだと、そのようにとらえられがちですがそうではありません。環境面を考えても、仮にいますべてのディーゼル車がガソリン車に置き換わってしまうと、CO2の排出量が増えすぎてしまう。それによって環境がもっと悪くなる可能性もあります。今はクリーンディーゼルに置換するほうが、ガソリン車を増やすよりもいい。企業のスタンスとしてこの方向で行こうと決めています。世の中にもディーゼルは悪ではないと何度も説明し、理解してもらう必要があると考えています」
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ドイツを走るクルマをすべてEVにしたら……
そういえば、先日日本へのディーゼルモデル「TDI」導入を機に来日したフォルクスワーゲンAGの先進ディーゼルエンジン開発部長エッケハルト・ポット博士も、「よくやめるのか? と聞かれるのですが、ディーゼルエンジンの開発は続けます。今後も内燃エンジンの改良は不可欠なのです」と意見を述べていた。そしてDr.ディースはこう話した。
「仮にドイツ国内を走っている車両をすべて電動化するということになれば、第一に一般的なドイツ人の使い方としては航続距離が長いので、今の電気自動車(EV)では性能が足りません。またドイツは脱原発を表明し、クリーンエネルギーへ転換する政策を打ち出しましたが、実際のところ50%は火力に依存しています。風力などへの転換を試みていますが、追いついていないのが現状です。このままでは電力が足りなくなり、そのためにより火力発電への依存度が高まり、さらにCO2を排出してしまうジレンマに陥ります。現状を鑑みると、SUVなどの大トルクが必要なクルマで長距離を移動する場合、ユーロ6もしくはそれ以降の規制をクリアしたディーゼルエンジンを活用するのが、最も効率のいいソリューションのひとつであることは、間違いないのです」
日本ではまるで明日にでもディーゼル車が全廃されるかのような報道が相次ぐが、その実はそれほど単純な話ではない。内燃機関か電動化かどちらか一方ではなく、二刀を使って、自動車百数十余年の歴史における大変革に立ち向かう必要があるようだ。
(文=藤野太一/写真=藤野太一、フォルクスワーゲン/編集=堀田剛資)

藤野 太一
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